第18話 資金調達

「何かお飲みになられますか?一度落ち着かれたほうが……」


あまりの取り乱し方にミナが心配して声を掛けてきた。


「いや、本当にすまない……」

「そのぉ、帰り道の途中から何度か謝られていますが何かありましたっけ?」

「給料の話さ。」


知識の中にある悪徳貴族のように税収で遊び呆けている訳ではないのだが、誰でもない伯爵家の当主である私が公爵領を優先した結果で起こってしまったこと。

それなのにも関わらず、変わらない忠誠心を向けてくれる使用人達には謝らなくちゃいけない気持ちが強い。


「なるほど、更にカットされるんですね!

流石に1金貨の半額である50銀貨ぐらいまで下げられたら困りますが、80銀貨ぐらいまでならみんな納得してくれ──」

「ちょっと待て。」


給料を下げられるという話に何故こんなにも協力的なのだろうか。

いや、下げるつもりはないんだけどな?


「ふぅ、まずは勘違いを正そうか。

これから伯爵家に仕えている使用人の給料を現在の額から倍にする、これから増やすのでは無く正しい額に戻すだけだ。」

「えっ?!」


私の説明に目を見開き信じられないと言った反応をされた。

そんな動揺される事なのだろうか、もっと喜ぶと思っていたのだが……


「大丈夫なんでしょうか。

ボスコさんが言ってましたけど、伯爵家は少し資金事情が良くないって……」

「確かに良くなかったが、その原因である公爵領への支援は原因と治療法を見つけた事で打ち切れる。

その分を伯爵家に回せば余裕なんだ。」


公爵との契約、赤石病の治療。


それは原因が魔力、治療法として魔封石が有効だと判明した時点で終了できる。


細かい部分の契約を見れば、

『治療法を確立した場合、契約を達成とする。

また赤石病が落ち着くと確認されるまで赤石病に効く魔法薬を作成し納品する。』という記述であったからだ。


治療法は魔封石を使う事で確立し、そもそも赤石病に効く魔法薬を作る事は不可能のため納品もする必要は無い。


この一文を追加した公爵は『ディカマン伯爵家は魔法薬の名家』という情報を考慮したらしいが、今回に限っては裏目に出ている。

この文のおかげで伯爵家視点での契約は達成され、魔法薬の納品は必要無く、支援隊も撤退させる事ができるのだ。


「そうなのですね。」

「そうだ。

今まで苦労かけたが、これからはしっかりと働きに見合った報酬を用意する事ができるようになったんだ。」


割と真面目にちゃんとした給料は払っておきたい。


私が動いた事でこの先のシナリオがどうなるか不明だがこの時間軸のストーリーの最期である主人公による革命が起きたあと、この国は滅び殆どの貴族は処刑対象となる。

しかし領民による支持を受けていた貴族は、主人公が王となった新たな国に貴族として迎え入れられていた。


だがそんな未来が待っていたとして主人公に媚を売るつもりは全く無い、ただどんな状況になろうが問題ない備えをするべきなのだ。


つまり!


「拒否されても絶対に払います。」

「え?でも生活に必要な食事とか部屋は伯爵家が手配してくれていますし、そんなに貰っても使い道が無いんですよね。」

「ダメです。」

「えっと、給料減らしても良いですよって言われたら、雇ってる側として普通喜ぶのでは?」


ゆったりと揺れながら立ち上がり、頑なに断ろうとするミナへと近づく。


「増やす案を受け入れるか?」

「……拒否します。」


更に近づくとミナが少し下がる。

そんな事を繰り返していると壁に追い込む姿勢になった。


「(増やす案を)受け入れるか?」

「それは、ダメです。」


正直に言おう、今の状況が少し楽しくなってきて辞めるタイミングを失った。

なんなら私とミナは、お互いにちょっと楽しんでる雰囲気を感じてる。


何が楽しいのか自分でも理解できないが、変なテンションになっているのは間違いない。


が、


コンコン


ノックが聞こえた瞬間に恐ろしい速度で元の状態へと戻る。

流石に側から見れば変な事をしていた自覚はあり、実際に見られるのは恥ずかしかった。


「ボスコでございます。」

「入れ。」

「失礼致します。」


これからは真面目な話だ。

盗聴防止の魔道具を起動し、ボスコと向き合って話し始める。


「まずは私が公爵領に行った結果から話そう。」


話す内容は公爵領の状態、赤石病の治療、ベルトナ家の生き残りのこと、そして私が考えている新たな伯爵家の資金運用方法。


「以上だ、ボスコの意見が聞きたい。

私の案だからと気を使う必要は無い、容赦なくダメ出ししてくれ。」

「ふむ、まずカリル様の案に致命的な欠点は見当たりませんでしたし、反対は御座いません。

ですが公爵家を押さえ込むのは至難の業、資金関係の改善よりも、公爵家に抵抗するための備えを優先するべきかと。」


考えていた公爵を牽制する案は意外と時間が掛かる。


王族という最強の後ろ盾を手にするため、知識を元にした強力な魔法薬を作成し王家に届ける案だ。

王都にまで無事に着けば1ヶ月も掛からないだろうが、トラブルが起きて紛失したらかなり面倒な事になる。


できれば自らの手で運び出したい。


危険性を考えて、半年後の貴族家が次期当主を発表するパーティーのときに渡そうと考えていたんだが……


「それと支援を打ち切るので、公爵領に住む民からの印象は多少悪くなるかと。」

「それはどうでもいい。」


あんなクソ領に住む奴等に嫌われようとどうでもいい。むしろ私が嫌われてるのを理由に向こうから婚約破棄を言い出してくれれば楽だ。


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