第132話 反乱王子は突き進む
戦いは終始、王国軍が優位に進んでいった。
初撃によって反乱軍は兵力の一割を失ってしまい、そこに突撃を受けて早々に崩壊した。
元より士気が高いわけでもない民兵が真っ先に逃げ出し、金目当ての傭兵も後に続く。
正規兵はそれでも踏みとどまって王国軍を迎撃したが……その時点で兵力は半減。倍以上の差を覆すことはできなかった。
開戦から一時間。
戦いは着実に終結に向かっていった。
「もうそろそろ、決着がつきそうかな?」
「ええ、そのようですな」
暢気に会話をしているのは、王国軍の本陣で戦場を見下ろしているレストとディーブルである。
最初の一撃で十分な戦果を与えたことで、レストを始めとしたローズマリー侯爵家の部隊はお役御免となっていた。
もちろん、戦場に出ればさらなる戦果を出すことはできるのだろうが……そこまでいくと、やり過ぎである。
友軍の手柄を取り過ぎないよう、これ以上の戦闘は自重していた。
「一部の敵が奮闘している者達がいるようですが……時間の問題ですな。もう半数が降伏するか逃亡しております」
「こっちの被害は軽いみたいだね。ほぼ完勝じゃないかな?」
すでに虫の息になりつつある反乱軍に対して、王国軍の勢いは増すばかりである。
被害も軽微。戦死者もほとんど出ていないだろう。
「敵がまだ持ちこたえているということは、総大将のアイガー侯爵……じゃなかった。ローデル王子は健在ということかな?」
レストの【天照】によって敵の本陣は焼かれているが……光線を十分に収束させることなく、拡散させたことで威力は落ちている。
ある程度の練度で身体強化を使える魔法使いであれば、耐えることができるだろう。
ローデルは人間性はともかく魔法使いとしては優秀らしいし、アイガー侯爵もまた若い頃は宮廷魔術師にまでなった男。生きている可能性は十分にある。
「ん……敵の本陣が騒がしくなってきたな」
このまま決着がつくものかと思いきや……敵陣に動きがあった。
身体強化によって強化された視覚が捉えたのは……今しがた話に出していたローデル・アイウッド第三王子である。
「これより、敵陣に向けて突撃する! 動ける者はこの私に続け!」
周囲にいた兵士をまとめ上げ、馬に乗って駆けてくる。
「【
次々と高火力の魔法を撃って、王国軍の兵士を蹴散らしていく。
戦場を真っ二つに割り、グングンと勢いをつけて王国軍の本陣に向けて突進してくる。
味方の兵士達がローデルを止めようと立ちふさがるが……魔法によって吹き飛ばされ、壁になることすらできなかった。
「……驚いた。まさか、アイツが先陣を切って突っ込んでくるなんてな」
猿山の大将のような男だったはず。
しかし……レストだって、ローデルという男のことをそこまで知っているわけではない。
不利な戦況を変えるため、自ら兵士達の先頭を走るような勇敢さも持っているのかもしれない。
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
お飾りの大将であるとはいえ……反乱軍のリーダーである人物が敵地に直進しているのだ。
敵兵もどんどん後に続いてくる。
追い詰められた鼠が猫に噛みつくように、反乱軍の兵士が勢いを取り戻して、戦場を駆けてきた。
「止めろ! これ以上、進ませるな!」
「撃て! 撃て!」
王国軍の兵士が魔法で迎撃しようとするが……敵味方入り乱れる状況では、あまり強力な魔法を放つことはできない。
一方で、敵地の真ん中を突き進んでいるローデルは、前に魔法を撃って突き進むだけ。容赦なく高火力の上位魔法を使用することができていた。
「この私が第三王子、ローデル・アイウッドだ! この力を、この在り方を目にも見よ!」
「……驚いた。タダの馬鹿王子じゃなかったんだな」
覚醒したかのように王国軍の喉元まで迫ってくるローデルの姿に、レストも見る目を変える。
ワガママなだけの王子だと思っていた。贅肉のようなプライドだけがひたすら肥大化しただけで、高慢さに見合った能力も持っていない男だと思っていた。
だけど……ここにきて、認めざるを得ない。
少なくとも、戦場においては……ローデル・アイウッドは英雄になり得る資質があったのだと。
「このままの勢いで本陣を突かれると、総大将である王太子殿下が危ういかもしれないな」
万が一にも、王太子が討たれるようなことはあってはならない。
ならば……どうするか。
考えるまでもなく、答えは決まっていた。
「出るぞ。ローデル王子を迎え撃つ」
出番が終わりかと思いきや……もう一仕事あったようだ。
レストは学園で起こった事件から、再びローデルの前に立ちふさがることになったのである。
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