第三章 文化祭編

第58話 緊張と既視感

 そんな感じで、結局告白できないまま俺達の体育祭は終わった。

 帰って布団の中で悶え苦しんだ。普通に黒歴史な気がする。


 借り物競争で俺なんて言ったっけ……。思い出そうとした瞬間、本能が「思い出したくねぇ!!」と叫んでいる。


 いや叫びたいのはこっちだよ。明日からどんな顔して会えばいいんだよ。



「終わった……」


「おい兄者よ、何があったか全て存じているぞ。えぇ? 今の気分はどうだい? なぁ? その様子だとフラれたのかい?」


「まだ告ってねえよ! てかなんだその口調!」


「あっれれ〜? 中学時代、家でこんな口調でなんか言ってたのは誰だっけぇ?」


「うわああああああやめろおおおおその記憶は開けてはならないパンドラの箱だぁぁああ!!」



 くそ、この悪女め! なぜ俺に追い打ちをかける!!

 そう思いながら陽茉梨を睨むと、「……まぁ」と急に真剣味を帯びた声を出した。

 え、切り替え早すぎて怖い。



「別にいつでもいいんじゃない? なんか大変だったんでしょ、知らんけど。松永さんだってきっと待ってくれるよ。いつかハッキリ伝えれば?」


「陽茉梨……」


「まあ、一生告白しなかったらおにいの中学時代を公開――」


「しますします! 告白するから許してぇぇえ!!」



 きっと最後のいじりは照れ隠しなんだろう。

 なんだかんだ言って、俺の妹は優しい。


―――――


 まあ、そんな妹の優しさを感じたって現状は変わらないんですけどね。



「お、おはよう、ゆうちゃん……」


「お……おう……きょ、今日は……いい天気ですね」


「あ、そ、そうじゃのぉ、うん」


「はい」


 

 ザーッと音を立てて雨が降っている中、通学路で落ち合った俺達はそんな会話をした。

 ……どこがいい天気だよっ!?

 おかしすぎて、俺は思わず吹き出した。全く同じタイミングで松永も笑い出す。



「なんだよこの会話……。どこがいい天気だよ……」


「わかる……変な緊張してもうて……ふふっ……」



 ようやく空気が和んで、いつも通りの距離感に戻る。



「次は文化祭かぁ。楽しみじゃのぉ、ゆうちゃん」


「あー、うちの高校、文化祭はすごい張り切るからな」


「そうなんじゃ! ますます楽しみ!」



 よかった。変な空気にならずに済んだ。……いや一瞬なってたけど。

 そういや……お母様とはどうなったんだろ。聞いてみたいけど、辛いこと思い出させたりしたら嫌だな。

 俺が「うーん……」と考えていると、車が向こうから走ってくるのが見えた。


 俺は一応、車道側にいた松永の手を引き寄せて位置を入れ替わった。万が一水がかかったら危ないしな。



「……」



 松永が固まって手を見ている。

 どうしたんだ? と思ったが、俺は瞬時に理解した。


 慌てて手を離し、首が取れるんじゃないかと思うほど勢いよく顔をそむける。



「ご、ごめんっ! 勝手に手握って! 一言言えばよかったな!」


「いやいやっ、全然、こちらこそ(?)」


 

 さっきとは別の意味で変な会話を繰り広げていると、「おーっす」「おはよう」と二人の人物の声が後ろから聞こえた。


 救世主だ! と思いながら振り向くと、案の定大野と森さんがいた。



「なんだよ、目の前で見せつけてきやがって」


「そうだよ、もう付き合っちゃえば?」


「ちょっ、大野はともかくどうした森さん!?」



 そんないじるタイプだったっけ!?



「おいっ、俺はともかくってどういうことだよ裕也!」


「そういうことだよ!」


「どういうことだよ!」


「そういえば柚、多分今日体育祭のレポート書かなきゃいけないから今のうちに考えてたほうがいいよ」


「うわーなにそれ、たいぎ面倒くさそう」


「うん、めんどくさいよ」


「言い切った!?」



 いつの間にか男子と女子で分かれ、それぞれの会話を始める。

 こんな平和な日が、いつまでも続けばいいな。


―――――


 数日後。

 俺達は夏休み明けにある文化祭で何をやるか話し合っていた。


「えー……じゃあまず『たこ焼き店』でいいだろ」


「いくら金かかると思ってんだてめえ、『焼きそば店』一択だろ!」



 どっちもそんな変わんなくね? と心の中でツッコんだ。

 てかこの展開、どっかで――



「あたしは、『演劇』かなぁ! 両片想いの人たちを王子様役とお姫様役にしちゃったりしてさぁ! エモくない?」


「それ言ったら『お化け屋敷』も――」



 完全に同じじゃね!? 体育祭のときと台詞が! むしろ合わせてるまであるだろ!



「ゆうちゃんは、何がええ思う?」


「この展開も同じかよ……まあ、食べ物系なら焼きそばかな」


「ほう、ゆうちゃんが学校行事に興味をもっとる」


「まあ、文化祭はそこそこ楽しいからな。夏休みに実行委員で集まったりするのも、しばらく会えて無かったクラスメイトが日焼けしてたりして面白いし」


「その口調じゃと、去年ゆうちゃんは実行委員じゃったん?」


「まあな。遊びに行く場所も人もねえし、押し付けられた」


「理由寂しすぎん?」



 そんな会話をしていると、体育祭と同様森さんが「では、投票で決めます。一番投票数が多かったものを採用します」と言った。あれ、既視感が……。


 投票の結果、俺達の店はメイド喫茶になった。なんで?


△▼△▼


 鬱展開が続いていたので今回は休憩回。楽しんでいただけましたでしょうか?

 やはり明るい話を書くのは楽しかったです。


 というか、鬱展開を週一更新で長引かせてしまって本当に申し訳ないです。

 これからはできるだけスムーズに終わらせます。


 そして、更新日時を毎週日曜日の20:13に変更させて頂きます。ご了承ください。

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