第38話 男性保護局側 明田琴里視点
男性保護局、事務所にて。
「何故か未登録の男性が見つかった、最初は誤報か何かだと思われたのだが、精液の提出も有ったので、遺伝子データのほうも調べてみたが、どうやら誤報でも無いらしい」
上司が困り顔で書類を片手に説明してくる。
「精液のランク的には?」
「暫定的にだが、特A+だ」
「と言うと、未だ早いと?」
「昨日サンプルが上がったばかりだからな?受精卵の初期分裂30日と着床率を見るまではわからん」
「それはそうですね?」
極論、犬とか猿とか、馬とか牛とかの精子でも受精はするのだ、受精卵が初期分裂の途中でエラー起こして自死するか着床出来ないだけで。
「時を同じくして男性を見かけたとSNS各所で目撃例が上がっている、見たところ未成年者に見えるが、女性と手を繋いで歩いていたそうだ」
「詳しくは?」
「その女性の所有している車両、軽トラックに乗せられて現場を立ち去った。監視カメラである程度追いかけているので、所有者と現在地は分かって居る」
「それと、男性護衛官の要請も上がっている、土地勘が有る事と、名指しで要請も有った、出来ればハチクマだそうだ」
人員も把握済み? と言う事は手慣れている?
と言うか……
「出だしの登録外男性の下り以外はまっとうな流れじゃないですか?」
手続きに不備は無いと言うか、前提の男性が何処から来たのかだけが致命的にアレなだけだ。
「それに関しては稀人として見れば全てつつがなくどうにかなるんだ……」
上司が頭を抱える。
「100年に一人出るかどうかぐらいのレアケースじゃないですか」
項目自体有る事を認識されないと言うか、使われた試しがない。
「私ですか?」
ハチクマさんが不意打ちにキョトンとする。
「護衛官としてご指名ですよ?」
ハチクマさんは護衛官として登録されているのだが、出番が無いので時間つぶしに書類仕事ばかり振られているのだ。
対象の男性が未登録で護衛官も居なくて、身分証も何も持ってないからと言う事で、実際に有事だった時の念のためも含めて、3人て所かな?
「今回の罪状は誘拐行為と男性の私的独占でしょうか?」
後輩で部下のきよらが、鼻息も荒く有罪前提で話を進めようとする。
「あんまり容疑者扱いするんじゃ有りません、要請自体は真っ当なんだから」
一先ず窘める、最初の前提が謎すぎるだけで、他は問題無いのだから。
「何時でも有罪に出来るんですよ?!」
いきなり突っかかって行ったきよらに頭を抱えたくなる。
女性が何人も居る状態で、男性が苦笑交じりに話しているだけだったのだが。
それだけであの小さい堪忍袋の緒が切れたらしい。
目礼とジェスチャーで、すいませんうちの馬鹿がと言う感じに伝えると、解ってるから気にするなと言う感じに苦笑交じりに小さく手を振られた。
主犯ぽい動きをする海野ヤタさんが、きよらから見て、自分より小さく若く見えたので、一瞬調子に乗ったらしいが、外見は兎も角、中身はこの地での最高クラスの有力者だと言うのは、未だ若いから知らなかった様子だ。説明し忘れたのもあるけど。
「同意じゃから無罪じゃぞ?」
見た目年齢と中身年齢が釣り合わない老獪さであっという間に言い負けている。
いくら有罪一歩手前で有ろうと、最終的に男性の自由意志の問題で有るので、男性側から同意と言われてしまえば其処までなのだ。
楽し気に言い負かされ、勝ったとばかりに、海野ヤタが男性に抱き着く、流れるように尻を撫でている、さらに股間も撫で、腕を引っ張り耳元で内緒話、とどめにキスまで流れるように目の前でされてしまった。
「良いなあぁ…………」
きよらの所から絞り出す様なそんな声が漏れた、無理も無いというか、目の前に展開しているのは私も含めて女達が求めても手に入らなかった、垂涎のシチュエーション、いちゃらぶと言う奴だ、正直私もしたい。
こいつの頭の中ではヤタと自分を入れ替えて妄想していることだろう、何しろ現実に目の前にあるのだ、自分が夢見ても、見るだけなら罰は当たらない。
だが、そこまで緩んでも居られないので、きよらの脇腹をつついて現実に引き戻させる。
対してハチクマさんは…大丈夫そう?
浮かれてあられもない事してる身内のおばあちゃんと見るとスンって成ると?
そういえばハチクマさん的には実家でしたっけ?
うん………それは有るかもしれない………
追申
同性の身内としてみると扱いに困るヤタちゃんです。
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