第22話 仕返し
「直ぐに向かう。」
服装はこのまま対応しても問題無い。
急いで向かいつつも思考を止める事は許されない。
公爵が連絡も無しに急に来たのは治療の為とはいえ、急に公爵領を尋ねた私への仕返しだろう。
問題は公爵が何をしに来たかだ。
いや待て、答えの出ない問いをしていても意味がない。
「ふぅぅ……」
公爵の待つ部屋の前で、深呼吸をして自らを落ち着かせる。
慌てながら相手できるとは思えない、冷静になれ。
コンコン
ノックと同時にボスコが扉を開いた。
「失礼する、遅くなって申し訳ない。」
「いやいや気にしないよ、それよりもディカマン卿こうして会うのは久しぶりだね。」
「えぇ、お久しぶりですねイーウェル公爵閣下。」
「喋りずらいだろうし、もう少し軽くて構わないよ。」
「では、イーウェル公爵と。」
アラン・イーウェル公爵。
まだまだ20前半にしか見えないが実年齢は30歳、柔らかい笑みを浮かべながら話している。
「急に訪ねてしまってすまないね。
今は私の領が少し大変でね、今回来たのも何とか隙を見つけて来たんだ。」
「そうだったのですね。」
表面上は友好的に、だが部屋の空気はとても重い。
「私も執事も眠れないほど忙しいけれど、ディカマン卿が赤石病の治療法を見つけてくれたから助かったよ。」
会話にさりげなく入れ込んで来た。
まだ本題では無いだろうが、気は抜けないな。
「でも、まさか赤石病の原因が魔力だったなんてね。
最初に送られて来た資料を見た時は思わず自分の目を疑ってしまったよ。魔法薬での治療は絶対に不可能で使い道があまり無いと思われていた魔封石が有効とは。」
赤石病のこと、公爵領のことで雑談が続く。
私としては公爵との会話はかなり疲れる、早く本題を聞きたいのだが、こっちからキッカケを作るべきか。
「そうでしょうね。
私もあの本を偶然見つけていなかったら気づけなかったかと。」
「あの本?」
「伯爵家の歴代当主の書いた本です。
今までディカマン伯爵家が治療に当たった患者の症例が全て書かれている物で、魔法薬での治療不可と書かれていた症例に赤石病が似ていたので気づきました。」
本は実際に存在しているが赤石病に似た症例など書かれていない。
私が考えた公爵を納得させるための情報源。
その本は初代ディカマン伯爵が当時の王に褒美として貰った自らの血筋の者しか読めない本、公爵が真偽を確かめることは出来ない。
「ふむ、なるほどね。」
「その本のおかげで、なんとか赤石病の原因と治療法の特定は出来たのですが、その後の対応は少し間違えてしまったかもしれません。」
「その後の対応……治療法を他の貴族達に教えたことかな?」
貴族達に教える事で起こること、それは魔封石の大幅な値上がり。
公爵の動きを鈍らせる為に私も値上がりを狙っていたが、使い道もなく殆ど採取する必要が無かったことで数が少なく想像以上に上がっていた。
「えぇ、そうです。
多くの貴族達が少ない魔封石をかき集めてしまった影響でどこの商人も在庫が無く、あってもかなり高値になってしまったので、もう少し影響というものを考えた方が良かったと反省しております。」
「それは……」
わざわざ自分から弱味を話す理由だが、公爵にこの値上げに関与するつもりは無かったと印象付けるのと、ディカマン伯爵家としての対応は間違っていないとアピールするものだ。
公爵ならわかっているだろうが、国や貴族に報告書を送ったことについては何も触れていないのだ。
つまり、あくまで私の報告書は国から見れば正しく扱われ、それから起こる影響は自然な流れだったと伝えているのだ。
その影響で公爵家に不利益が起こったとしてもだ。
「その通りだな、ディカマン卿は間違っていない。正しい情報を共有しただけなのだから。」
ここまではただの確認だと理解している、公爵はあっさりと認めた。
「ディカマン卿は魔封石を持っていないか?」
「そうですね、大体400個ほどを所持していますが。」
「よければ公爵家に売ってくれないか?」
まさか直球で来るとは……
「ある分だけでいい、1つ銀貨30でどうだろうか。」
「今の魔封石の値段は1つ銀貨90ほどだと記憶しているのですが……」
仕入れ値が銀貨2枚だった事を考えれば、これ以上粘って公爵との関係を悪くしすぎるのは良くないか……
それに向こうが指定した金額だ、揉めることはない。
「一応は婚約関係にある公爵家の頼みです、1つ銀貨30で構いません。」
「感謝するよ。」
私の中では魔封石は公爵へ無償で提供する可能性も考えていたのに呆気なさすぎる。
「これでひとまずは安心できる。」
本当に安心したかのように力を抜いて椅子に体を預けている。
これが公爵なのか?
話があまりにも伯爵家にとってメリットがありすぎるのだが、公爵から発せられている圧はナーミスと同等。
何が目的なのかがわからない、魔封石の話から派生して公爵領への支援再開などの本当の要求を求めてくると思っていたのに何もない。
目の前に座る公爵はボスコが用意した紅茶を一口飲み、
「さて、話は変わるのだが。」
圧を更に増して再び話し始めた。
「娘とは良い関係を築けているのかな?」
今までのはただのお遊び、此処からが本当の対話だとわかった。そして油断すれば死ぬ、そう生物としての本能で理解した。
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