第47話 〝失恋同盟〟第一回活動日
(森文視点)
さようならの挨拶を終えると、色々な会話が聞こえてくる。
私はその会話を聞いて、想像を膨らますのが一人の帰り道の暇つぶしだ。
「俺こそが帰宅部エースだ!」
「いいや俺だ!」
多分陸上部より足が速い帰宅部の二人の争いとか。
「今日どっちの家でなにする?」
「今日はおれんちでテストの間違った問題解き直すか?」
「じゃあその横でポテチ食べるわ」
「性格終わってんな」
いつも一緒に帰ってどちらかの家に行っているという目撃証言から、一部女子に温かく見守られている男子二人の日常とか。
「ゆうちゃーん! 一緒に帰ろぉー!」
「はいはい」
……これは、想像したくないけど。
今日は部活がないから、すぐ帰るかしばらく学校に残るか話し合う女子グループとかもいる。
いつもなら絶対にまっすぐ帰る私だけど、今日は違う!
これから起きることを想像し、口元が緩む。
少し弾んだ足取りで教室を出るときに、
「いやーごめん、今日は用事があって、学校に残るんだよ」
と困った口調で話す大野くんの声が聞こえた。
声が聞こえた方角をに目を向けると、数人の女子に囲まれている大野くんの姿が見えた。
「じゃあ私も残るから!」
「いやそれもちょっと……」
「えぇー?」
女の子たちは不満そうだったが、これ以上強引に誘うのは気が引けたのだろう。一人二人と大野くんから離れていった。
やっぱりモテるなぁ、大野くん……。
あんな風に異性に囲まれるなんて自分には一生無い経験だろうな、と思いながら旧校舎に足を進めている途中に、ある思考にたどり着いた。
これ、今日は大野くんの放課後を独り占め出来るのでは?
い、いやいや! 〝失恋同盟〟だし! 別に変な意味じゃないし、愚痴り合うだけなんだから!
一人で頭をブンブン振って、思考を追い払う。そうしているうちに、華道部の元部室に着いた。ここが、今日から〝失恋同盟〟の部屋……。
ドアを開けた次の瞬間、私のわくわくは消え去った。
―――――
「いや、考えてみれば当たり前だよな……」
「うん、秘密の同盟にわくわくし過ぎてここまで頭が回らなかったよ」
二人で苦笑しながら、手を動かす。
私の手に握られていたのは――雑巾! 大野くんの手にはモップ!
長い事使われてない部室だったから、ホコリが溜まっちゃってたんだよね……。
なので、パパーっと掃除用具を取って来て二人でお掃除中。
雑巾で窓を拭きながら、なんで予測できなかったんだろうと嘆く。
その時、足元に黒いものが見えた。
ゴミかな? と思ってよく見ると――
「いやあああああああああ!!!!」
「うおっ、どうした!?」
思わず絶叫してしまった。だって、だって……
Gだぁぁぁあああああ!!
私、虫だけはほんとに……ほんとに無理なんだよぉ! 特に一番キライなのがG!
てか好きな人いんの!?
Gは一匹いたら100匹いるみたいな話がふと頭をよぎり、口から魂が出そうになった。
卒倒しそうになった私を力強い腕で受け止めてくれたのはもちろん――大野くん。
だけど……
「大丈夫か!? ってうわあああああ虫!?」
「そ、そうばい! 虫! しかもよりによってあん虫ばい!」
「あの虫が一番苦手なんだよなんでここにいんだよ!」
まさかの大野くんも虫が苦手だった模様。
二人で狭い教室でパタパタ逃げ回って、開いていたドアからやっと出ていったのを確認した瞬間……
「「はぁぁあああ……」」
二人でヘナヘナと座り込んだ。
そして、顔を見合わせて――
「……ふふっ、あははっ」
「……ク、ハハハ!」
爆笑した。
二人で必死に逃げたのが本当に面白くて、涙が出るまで笑った。
やっと笑いが収まったので、私は大野くんにずっと気になってた
「いやー、まさか大野くんも虫苦手だったなんて……」
「うん、まじで無理。昆虫食とか食べる人どうかしてるって思ってる」
「わかる! 意外と美味しいとか言うけど……ねえ?」
「絶対食べない、てか食べたくない」
「共感しかないよ……」
昆虫食の美味しさだけは一生分からないままだろうなぁ、としみじみ思った。
しばらく虫の嫌悪さについて話して、意気投合した。
見た目から、虫とかいけると勘違いされやすくて困ってるんだって。
私も、今の今まで想像すらしなかったもんなぁ。
「逆に柚とかはカブトムシ素手で掴んで見せてきたりして――あっ……」
勢いで松永さんの名前を出してしまった大野くんが、しまったという顔をする。
私は無言で徐ろに立ち上がると、チョークを持って黒板に向かう。
そして、カッカッと音を鳴らして文字を書いた。
書き終わって、チョークを置く。目の前の黒板には――
今日の議題:失恋を自覚して辛くなった時どうする?
という文字が並んでいた。
△▼△▼
全世界の虫好きの方にスライディング土下座。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます