第55話 友達との合流
松永の手を掴んで階段を駆け上がっていると、いきなり松永の体重が重くなったように感じた。
こんなこと言ったら多分怒られるから、「松永?」と名前を呼びながら振り返る。
すると大野が、俺が掴んでいる松永の反対の手を掴んでいた。
「お前らが走っていくから追いかけてきたんだよ。もう体育祭は終わったぞ? どこ行くんだよ」
「あー……っと……」
今から松永に告白するんだ。とか言えるわけねえだろ!!
俺が言い訳を考えていると、大野の後ろから息を切らした森さんが姿を現した。
「はぁ……はぁ……大野くん……やっぱ足速いね……! 私……追いつけな……」
「「「とりあえず水分補給!」」」
このままだと大野の足の速さを褒める遺言を遺して消えていきそうだったので、全員で水分補給を薦めた。
森さんは自分の水筒を取り出して飲み、息を整えた。
四人でそのまま階段に座り込む。俺と松永が並んで座り二段下に大野と森さんが並んで座る。
振り返るようにして俺たちを見上げ大野が話しかけてくる。
「それで? 結局お前らは何してたんだ?」
「体育祭終わったけぇ二人で打ち上げしよっかーって!」
「そ、そうそう! あーでも、二人だけだったら寂しいかもなーいっしょに誰か盛り上がってくれねえかなー」
「じゃあ俺と文も一緒でいいか?」
……なんか、大野、誘導に引っかかりすぎて逆に怖い。
おかげで告白は出来ないけど、今はそれどころじゃない。松永の家がやばい状態を放って置きたくない。
「ああ、もちろん」
「それにしても文、今日の髪型似合うとるね! 普段からそうやってポニーテールにしたらええのにー」
「今日は体育祭だから髪が邪魔にならないようにしようと思って……似合ってるならよかった」
へへ、と頬をかきながら笑う森さんと「なにその仕草ー! かわいすぎるー!」と抱きしめる松永。
俺と大野もつられて笑顔になる。
みんなで笑った後、旧校舎に向かい適当な空き教室に入る。
その教室は偶然にも、俺と松永が最初に一緒に弁当を食べた教室だった。
「ってか、打ち上げなのにお菓子もジュースも持ってねえぞ」
「まあ体育祭だしな」
冷静に考えればそんな物持っていないのは当たり前である。
「じゃあみんなで水筒飲もっか!」
「打ち上げにしては地味すぎない?」
「まあええじゃろ!」
「……いっか!」
困惑していた森さんも、松永のペースにもっていかれる。
現実なんてこんなもんだろ、と俺も思う。漫画みたいなクラスでお菓子で打ち上げなんて展開などありえないのだ。
俺が水筒を取り出していると、松永が「あ」と声をこぼした。
「うち水筒持ってきてない……グラウンドだ」
「うわー、今から取りに行くのもめんどくさいね」
「うーんどうしたものか」
俺はあることを思いついた。
……いやいや、これは流石に心臓が……。
――告白に比べたら大したことないのでは(ドキドキの基準がおかしくなってきた)。
俺は松永にスッと水筒を差し出し、
「飲む?」
と言った。あくまでも平然を装って。
間接キスしようとか考えてねえし!
松永の目! 目をちゃんと見て言う! 逸らしたら照れてるってバレるから!
表情に出せない分心のなかですごい恥ずかしがってるけどな!
「……じゃあお言葉に甘えて」
「……おう」
水筒の蓋を回して松永に差し出す。
耳に髪をかけながら俺の水筒に口をつける松永。
窓からの夕日も相まって、すごい幻想的に見えた。
森さんと大野をちらっと見ると、なんか気まずそうだった。
なんか、ごめん。
ぷはぁと息を吐いて水を飲み終え、水筒の蓋を閉める松永。
「あ、あのさ」
すると、森さんがおずおずと声を出した。
「二人……嘘ついてない? 打ち上げって、口実じゃない……?」
バレてたーーー!!!
松永はともかく、俺も嘘つくの下手だったのか……。
俺と松永は視線を合わせ、「もういいか」と意思を確かめ合った。
「うちのお母さんが来て『もう帰るよ』って言ってきたから、ブチギレちゃったの。いわゆる毒親ってやつでさ……」
「待って、とりあえず座ろう」
深刻な話だと察した森さんが、立ったまま話していたみんなに座ることを提案。
俺達は素直に座って松永の話の続きを聞く姿勢になった。
「昔からうちの親って勉強に厳しゅうて……異常で……っ」
机の下で震えている松永の手をそっと握ると、松永は大きく深呼吸して自らを落ち着かせた。
「うち……ずっと、虐待されとった」
△▼△▼
更新遅れて申し訳ないです。
次回は重い話になるかもです。
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