第66話 文化祭終了後

 文化祭が終わる時間になって、店じまいをしているとクラスメイトたちが



「柚ちゃんはもう帰っていいよ! ねっ!」


「きっと家でお母さん待ってるよ!」


「え、いやでも」


「遠慮しなくていいから! ……あ、もしかしてまだお母さんが怖い?」

 

「そがいなんじゃないんじゃけど……」



 じゃあいいじゃん、ね? とみんなが柚を押す。

 善意のつもりだろうが……多分、柚が帰りたくない本当の理由を分かっているのは俺だけだ。

 俺は柚に助け舟を出すことにした。

 


「最後の最後まで居たいんだろ? 初めて心から楽しめる文化祭だもんな」


「あ……うん! そう!」


「な、なるほど……」


「よっ、さすが彼氏!」



 俺は熱くなった顔を手で隠し、柚は「だからっ、一緒に片付けさせて!」と焦った様子でみんなに自分の意思を伝える。

 ということで、柚も一緒に教室の飾りつけを外していく。



「ねぇねぇ、これってどこに運びゃあええー?」


「あーそれはね……」



 みんなと協力できて嬉しいのか、無邪気に笑う柚を見て俺は心臓の鼓動が一際大きくなるのが分かった。



「見惚れてるの?」


「うおっ、森さん……びっくりした……まぁそんなとこ」


「否定しないとこ、裕也くんらしいね」



 それは褒められてるのか?

 褒められてるって勝手に思っておくか。

 

―――――


「はいっ、じゃあこれにて解散です! 今日はお疲れ様でした!」



 珍しくテンションが高い学級委員長こと森さんの声で、みんなが一斉に教室から出ていく。



「疲れたー……けど楽しかったなー」


「じゃあお前またメイド服着ろよ」


「それとこれとは別だわ! でも男子だったら飛鷹が一番似合ってた気がする」


「ちょっと分かってしまう自分がいるな……」


「うちの店結構人気だったね!」


「ねー嬉しい! やっぱり柚ちゃんの執事服がカッコ可愛かったからかな?」



 話題はもっぱら今日の文化祭について。

 ってかおい、誰か俺のメイド服が似合ってるって言ったよな、おい。

 文句を言いたかったけど、陰キャにそんなことが出来るはずもなく。

 俺がため息をついていると、背中をぽんっと叩かれた。



「ゆうちゃん、帰ろ!」


「おう」



 そう言われるだけで口角が上がる。

 すると、



「私達も途中まで、いいですか?」



 と言って森さんと大野が話しかけてきた。

 俺達は「もちろん」と言って、四人で教室を出る。



「最近『ギルティィィイ!!』って言われること少なくなったね」


「あー、そういえば……」



 俺達がそう話していると、曲がり角から誰かがひょこっと顔を出した。



「呼んだかー?」


「「「「久しぶりに出たな(ね)!?」」」」


「いや無遅刻無欠席だから! 毎日教室に顔出してるから!」



 「皆勤賞目指してるから!」と叫ぶのはギルティ野郎こと猿岡。

 なんていうか、うん。ギルティ以外のセリフ言えるんだってことに感動。

 大野が広島から転校して来た頃にはあんまりギルティって言わなくなってたから、大野は「?」って顔してるけど。

 俺は言わなくなった理由が知りたくなって尋ねてみた。



「なんでギルティって言わなくなったんだ?」


「俺が上から目線で文句言う立場じゃねえって気づいたんだよ」


「は?」


「松永さんはもっと上の立場なんだよぉ!」


「お、おう……?」


「あ、でも松永さん親衛隊はまだひっそりと活動を続けているからな」


「それ本人の前で言っていいのか?」



 よく分からん……。

 そんな俺達の顔を見て、猿岡はまんざらでも無さそうな表情で言った。



「そんなに俺の叫びが聞きたいなら言ってやろう――ギルティィィイイイ!!! じゃあなっ! フハハハハ!!」



 そう言って走り去っていく猿岡の背中を見ながら、俺達(大野除く)は――



「おおっ……!」



 と感激していた。

 久しぶりに聞くと実家みたいな安心感があるなぁ……。今住んでる家が実家だけど。



「え? なんで感動してんの?」



 大野の意味不明といった表情が面白くて、思わず吹き出す。

 そのまま森さんと柚に笑いは伝染し、大野だけが状況を理解できない状況になった。

 森さんが笑いすぎて涙を浮かべながら大野に言う。



「いや、まあ、気にしなくていいからっ……ふふふ……」


「え、めっちゃ気になるんだけど」


―――――


「じゃあ、また月曜――いや月曜は今日の分の休日振替休日か。火曜に!」


「おう、またなー」


「ばいばい、柚」


「うん! ばいばーい!」



 そう言って校門の前で反対方向の大野と森さんと別れる。

 今日の柚は特段テンションが高い。まあ無理もないか。



「無いとは思うけどもしも家に帰ってなんかあったらすぐ連絡してうち来いよ??」


「うん、心配ありがとの。流石にあの涙は嘘じゃない思うけど、一応ね」



 その後、今日の文化祭の感想を言い合っていると柚の家の前についた。



「じゃあな」


「うん! ……あ」



 柚がなにか思い出したようにこちらに駆け寄ってきて、そのまま俺に抱きついてきた。

 俺は突然過ぎることに目を白黒させる。


 えっ、待てどういう状況だ!? 心臓が爆発する!



「今日は本当にありがとの!」



 上目遣いではにかみながらそう言った柚は、照れたように俺から離れて家に駆け込んだ。

 俺はしばらく突っ立っていたが――



(うわぁぁああああああああ!!!???)



 心のなかで叫びまくりながら膝から崩れ落ちた。


―――――


(柚視点)


「……たっ、ただいま!」



 緊張で第一声が裏返っちゃったけど、ちゃんと言えた!



「おかえりっ、柚!」



 見たこと無いほど穏やかな笑顔で出迎えてくれるお母さんを見て、私は胸がいっぱいになった。初めてお母さんの声があったかいと思ったから。

 するとお母さんがおずおずと尋ねてくる。



「今日の晩ごはんはドライカレーなんだけど……いい?」


「いい? ってなにそれ! なんでもええよ!」


「いや、今まで好き嫌いとか聞いたこと無かったから……」


「辛いもの好きなんよ、うち! あ、ほうじゃ、今度今までのお詫びってことで一緒にパフェ食べに行ってもらうけぇのぉ!」


「もちろん、お詫びできることならなんでもするわ。謝って済むことじゃないし。というか、辛いもの好きなんじゃないの?」


「どっちも好きなのー!」


△▼△▼


 毎日投稿途切れてしまって申し訳ないです……。


 この話を書きながら作者はほわほわしていました。読者様もそうだったらいいな。

 久しぶりのギルティ回(?)です。忘れていた方も多いのではないでしょうか。


 あと近況ノートにお知らせを書いたのでよかったら見に行ってやって下さい!

 ↓↓↓

https://kakuyomu.jp/users/simotuki-neko/news/16818093085819661694

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