第46話 失恋同盟

(森文視点)


「失恋同盟?」



 大野くんは、初めて知った言葉を繰り返す子どものように私が発した言葉を復唱した。

 


「お互い失恋したし、同じ傷をもっている人同士だから一致団結出来るんじゃないかなぁ」


「なるほど……ちょっと面白そうだけど、具体的になにするんだ?」



 普段、人と話す時は緊張してしまってつっかえたりしちゃう私だけど、なぜか今だけは饒舌に喋れる。



「そうだね……」



 私にしては珍しく見切り発車で発言したので、とりあえず思いついたままに言葉を紡いでいくことにした。

 


「重たいものって心の中にためておくのって辛いでしょ? 失恋した私たちでその重たいものを愚痴り合うの」


「愚痴り合うって後ろ向きだなぁ」



 大野くんが苦笑いしている。



「同盟なんて言うから大変な話かと思ったけど……なんか、同盟とかいう割には軽い感じがするな」


「まあまあ。でもこうなったら――」


「「『徹底的にやりたい』よね」」



 見事に二人の声が重なる。

 私達はこれまた同時に微笑んで、秘密の会議を開くのだった。



「秘密基地的なのも作りたいよな。いつまで経ってもそういうのは夢なんだよなぁ」


「ふふっ、男の子は大体そうだよね。だったら、学校の今はもう使われてない部室とかどうかな?」


「廃部になった部が使ってた部室ってことか?」


「そうそう! 確か、華道部が茶道部と合体して、旧校舎の四階の一番端っこが空いたんだよね」


「お、そこいいんじゃねえか! 全然目立たないし、誰も来ないと思う」


「じゃあ、そこにしよう!」



 なんだか、秘密の組織が出来たようでわくわくする。

 活動日時はいつでもいいから放課後。部活があるから集まるのはかなり少ないかも知れない。

私は私で委員長の仕事で遅れる事があるかも知れないからそのことを伝えると、


「RAIN交換しとくか。緊急の用事が出来ても連絡できるし」



 こうして、大野くんとRAINを交換した。


―――――


「ただい」


「姉ちゃん、どうやった!?」



 私が「ただいま」をいい終える前に、猪のような速さで玄関まで来た碧。

 私の肩を激しく揺さぶって、「ねえどーなったと!? ねぇねぇ!」と凄い勢いで質問攻めして来る。



「うわあああああ、あ、碧、お、おおお落ち着いて」


「落ち着くるわけ無かろうもん! 俺、姉ちゃんが帰って来るん首ば長うして待っとったっちゃん!?」



 首がガクガク揺れて、言葉も同時に揺れる。

 私が、「と、とりあえず中! 中に入ってから話すから!」となだめるまで、碧は収まらなかった。


―――――


「で? 詳しゅう話ば聞かしぇてもらおうか」



 ズゴッ、と音を立てて、ストローでオレンジジュースを飲み干す碧。



「いや、質問する前から飲み干しちゃってどうするの……」


「冷蔵庫にストックあるけん大丈夫ばい」


「ほんとにオレンジジュース好きだね……」



 普通、冷蔵庫にあんなにオレンジジュース無いんだよなぁ……と我が家の冷蔵庫を思い返しながら感傷に浸る。



「好きっちゃん。尋問て言やあカツ丼やけん出したかったっちゃけど、あいにくお肉が無かとと、晩ごはんにはちょっと早かけん」


「カツ丼とオレンジジュースって対極の関係だと思うよ」


「俺はどっちも好きっちゃん。それが共通点や」


「……そっか」


「あと、今日ん姉ちゃんの話で、晩ごはん決まるけん」


「はいはい……ん?」



 ツッコむのがめんどくさくなって流してたけど、晩ごはん左右するかな? 私の話。

 碧は徐ろに両手の指を組んで顎を乗せ、面接官のような雰囲気を出すと、私に尋問を始めた。


 そして、失恋したこと、大野くんと〝失恋同盟〟を組んだこと、RAINを交換したことを伝えた。


 静かに話を聞き終えた碧は、スゥー……と息を吸うと、こう叫んだ。



「母しゃん、お赤はーーーん!!」


「いやおかしかろーもん!?」



 私のこの日一番の渾身のツッコミが部屋に響いた。勢いで博多弁になっちゃった。


 その日の晩ごはんは、豆ごはんだった。

 お母さんは、うふふ、と笑って言った。



「御赤飯はもうちょっと進んでからばい〜」


「確かにそうかも、二人はまだ豆んごと未成熟」


「どういう例えなの……?」



 我が家は、ボケ担当が多すぎる。


―――――


 休み明け、裕也くんと松永さんが付き合っているという噂が流れ始めた。

 二人は無視を決め込んでいたけれど、少し頬が緩んでいた。


 いいなぁ、こういう噂は迷惑よりも嬉しさのほうが大きいよね。ちょっとこそばゆいというか。

 

 私と大野くんはというと、これまで通りただのクラスメイトとして過ごしている。

 あんまり仲良くすると、〝失恋同盟〟がバレちゃうかもだし、ややこしいしね。


 だけど、これまで通りと違うことが一つ出来た。



「えー、今日は業者によるグラウンド整備が入るぞ~、グラウンド使う運動部の部活は休みだから忘れるな~」



 私が大野くんを見ると、大野くんも同じことを考えていたんだろう、こっちを見た。

 机の下でスマホを指さしている。

 大野くんの意図を汲み、RAINを起動して大野くんとのトークを開く。



Itsuki『今日、〝失恋同盟〟初めての活動出来るんじゃねえか?』

文「私もそう思ってた!」

Itsuki『じゃ、決まりで! 挨拶終わったらすぐ集合な!』

文「(OKというスタンプ)」



 こうして、第一回失恋同盟の活動が幕を開けた。


△▼△▼


 一度、見直しが足りないまま公開してしまったことを御詫び申し上げます。

 めっちゃ変な文章になってたと思います。

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