第37話 ハグ

「ここまでですね?」

 先程までカシャカシャとノートPCを操作していた明田琴里が、肩をポンと叩いて先程まで色々まくし立てている南澤きよらを下がらせた。

「まあ基本的に私達は男性の自由意志を尊重すると言う立場上、貴方、翡翠さんが問題無い、合意だと言って居る以上、手を出せないんですよね」

 そう言って鞄から何かの書類が入っているらしいクリアファイル的な物を取り出す。

 ノートPCに紙をセットすると、何か印刷されて行く。

 その作業の間にカードがノートPCの上に乗って何かデータが書き込まれている様子だ。

「昨日提出された精液のサンプルから、DNAデータバンクと照会して、身分証IDカードが作成されてます、コレが私達が今日派遣されてきた本来の理由です」

 印刷された紙とカードがファイルに収まり、そのファイルがこちらに渡された。

 ファイルを開くと、何やら仰々しい書類と、特に文字も何も書かれて居ない真っ黒いカードが出て来た。

「書類側は家に控えとして置いて、カード側は常に持ち歩いて下さい、プライバシーの為、文字は書かれていませんが、リーダーが各所に設置してあります、銀行のキャッシュカードや、電車やバス、スーパーやコンビニ、病院の診察券や保険証も兼ねる身分証のIDカードです」

 電子マネー決済も兼ねるらしい、マイナカードも出世したものだ。

「個人認証として、こう、カードを手に持ってココにかざして下さい」

 少し特殊な形状しているノートPCがこちらに向けられる。

「カード側に静脈パターン認証が入っているので、この部分が認証出来ないと基本的にゴミですので、当人しか使えません、流石に事故なんかで両腕もげた時にはまた別の認証に成りますが、流石にそこまでは気にするまでも無いと思います」

 そんな言葉を聞きながら、リーダーらしき部分にカードをかざすと、手のひら側にスキャンの光が走った。

【このカードは使用できます】

 そんなメッセージが表示された。


「それでは、私達はこの辺で......」

 とても寂しそうな様子で告げて来る。

「はい、どうもありがとうございました」

 なんだかんだで世話になったので、素直に頭を下げる。

「あわっ」

「いえいえ、こちらこそ、今回は貴方の様な人で良かったです」

 変な悲鳴と、不思議な感謝っぽい言葉が返ってきた。

「所で、ちょっとだけいちゃついてみますか?」

 悪戯心が湧いて来たので、スルッと二人の間から抜けて、立ち上がり、少し移動して、手を広げる。

「ハグ位なら良いですよ?」

「はっ?! いえ、仕事中ですから......」

「じゃあ、遠慮無く、えい」

 ちょっと堅そうな娘、きよらが真面目に返す中で、もう一人、琴里は普通に抱き着いてきた。

 こちらの薄い浴衣と、あちらのスーツ越しにも、豊かな膨らみが感じられる。

 ふう、はあ、すうううう

 何と言うか、匂いを堪能するように深呼吸される、成る程変態ぽい。

 一瞬で離れるかと思いきや、たっぷりゆったり抱き締められた。

「ありがとうございました」

 ゆっくり名残惜し気に離れた後で、ペコリと頭を下げられる、気持ち抱き着く前より満ち足りた表情で、肌艶が良くなっている気がするが、流石に気のせいだろう。

「いえいえこれぐらいで良ければ何時でもどうぞ?」

「何時でも?!」

 また悲鳴っぽい声が上がった。

「次は?」

「よろしくお願いします」

「あ.....」

 先を越されたと言う感じの声も聞こえていた。

 スルッと抱き締められた、この人、はちくまさんは身体が大きいので、全身包まれる様な感覚に成る。

 胸の膨らみ部分が、顔に当たる、寧ろ顔が埋まる、筋肉質で、がっしりした感触だが、その膨らみは柔らかくて、とても良いものだと思う。

 呼吸するたびに、その胸元の間から汗というかフェロモン的な匂いがして、くらくらする。

 今度はこちらが匂いを嗅ぐ様に深呼吸する事に成った。

「ありがとうございました」

 そんな感謝の言葉と同時に解放される。

 最後の一人、きよらはこの期に及んでアワアワしていた、

「じゃあ……」

 最後の一人、きよらは何だか抱き着くポーズを取ろうとして、何故か天地上下の構えっぽくなった挙げ句に逃げ腰で一歩下がった所で、二人に捕まり。

 折角なんだから遠慮するなと後ろから押し付けるように前に出て来た、何だか仲が良さそうで何よりだ。

 抱き締めると、暫く無意味にジタバタした後で、オーバーヒートしたように動かなくなった。


「では、次はお仕事抜きで逢いましょう?」

「ひゃい! 是非!」

 落ちたっぽい、ちょろいと言って良いのだろうか?


 二人は名残惜しそうに去っていったが、ハチクマさんだけ残っていた。

「で、私は護衛兼窓口として残ります」

「ハチクマ姉!」

 ミサゴが飛びついた、顔見知りらしかった。



 追申


 カード側にバッテリーは無い、無接点給電でリーダーにかざした時だけ各種センサーが動く感じ。

 ぜーんぶ含めてワンチップマイコン見たいな構造してます。


 今回のは入国審査みたいなもんですが。翡翠が普通に日本語で話すし、特に隠してる様子も無し、受け答えもちゃんとして居るし。先に提出した精子の質も良かったしと言う感じで、コレを国民として確保できるなら局員側も万々歳。自分の部署に抱え込めれば200点満点だけど、流石にそこまで甘くない。

 密入国の場合はさすがにもうちょっと厳しいけど、男性の時点で何が何でも国の資源としてっていう原理が働くため、基本ガバガバ。


 追加キャラ

 南澤きよら(みなさわきよら)

 全体的にちっちゃい、声が大きいのはチワワ的な小型犬イメージ。真面目で男に免疫が無い、男性と触れ合う機会が一番多いと言う事でこの職場だけど、基本的にこの世界の男は女嫌いと言うか、翡翠に比べると色々クズい為、幻滅気味。

 だけど、未だ真面目にお仕事してる為、名目的には男性が非正規ルートで囲われていると言う匿名のタレコミにより、使命感に燃えていたので空回り。


 明田琴里(あけたことり)

 色々豊満で、出る所出て、引っ込む所引っ込んだ素敵な体系。

 きよらに対しては先輩と言うか上司に当たる、あんまり出張って来ないけど、こういう時は美味しいところ持ってく。


 山野ハチクマ(やまのはちくま)

 名前だけ出てたミサゴの姉、自衛隊上りの予備役で、男性護衛官、男性専用のボディーガード的な職業、公務員。

 精液採取の関係上、男性自体が国家資源と成る為、死なれたり、国単位で誘拐なんて事が有ると大問題の為、男性一人につき最低でも一人は護衛官が着く。

 見た目的にはミサゴを一回り大きくしてゴツく鍛えた感じ、190cmの80キロ、腹筋が割れてる。


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