第21話 寝不足
最近ではあの護衛が怖いと若い女の子メイド達から苦情が来ているとボスコも言っていた。
ミナが公爵領で呟いていたあの時に護衛はクビにするべきだったかもしれない。
「さてと、最近は様子も見れてないしミナにも会っておくか。」
魔法を覚え始めたミナはバフとデバフが得意な支援系の魔法使いだった。
バフもデバフも魔力量が多ければ多いほど効果が増す魔法が多く、ミナの持つ魔道具と相性は最高と言える。
伯爵家の戦力が大幅に増強され、ある程度の敵なら問題なく対応できる筈だ。
あまり考えたくはないが、化け物揃いの主人公陣営と戦闘になったら伯爵家で同等に戦えるのは嫉妬の力を持つ私と魔道具で武装したミナぐらいだろう。
次点でナーミスとノールも戦えそうではあるが、あの2人はあまり巻き込みたくない。
正直に言えばボスコやミナを含む伯爵家に仕える者達も巻き込みたくない。
コンコン
「開いてますよー、どうぞー。」
「入るぞ。」
「え?!カリル様?!?!
いや、待っ──」
何故か焦ったような声を出しているミナ。
「調子はど──失礼した、外で待っている。」
魔法の訓練のため特別に与えられた個室に居るミナは、普段のメイド服を着ておらず、かなりラフな格好で過ごしていた。
ノックしたのが私以外の誰かだと思って適当に返事をしたら、男である私で焦っている。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
申し訳ない気持ちが湧き出てくる。
私が直接ミナに魔法を教えていたのは最初のうちだけ、ミナの魔法使い適性にあった方向性と訓練内容を作ってからはほとんど会っていなかったせいもあり、私が訪ねてくるとは思わなかったんだろう。
そのまま待っていると部屋の中からガタガタ、バタバタと物音が聞こえ始め、
バタン!
勢いよく扉が開いた。
「どうぞ、カリル様……」
「あ、あぁ。」
外を出歩ける私服に着替えたミナに淀んだ瞳で椅子へと案内される。
ラフな格好とは言ったがミナが着ていた服はとても可愛らしいパジャマ。
私なら見られても問題は無いと判断する服なのだが、ミナはあまり見られたくなかったみたいだな。
「さっきは、すまなかった。」
「いえ、私が着替えてなかったのが悪かったんです……
カリル様が来るとわかっていたならちゃんとメイド服に着替えてました、ちゃんとした服で対応しなければならないのに……」
「ん?」
落ち込んでいる場所が想定と少し違った。
どうやら私にパジャマ姿を見られたことがショックだった訳ではなく、ちゃんとした制服以外で話さないといけない現状に落ち込んでいた。
別に正式な場でもないし私は気にしない、だがミナは使用人として自分を許せないんだろう。
「私はそこまで気にしないのだがミナがそれだけ悩んでしまうのなら、1つ命令しようか。」
椅子から立ち上がり自分の服を整える。
「これから3日間、自由に過ごせ。
自由と言っても魔法の訓練は中止だ、久しぶりにメイド仲間と会話するでもいい。」
「?」
そう言って少し埃が溜まっているミナの部屋を見渡す。
部屋が少し荒れているのは魔法の訓練を詰め込み『ここに書いてある全ての魔法を覚えてもらう』と圧力をかけてしまった私のせいなのだろう。
真面目なミナは夜遅くまで訓練をしてしまい寝不足に陥ってる、目元に隈ができており明らかに眠そうだ。
「少し寝不足に見える、ゆっくりと時間を気にせず休むといい。」
私はここまで追い込むつもりは無かった。
言い訳になるがミナには期待していたし、実際にかなりハイペースで魔法を覚えていったからすぐに出来ると判断して訓練メニューを大量に用意してしまったんだ。
だがそれは間違っていた。
ミナが魔法を使えるようになったのは、寝不足になるまで訓練を続けたからで、この事態に早く気づけなかった私は自分が憎い。
この現実で簡単に魔法が覚えられるわけが無い。
レベルを上げたり特殊な本を消費すれば直ぐに魔法を使えるようになっていた知識とは違う、自らの魔力を操作し、詠唱の理解を深め、何度も試行錯誤することで使えるようになる努力の結晶、それが魔法だ。
「少し気を張りすぎているな。」
「そうだったのでしょうか……」
「もっと早くに気づければよかったんだがな、忙しくてもミナに会いにくればよかったと思っている。」
メニューは考え直さないとな。
「ではゆっくり休め。」
「わ、わかりました。」
少し雑談する予定だったが、かなり疲れていそうなミナを見て休ませる事が大事だと判断。
休むように伝え、そのまま部屋を出た。
私は今回の件から実際に見る大切さを学んだ。
「これから全ての場所を見て回ってみるか。」
新しく資金を振り分けた伯爵家、意外と資金が足りなかったり、逆に余っていたりしているかもしれないな。
使用人達が纏めてくれた資料も大切だが、実際に見て見るのも必要だ。
「行くべきところ……
使用人の食堂、倉庫、警備、は重要だな。」
今言った3箇所は今月から大幅に資金が増えた場所だ。
特に食堂は魔法薬師が増えている影響を強く受ける、様子を見て新しく人を雇う必要もあるだろう。
「カリル様!」
早速食堂へ向かおうとしたとき、背後から使用人が走ってきた。
「どうした。」
「じ、実は──」
走りながら私を探していたのかとても息が荒く、言葉が出ていない。
「深呼吸しろ、落ち着いて話すんだ。」
この焦りようは尋常じゃない。
「先ほど、イーウェル公爵様が、伯爵邸にお越しになられました。」
「!」
公爵が来ただと?
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