第16話 給料

それは伯爵領に戻る馬車の中で起きた。


「ふむ……」


私は鑑定を終えたイヤリング型の魔道具の1つを眺めていた。

これも嫉妬の神殿で手に入れた物なのだが、今まで鑑定してきた他の魔道具とは違い、時間はかからず魔力も全くと言って良いほど消費しなかった。


(持ち主を選ぶ魔道具か……)


鑑定が楽に済んだのは、『早く私を相応しい持ち主のところへ連れて行け』という意思表示だろう。


知識の中には使用条件が設定されている装備もあったし不思議ではないのだが、嫉妬の神殿から手に入れた物で嫉妬の力を持つ私が使えないと言うのは少し複雑な気分になる。


「それはなんですか?」

「ん?あぁ、イヤリング型の魔道具のひとつだ。」


鑑定を終えた魔道具を持っていたのを不思議に思ったのかミナが聞いて来た。


「魔道具ですか?」

「そうだ、装備した者の魔力を増強するという効果を持つ魔道具だ。」


本当はそんな可愛らしい効果ではない。

実際の効果は人が自らの魔力を回復する機能、我々は魔力炉とよんでいる物と同じ効果を持っている。

つまり魔力の回復量が単純計算で倍、しかもイヤリング自体に魔力を蓄える効果もついており、魔力を気にせず長時間戦うことが可能になる。


そんなヤバイ物を全て説明する訳にはいかないのだ。


「私が使えないのが惜しいな……」


嫉妬に頼らない強さを求めるなら、この魔道具はとても都合が良かった。

まぁ、物事は上手くいかないのが当たり前だ。


「使えない?」

「どうやら使うのに条件があるようで、私ではその条件に合わなかったみたいだ。」

「条件とは、なんなのでしょうか?」

「魔道具に気に入られるといった抽象的なものだ。獲得した時の状況やなんらかの能力ではないし、使えるかは運次第だろうな。」


説明を終えると同時にミナがイヤリングをジッと見つめているのに気づく。

このイヤリングは見た目だけなら女性が好みそうな装飾だ、可愛らしい花をベースに目立ちすぎない程度に宝石が埋め込まれている。


「よければミナが試してみないか?」

「えっ、良いんですか?!」


なんとなく聞いてみたがかなり食い気味だった。

付けてみたかったんだろう。


「良いぞ。」

「ありがとうございます!」


イヤリングをミナに渡す。


「え?」


楽しそうにしていたミナは渡されたイヤリングを見て固まってしまった。


「ん?どうした?」

「……」


これはヤバイかもしれない。

鑑定がすぐに終わったから油断していた、使う人を選ぶ事ができるなら人を騙すことも可能なはず。

直ぐにでもイヤリングをミナから取り上げるべきか?


「あっ、えっと……」

「大丈夫か?!」

「は、はい!

えっと、そのこのイヤリングから声が聞こえて……」


声が聞こえた?


「何を言っていたんだ?」

「え、えっと少し乱暴と言いますか……」

「乱暴でも構わないから全て教えてくれ。」


深呼吸を数回繰り返してから口を開いた。


「『いいじゃん君、この僕を使うのに相応しいんじゃね?』」


は?


声真似のつもりなのか変な声で話すミナ、顔が少し赤くなっているし恥ずかしいんだろう。


「『いやさ、目の前の男は素質はあるんだけどちょっとね。その点なら君は可愛いし、僕のモチベも上がるってわけよ。

そんじゃ、これからよろしく!』

……って言ってました。」

「それだけか?」

「そ、それだけです。」///


予想以上の知能にも勿論興味はあるんだが、もう少し話し方どうにかならなかったのか?

手当たり次第ナンパを繰り返す男みたいな話し方だ。


「会話は自由にできるのか?」

「いえ、今は声聞こえないので自由ではないかと、でもイヤリングを捨てちゃいけないっていうのが感覚でわかります。」


試しに私がチャラいイヤリングに触れてみると強い抵抗を感じ、直ぐに離したというのに腕が痺れた。

嫉妬で純粋な人で無くなった私ですら弾かれる普通の人間では触ることすら出来ない、実質ミナ専用の魔道具へと変貌してしまった。


帰ってからやらないといけない事が増えた。

ミナに色々と説明しないといけないし、魔力の使い方も教えないと魔道具が暴走する可能性も高い。


「すまないが暫くの間は私から離れることを禁ずる。事情は帰ってから説明しよう。」

「かしこまりました!」


何故かミナは機嫌が良くなった。


「付けてもいいですか?」

「そのイヤリングはミナの物になった、自由に付けて構わない。」

「ありがとうございます!大切にします!」


偶然とはいえ私がプレゼントしたようなものだからかミナが喜んでいるのを見て嬉しい気持ちになる。


裏切られる可能性も僅かにあるだろうが、伯爵家の人間が強くなってくれるを考えれば、他の使用人にも魔道具を配るべきかもしれない。

ボスコを含む数人の信頼できる者には嫉妬の神殿で手に入れた魔道具を渡すことにしよう。


特別ボーナス的な物だと説明し──


待てよ?


伯爵家は公爵領にかなり支援をしている、いくら魔法薬という強力な商売道具があるとはいえ厳しいんじゃないか?


「急にすまない、自らの無知を晒すようで悪いんだが、ミナは給料としていくら貰っているんだ?」

「私ですか?私は金貨1枚ですよ。」


金貨1枚……!

街に住む殆どの者達より低く、貴族に仕える使用人としては最低クラス、つまり男爵家の使用人と変わらない。


伯爵家に仕えているのにだ。


「あぁぁ。」


最優先だ、伯爵家に着いたら最優先で資金関係を見直さねば!


「すまなかった。」

「えっ、何がですか?」


明日には伯爵家に着くだろう。

振り回したボスコには申し訳ないが、これから暫くは眠る暇もないぞ。

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