101:ダチョウとすごくつよいの


「ねー、外でちゃダメなの?」


「何度もダメと言っているでしょうサフィーヤ様。ご自身のお立場をご理解くださいませ!」


「ちぇ! こんなんだったら特記戦力なんてなるんじゃなかったや!」



場所は獣王国の北東に位置する国家、タンタ公国。


ちょうどそこには、獣王国との国境線に向けて進む一団がありました。紋章など身分を示す様なものは見受けられませんが、多くの護衛とお付きの者。そして外から一切内部が見えぬように厳重に覆われた馬車のようなものを駱駝が轢いていることから、身分の高い者がお忍びでお出かけしているのだと推測できます。


事実、その馬車の中で不満を漏らしているのはタンタ公国における第二王女にして最大の個。南大陸最強と名高い特記戦力のサフィーヤです。子供っぽい言動と大人とは思えない程平坦な胸部装甲のせいでよく勘違いされますが、一応成人済みです。



「……む! なんか今とてつもない侮辱された! 処刑しよ処刑!」


「何を言っておられるので? とにかく御身の居場所が他国。特に帝国に露見するのは避けねばならないのです。姫の為にいくつもの集団が“ブラフ”として動いているのですよ?」


「はいはーい! もう文句言わないからお小言はご勘弁!」



同じ馬車の中に乗るお付きの女官にそう言いながら、背もたれに向かって倒れ込む彼女。


特記戦力である彼女の居場所は、まさに値千金と言える情報です。敵の最大戦力がそこにいないと解れば戦術が組みやすくなるし、兵士の士気も維持することができる。帝国と長い間戦い続けている公国は、自国内部へと諜報員が入り込んでいることを想定し、現在彼女の集団と同じものを国内へと大量に散りばめていました。



(意味は解るんだけどさー! 自由に遊びに行けないのはほんとヤダ! パピィも来れなくなっちゃったし! これも全部帝国ってやつのせいなんだ! きらーい! べ~!!!)



本来、獣王国との会談の場には彼女だけでなく、公王である彼女の父も出席する予定でした。獣王国側であるレイスたちが獣王本人と、その宗主国であるヒード王国のルチヤが出席するのです。公国側も王を出さねばいけませんし、レイス対策に特記戦力を出さねばなりませんでした。


けれどどこから情報が漏れたのか、それとも相手側が中央の政治に合わせて功を焦ったのか。真実は解りませんが、公国が今も戦争を続けている帝国側に動きがあったのです。



(あっちの特記戦力は粗方潰したし、次来るとしたら無駄に高い質で整えた大量の兵による面制圧。だったら一対多が出来るパピィやねぇねが張り着いといたほうがいいってのは解るんだけどさ~。)



そんなこんなで彼女一人で挑むことになった会談。


サフィーヤがこなすべき公国の主目的、今回の会談に置いて手に入れたいものは『穀物の安定供給』です。レイスの前の獣王の時代に結ばれた条約、タンタ公国側の力が強かったことから公国有利に結ばれたそれは、獣王国が不可侵の見返りとして大量の質の良い穀物を渡す物でした。


何せ公国は、ずっと帝国と戦い続けている国です。糧食として必要なカロリーを補うには大量の穀物を揃えなければなりません。無論完全に他国に頼り切りなわけではありませんが、つい先日まで大量に流れて来たご飯が急に止まれば、とっても困るのは明白です。



(ボクが生まれる前は普通に金銭で取引してたみたいだし、別にそれに戻してもいいってパパは言ってたけど……。会談がうまーく纏ったら、『“金銭取引”か“無償提供”』を賭けて模擬戦しなきゃ。ボクなら絶対勝てるし~!)



無論、それ以外の選択肢もあります。


もし相手側、レイスたちが元より融和など考えておらず穀物も渡さないとなれば、サフィーヤが全力で動くのです。一対一に特化した『最強』ではありますが、それを延々と繰り返せば国を構成する民全てを切り殺すことぐらい簡単にできてしまいます。一人でそのまま獣王国のみならずヒード王国、そしてナガン王国まで走り抜けてしまえば、最近できたらしい連合国も終わり。


公国が一番抑えておきたい獣王国の穀倉地帯だけ併合し、それ以外は他の包囲網形成国にプレゼントしてやる。そういう絵空事を、彼女は考えている様ですね。



(そんなことしたら疲れるしボクの居場所が帝国にバレちゃうから最終手段みたいなものだけど。……ま、難しいことはパピィに全部任せておけばいいや!)


「……また公王様にお任せすれば良いとか考えていらっしゃいましたね?」


「ぎくっ!」


「はぁ、今は亡きお母様が見られらたらなんと仰るか。……ともかく! そろそろ国境線に到着いたします。いくら姫様がお強くても、姫様は王族で、あちらは王です。どうかご無礼の無いようにお願いいたしますよ?」


「わかってるってー。」



女官の言葉にそう返した瞬間、ゆっくりと馬車の動きが落ち始め、完全に止まる。馬車に窓などがないため周囲の様子を把握できなかったが、どうやら国境線へと到着したようでした。


少し憂鬱そうに息を吐き出したサフィーヤは、意識を切り替えながら準備を始める。


服装を整え、最低限だが顔を隠すためのベールを被り、女官に化粧とそのほかの最終確認をお任せ。そして最後に手に取るのは、自身が愛用し最も頼りに出来る愛剣2本。普段の戦い、それこそ王女としての仕事だけであれば1本だけで足りるでしょうが、今回は最悪特記戦力との戦いになります。


ならば出し惜しみは必要ありません。



(私に敗けたおじさんだったけど、前の獣王は決して弱くなかった。ってことは今の獣王、結構強いってことだよね? ……あー、もう会談とか腹芸とか政治とか面倒だし、最初に喧嘩吹っ掛けちゃおっかな? 相手の“性格”見るにはこれが最適だし、強さ見せつけたらあっちも強気に出れないでしょ。)



そんなことを考えながら、扉を開け先に外を確認した女官に促され馬車から降りる彼女。


既にそこには大量の兵と天幕が並べられており、公国と獣王国がにらみ合うような形が生み出されていました。少し前までは友好国でしたが、今は敵対国。それが今度どちらに進むのかは今日の会談で決まると言っていいでしょう。上手くいけば違う国同士ながら勝手に国境線を越えて互いの夕食に招待しあうような関係に戻れますが、失敗すれば殺し合いです。


一瞬そんなことに思い至る彼女でしたが、既に彼女はそんな場面を何度も切り抜けてきました。能力を発現させ、強さを証明した瞬間から王族として最前線で帝国との戦いに身を投じて来たのです。自分の一挙一等速で全てが決まるなど、よくあること。自分に“考える頭”が無いことを理解しているサフィーヤは、先ほど思いついた“直感”に身を委ねます。



「ん? あぁいたいた。アレか。」


「姫さまっ!」


「あ、ごめん。口に出てた? んじゃ挨拶して来るね~。」



他国の王をアレ扱いしたことに怒られるサフィーヤでしたが、悪びれずそのままゆっくりと新たな獣王、レイスに向かって足を進めていく彼女。


そしてその手は、しっかりと剣の柄の上に置かれているのでした。







 ◇◆◇◆◇







あー。はい。そういう感じの人ね?



(いやさ、気持ちは解るんだけどさ? こっちの世界そういう戦闘狂みたいな人多くない?)



どうどう、今日は獣王モードでお邪魔してるレイスちゃんだよ? 子供のことが心配過ぎて色々集中できないダメなママです。いやほんとに大丈夫かな……。


ルチヤと話していると、視界の端に見えた馬車? の一団。なんかラクダみたいだけどなんか違うような生物に引っ張られていた車体を発見した。んでちょっと待ってみればそれがこの国境線に到着して、その中から現れたのは『帯剣したお姫様』って感じの人。あ、西洋のお姫様って言うより、アラビアンな感じの人ね?


んでその人が例の最強にして第二王女だとあたりを付け、ずっと彼女の方を見ていたんだけど……。明らかに『斬りかかる』姿勢を維持してらっしゃる。殺意とか害のある意思は感じられないし、どっちかというと犬が玩具加えながら遊ぼうよって走ってきたようなイメージなんだけどさ? 攻撃の意思はバリバリに感じられるんだよね。



(多分交渉前に信じられる人物かどうか喧嘩して判別しようぜ! って感じなんだろうけど、犬は犬でも山ぐらいデカいケロべロスって感じなんだよな、彼女。)



これまで出会って来た人たち、特に特記戦力に当てはまる様な奴らはどれだけ行っても『高原で普通に生存できそう』って感じだったのだが、ゆっくりとこちらに近づいてくるあの最強さんは『高原で一区画普通に支配下に置けそう』だと理解できてしまう。一部の物理無効勢には手も足も出ないだろうが、高原上位勢とやり合えてもおかしくない。それほどの存在感を感じてしまう。


まぁそれぐらいなら高原で何度も感じて来たから特に委縮しちゃうとか、緊張しちゃうとかはないんだけど……、そういう『模擬戦』の体で挑まれちゃうとこっちの“無差別攻撃”が出来なくなってしまう。殺し合いに発展しない以上ある程度力をセーブしなきゃならないし、互いの国境防衛部隊が集まるこの場所で戦う以上、周囲にも気を配らなけならない。


更にこちらも相手の情報を得ることができるだろうが、こっちもいくらか情報を渡さなければならない。まだぶつかったことないからどうなるか解んないけど、相性が悪すぎた場合普通に不味い。


かといって受けないって選択肢もないしなぁ。



(今後の友好を願って、とか言われたりしたら断われないし。ここで変に渋って『コイツ信用できん!』って思われたら困る。とりあえず広範囲系&属性攻撃はなしで受けるしかないか、それなら威力も抑えられるし。)



そんなことを考えていると、ようやく目の前に彼女が到達する。



「はっじめまして! キミが新しい獣王ちゃんだよね?」


「……えぇ。」


「やっぱり! あぁ、ボクね? サフィーヤっていうの。タンタ公国の第二王女! あ、『大陸最強』って言った方が解りやすいかな? あははっ!」



もっと重い感じ、それこそ格式高いやり取りから始まるのかと思ったが、彼女の口から出てきたのは近所の知り合いに話しかける様な快活な声。私の後ろに控えているルチヤから驚いているような雰囲気が感じられるし、そもそもサフィーヤのお付きの女官さんみたいな人が顔を覆いながら空を見上げてらっしゃる。


あ、やっぱこれ礼儀的には駄目なやり取りなのね? いや高原みたいな野蛮ちほー出身だからそう言うのは気にしませんけど……。一応王様だし礼儀正しく返した方がいいんだよね?



「えぇ、確かに。申し遅れました、先日獣王となりましたレイスです。して、公王殿はどちらでしょう? 今日はお二人がいらっしゃるとのことでしたが。」


「あれ? まだ伝令とか届いてなかった感じ? いやちょっと帝国が変な動きしててさ。相対してた方面軍の特記戦力は粗方切り殺したから問題ないんだけど、それ以外の兵がちょっとね? だから今日は私だけなの。」


「そうでしたか……」


「あ! でもでも全権とかそう言うのはちゃんと委任してもらってるから、問題ないよ!」



今この人帝国の特記戦力を粗方切り殺したとか言った? こわぁ。


というか話し方からして、一方面軍に特記戦力が複数いる上に、本国とかにはもっと控えてるってこと? こっち一国に一人がせいぜいだよ? 帝国もこわぁ……。


そんなことを考えていると、眼前の彼女の雰囲気がより“戦闘”へと寄る。


即座に羽を広げ、後ろのルチヤを庇う形に。一瞬最初から殺し合いが御所望だったのかと思ったが、彼女の背後に控えていた女官さんが悲鳴を上げながら土下座を敢行しているあたり、一応違うのだろう。



「んでさ。早速会談とかでもいいんだけど……。」



何かブレたと感じた瞬間、私の首元に置かれた彼女の剣。


……動きの起こり含めて、マジで見えなかったな。最低でも音は超えてると見て良い。



「ちょっと遊ばない? 模擬戦しよ、模擬戦。」


「えぇ、お受けしましょう。ただ……。」



全身に回していた魔力をより活性化させ、それまで休ませていた体内魔王どもを叩き起こし、細切れにして魔力へと変換。あらかじめ起動してあった常時回復のみならず、常時硬質化も動かし始める。


羽で首元に置かれた剣を払いのけ、後ろにいてくれたルチヤに軽く笑いかけ距離をとってもらえば……。



「ケガは自己責任でお願いしますよ?」


「あはっ! いいね、そう来なくっちゃッ!」



戦闘開始だ。



「先手は譲って、とわぁ!?」



彼女が何か言おうとした瞬間、片足を地面へと叩き込みながら5人分の魔王を送り込み、『整地』を行う。


私の攻撃手段、特に中遠距離は過去獣王が使用していた『魔力砲』をメインに置いている。最近はようやくそこに属性の付与が出来るようになったが、それだと威力が強すぎるため今回は封印。けれどそれを封印したとしても、『魔力砲』自体の破壊力はかなり高い。


簡単に言えば、周囲への被害が大きくなりすぎるのだ。もしこの最強ちゃんが回避しちゃった瞬間、その後ろにいた関係の無い人たちが吹き飛んでしまう。



(ついでに砂漠っていう私に不利な足場を変えるために、位置を上げさせてもらうよッ!)



選択したのは、戦闘場所の変更。


魔力が世界に影響を与え、巻き起こるのは私と彼女の上昇。地面が勢いよく起き上がり、生成される巨大な足場。小さなビル程の面積と高さ、そして足を取られない確実な硬さを誇るそれは、射線上に『関係のない奴』が入り込む危険性を減らしてくれる。



「じゃあ小手調べから。」


「ぴぃ!? 魔力量どうなってんの!?」



環境の変化に声をあげる彼女に向かい、先手を譲ってくれた礼として生み出すのは、魔力球10個。一つ一つが私の体内魔王に匹敵するエネルギーを持つソレ。彼女を囲う様に構築された球体は即座に起動され、全方位から魔力砲を叩き込んでいく。


けれど未だ聞こえる、甲高い声。先ほどまで射線が収束する位置にいたはずの彼女が私の頭上に飛び上がっていた。



(移動の起こりはやっぱり不明、でも初手の聖地には対応してこなかったのを見ると、意識外からの攻撃はまだ通る可能性がある感じか。少なくとも完全に対応しきれない程速いわけじゃない。)


「じゃあこっちからも、行くよ!」



そう考えていた瞬間、瞬時に私の目の前に出現する彼女。その手には、既に振り上げられた曲剣が一本。既に回復しきっていた魔力を再度叩き起こし、魔王3人分を羽へとつぎ込み、硬質化を施してからそれを受ける。


響く、金属音。



「おぉ、結構本気でいったのに受け止められた! すごいね君! ……あとマジで魔力どうなってんの? なんか回復してない???」


「そこは企業秘密ってこと、でッ!」



かなりの魔力を送り込んだはずだが、それでも硬度が足りず十数枚の羽と肉が切断され、骨で剣を止める。流石にあちら側も少し刃がかけたようだが、想像以上に力が強い。即座にフリーな足をその腹部目掛けて叩き込もうとするが、接触する前に視界から彼女の姿が消える。


瞬きの後に彼女が出現したのは、先ほどまで彼女が立っていた場所、多重魔力砲で消し飛ばした場所に体を移している。



「なんか前のおじさんの完全上位互換、って感じだね。……そういや名前聞いたっけ? あ、敬語とかそういうの無しね? 私堅苦しいの嫌いなの。あ、サフィーヤじゃなくてサフィって呼んで! 結構強いし、愛称で呼ぶの許しちゃいまーす!」


「……そりゃどうも。さっきも言ったけど、レイスだよ。よろしくって言っておいた方がいい?」


「レイスねレイス! うんうん! ……なんかそう言う名前の幽霊の魔物いなかった?」



いるらしいね。ちょっとイントネーション違うみたいだけど。


……ちょっと戦ってみてわかったが、やっぱり彼女の行動の起こりってのは全く見えない。気が付けばどこかに出現していている。どんな生き物でも何か行動を起こすときに必ずあるはずの動作が全く見えない。踏み込んだりするときの膝の曲がりとか、重心の移動とか、そう言うのが全く。


そういう起こりも含めて滅茶苦茶速いから目で追えないっていう可能性もないわけではないが、私の目玉はダチョウの目玉だ。高原でも戦える目の良さを持っててもそれが解らないってことは……。



「無法だね、ほんと。こっちが認識する前に首落したりとかもできるんじゃないの?」


「あははっ! 正解! ……でもそっちも十分無法じゃない? そもそもの魔力量の大きさヤバいし、なんか回復してるし。ボク魔法系じゃないからあんま解んないけど、ねぇねが見たら意味不明過ぎて発狂しそう。というか国上げてスカウトしに行くかも、今からウチ来ない?」


「他国の王をスカウトとか、頭おかしいので?」



そう口にしながら互いに笑みを浮かべ合った瞬間、再度戦闘が開始される。


今度は“魅せる”気なのだろう。先ほどまでの瞬間移動かと思うほどのモノではなく、通常の人間同様強く踏み込んでこちらに走り寄る彼女。けれど既に私の眼で追える限界の速度で、その口元はとても楽しそうな笑みが浮かんでいる。


一瞬彼女が対応できる限界を調べるために再度魔力砲を打とうかと思ったが、一応この場は模擬戦。単に使えない状態、能力の冷却時間なのかもしれないが、『こちらの反応を見るために使ってない』可能性もありうる。



(私が信用に値する人物かどうか調べるって体の模擬戦ならば、ここで『合わせない』必要があるよね。となるとこっちも魔法を使用せず肉体だけで受け止める方針にすべきか。)



先ほどは羽で受けたが、3体では足りなかった。ならばもう最大の10体を使用するしかないだろう。


なんかギョっとしている体内魔王たちを纏めてこまぎりにし、魔力へと変換。瞬時に復活して来るそいつらを継続的に細切れにしながらも、全て身体の強化に使用していく。硬質化の向上のみならず、身体能力の強化も。


本気で戦うのであればここからもう一手、死霊術師と戦った時に辿り着いた通称丸焼きフォームこと、フェニックスフォームへと移行すべきだろうが、そこまで手札を明かす必要はない。



「ちょっと打ち合わせて、よっ!」


「ㇱ!」



強く踏み込みこちらへと剣を叩き込んでくる彼女を、足爪をもって受け止める。


羽よりも何倍も固く強い筈の爪だが、あちらもより本気を出してきたのだろう。少しの痛みと、ひび割れたような音が響く。切り落とされようともすぐに再生するのは確かだが、レイスちゃんちょっとびっくり。そこらの金属よりも固い筈なんだけどな?


そんなことを考えながら、サフィと呼んで欲しがる彼女と切り結んでいく。流石特記戦力と言うべきか、これまで見て来た中で一番剣の扱いが上手い。そして多分感覚タイプ、瞬時に相手が取る行動と自身がすべき行動に辿り着いて迷わず実行できる奴。


何とか食いついてはいるのだけど……。ほぼ遊ばれているようなものだね、こりゃ。



(でも剣自体はあんまりだな。質は良いんだろうけど本人より無法じゃない。)



彼女の速度に耐えられるだけの強度はあるみたいだけど、言ってしまえばそれだけ。剣の腹に向かって強い衝撃を与えたり、熱で溶かしたりすればすぐに破壊できそうだ。


この場ではやらないけど、もっと相手に動揺を与えながら壊す方法も脳裏に浮かぶ。無理矢理私の体に突き刺させて、肉体の再生でからめとって抜けなくするとか、内部で破壊して折っちゃうみたいな感じ。まぁ腰にもう一本帯剣してるしからすぐに対応されそうだし、それ以前に知覚できないまま細切れにされる可能性もあるんだけど。


……やったことないからわかんないんだけどさ。私って細切れになっても回復できるのかな?



「考え事?」


「ぁ。」



接近戦の最中に思考が逸れたのがいけなかったのだろう。相手の刃を受け止めるために放った足がブレてしまい、叩き込まれたソレを押しとどめることが出来ずに、弾かれてしまう。魔法を爆発させ距離を取れば避けることは可能だろうが、互いに今は速度と魔法を制限中。


再度振るわれる攻撃に対処することが出来ず、彼女の剣は私の首元すぐ近くで、静止した。



「……参りました。」


「参られました! えへー! 私の勝ち! ……なんか心ここにあらずって感じだったけど、なんかあったの?」


「まぁ、色々。」



実際に戦闘になった時のことやこの後の会談のことはもちろんだけど。お留守番してる子供のこととか、子供のこととか、子供のこととか……。



「おわ、凄い顔色。パピィもそうだけど、王様ってやっぱ大変なんだね。あ、レイスちゃーん。この足場元に戻してよ! 邪魔!」


「あぁ、はいはい。すぐにしますね。」








ーーーーーーーーーーー





Q:レイスは細切れになっても再生できますか?


A(レイス体内魔王十人衆からの返答)


1「延々と細切れにされた、いたい……」

2「労働環境を改善しろー!」

3「毎度グロテスクな状態に破壊されてから魔力にされますからね……」

4「けどまぁ慣れると中々」

5「なんかコイツ妹殿みたいになってない?」

6「たぶん細胞1個残れば何とかなると思いますよ」

7「いや1つも残らんでも何とかなるんじゃない?」

8「というか妹殿がレイスの就寝中に勝手に『不死』付与してるから死なないのでは?」

9「色んな意味でアイツ無敵だよね」

10「そもそも我々って何?」








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