第53話 昼休憩&クラス対抗リレー

「それでは、ここでお昼休憩とします。生徒の皆さんは、各自持参した弁当を食べて下さい。午後の競技は、13時から開始となります。最初の競技のクラス対抗リレーの出場者は時間までにゲートに集合してください」



 グラウンドに響く放送を聞きながら、各々歩き出す。

 俺の弁当は陽茉梨が朝早起きして自分の分と一緒に作ってくれた。


 まあ、今年もボッチで食べるんだろうなぁ!


 陽茉梨は友達と仲良く食べるらしいけど、なんで兄妹でこんなにもコミュ力の差があるんだ!

 と俺が嘆いていると、誰かに肩を叩かれた。

 振り向くと、そこには――



「裕也ー! 一緒に食べようぜ!」


「わっ、私も一緒でいいでしょうか!」



 大野と森さんだった。

 俺が感動のあまり言葉を出せないでいると、もう一人やってきた。



「うちも入れてー! せっかくならリレー組で食べよ! 次リレーじゃし!」


「……いいですよ、食べましょう」


「森さん、敬語じゃのうてええよ? 同い年じゃし、てかうちは友達じゃ思うとるけぇ!」


「え、あ……じゃあ、よろしく……」


「あと、文って呼んでもええ?」


「あ、え、うん! 私も、柚って呼んでも……?」


「もちろん、ええよ!」



 森さんが松永の距離感に少し驚きながらタメ口で話す。

 かなり嬉しいんだろうなぁ、これ。



「俺のことも樹って呼んでいいんだぜ、裕也?」


「それは遠慮しとくわ」


「いやなんでだよっ!」


「うそうそ、じゃあ樹って呼ばせてもらうわ」


「なんか複雑だな、おい」



 多分俺、今森さんと同じ表情になってるな。

 だって初めての男友達っ! 嬉しい以外に何があるってんだ!

 樹と食べたかった女子、松永と食べたかった男子はめっちゃ悔しがってるけど、そこはスルーしておこう。


 そして、去年までは考えられなかったお昼休憩が始まった。


―――――


「うわ〜、文のお弁当美味しそう! 自分で作ったの?」


「うん、まあ……今日は体育祭だから、張り切っちゃった。柚のもかわいいよ」


「すごいなぁー! うちは料理ダメじゃけぇ……」



 女子が会話に花を咲かせている横で、俺達は下らんやり取りをしていた。



「裕也の唐揚げ頂きっ!」


「見事に罠にハマったな! 俺はすでにお前のタコさんウインナーを盗っている!」


「なんだとっ!? というかタコさんウインナーて! かわいいとこもあんじゃねえか裕也!」


「なっ、黙れ!」



 暑さで結構テンションがおかしくなっているのは自分でも分かっているが、今日くらい許してくれ。

 てか後ろで「あの二人……ありかもしれん鼻血出そう」「え、どっちが攻め?」「ん~~、どっちでも良きだけど……」って騒いでる女子、ちょっと黙っててくれ。


 本当は、松永とあーんとか……なんでもない。


 特に何もなく、昼休憩は過ぎていった。


―――――

 

「続いての競技は、クラス対抗リレーです」


 

 食べてすぐ走るとか、絶対横腹痛くなるわぁ……。覚悟しとこ。

 一年のクラスが走り終えて、俺達の番がやってきた。

 第一走者は樹。第一走者で差をつけといたらいいかなと思った結果こうなった。



「位置について、用意、スタート!」


 

 銃声が鳴り響く。あ、もちろん偽物のね。急にサスペンスになったかと思ったわ。

 この音、覚悟してても毎度毎度びっくりしちゃうんだよな。



「さあ始まりました二年生のクラス対抗リレー! 第一走者は……おおっと、大野樹が速い! 他の走者と圧倒的な差をつけていくぅ!」



 実況の男子楽しそうだな。



「そのまま一着で次の人にバトンを渡します! 貰った相手は……えー、飛鷹裕也です!」


 

 ごめんて。大野樹ほど有名じゃなくて。



「あ……あー、平均的な速さで、面白い勝負になってきました! どのチームが勝つのか、まだまだわかりません!」



 ごめんて。足が遅くて実況しづらくてよ……。

 俺はカーブを曲がり、必死に腕を伸ばしてバトンを繋ぐ。



「飛鷹裕也、ギリギリ一位で次の走者にバトンを繋ぎました!」



 ギリギリとか言うな。

 俺はゼエゼエ言いながら樹のところに行く。



「おつかれ、裕也!」


「おう……なんとか一位で繋いだわ、松永に」



 そう、俺がバトンを繋いだ相手は松永だ。

 今までで一番スムーズなバトンパスだったと思う。

 何より、バトンを渡す時松永がクチパクで


『まかして』


 と言ったのが嬉しすぎた。すでにドクドク言ってる鼓動がもっと速くなりそうだ。



「美少女と話題の松永柚! 大野樹には及ばないものの、速い! 速いぞ! ちょっとファンクラブを作ろうかと思っています! ……え? もう作ってる!? 入れてくれー!」


 

 ユニークな実況にみんながどっと笑う。松永も走りながら最高の笑顔を浮かべる。

 うわ、好き……。笑顔で走るとか、かわいすぎる。



「文、頼んだ!」



 アンカーのタスキをかけた森さんが、松永からのバトンを受け取る。

 「私がアンカー!? む、無理だよ……」と言っていた気弱な顔が嘘のように、頼もしい表情で松永の言葉に頷いた。


 森さんは、今日のためにランニングを始めたって、二回目のリレー練習の時に言っていた。

 努力が必ず報われるとは限らないけど、俺は――俺達は、森さんを信じている。



「がんばれ、森さぁぁああん!!!」


 

 力の限り、叫ぶ。

 樹や松永も俺に続いて、「頑張れぇぇええ!!」と声を張り上げる。



「三組のアンカー、森文が仲間からの声援を受けて、走ります! まさに青春です! しかし、二組のアンカー、早坂はやさかそうがどんどん追い上げていく! 三組は果たして一位になれるのか!」


 

 みんなが見守る中、森さんは早坂とほぼ同時にゴールした。

 先生たちが下した決断は――二組の勝利だった。


 俺達は、「くっそ……」とか、「惜しいー!」ではなく――



「おつかれ!」



 お互いに、肩を叩きあった。

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