special episode.ラメンタの宝物

◆前書き


素晴らしい二次創作を頂きました!!

加須 千花 様(https://kakuyomu.jp/users/moonpost18

本当に本当に感謝します!!


時系列的にこの場所に差し込むのがベストと判断しました。

(ep2を主軸にep3~7でラメンタが語った内容のお話です。)


たくさん感想を語りたいのですが、それは後書きで…

まずは『ラメンタの宝物』を…どうぞっ!!


―――――――――――――――――――――


  〜ラメンタの宝物〜


 ステージに立つのが、アタシちゃんは好きだ。

 お客様へカーテシーで一礼する。

 そこからは、アタシちゃんの時間。

 ゆっくり、バイオリンを肩に置く。


 このバイオリンは特別。

 アタシちゃんは、もう、このバイオリン以外は弾くつもりはない。

 先輩がくれた、大切な絆。

 宝物。 

 これがあるから、アタシちゃんは生きていける。

 バイオリンが弾ける。


 弓を弦に添える。

 す、と場の空気が冷艶に澄み渡る。

 アタシちゃんは、大きく息を吸い、身体を仰け反らせ、目一杯ストロークを使った高音のビブラートを鳴らす。

 バイオリンは鳴く。

 音は光り。

 光りの粒。

 連なる星。

 もしくは虹。

 空から輝き落ちる雨。

 アタシちゃんの嘆き。涙。

 そして希望。

 喜び。

 先輩。

 大好き。アタシちゃんの大切な思い出……。





「いらないなら貰ってもいいか?」




 あの日。

 アタシちゃんはコントラバスをベンチに投げ捨て、コントラバスを睨んだ。


「もう、いらない。」


 つぶやいて、去ろうとした。

 そしたら、声をかけてきた若い男がいた。

 アタシちゃんは、そのあとすぐ、死のうと思っていた。気がたっていた。ろくに言葉を聞いていなくて、


「は?! 話しかけてこないで。」


 と噛みついた。その男は、アタシちゃんの剣幕に驚き、戸惑ったような顔をした。


「……いらないって聞こえたから……。」

「そうよ。いらない。いらないわこんなモノ! 

 あんなに練習して。皆にあわせて。嫌われないようにして。全部無駄だった。くだらない。くだらない……! アタシちゃんも、この世にいらないのよ!」

「なんでそんな事言うんだ……。」

「……アタシちゃん、マナ欠乏症なの。わかった? あっちいって。コントラバスはあげるわ。もう捨てるから。好きにして。」


 男はマナ欠乏症と聞いて怯み、一歩下がった。

 

(あっち行っちゃえ。そうやって、アタシちゃんのまわりから、友人はいなくなった。あんたも、行っちゃえ。)



 男はコントラバスのケースを手にとり、持ち上げ、片手でアタシちゃんの腕をとった。


「……はっ? 何やってんの? 離してっ!」

「コントラバスはもらう。代わりのものを、渡す。君は絶対に受け取らなきゃいけない。そうしないと、僕は泥棒になってしまうからね。」

「バ、バカじゃないの……。アタシちゃん、マナ欠乏症なのよ? 聞いてた?」

「聞いたよ。僕のアトリエにおいで。」


 そのアトリエは、窓から柔らかく光りが差し込み。観葉植物の緑がみずみずしく。あちこちに絵の具が散っていた。まさしく、画家のアトリエ。


「ほら、これ。」


 渡されたのは、4/4フルサイズじゃなくて少し小さいバイオリン。


「……ちっちゃい。」

「うん。子供のころにやめたんだ。これで、このコントラバスは僕のもの。大きい楽器が欲しかったんだ。そのバイオリンじゃ、君の言う通り小さすぎて、描きたいものが描けなくてね。」


 言うなり、男は、コントラバスの表面を、ナイフでざりざり削りはじめた。


「はっ……? 壊すの?」

「楽器としてうまく音が出る、という定義なら、壊すね。でもまあ、見てて……。」


 男は、削った場所に、絵の具で色を乗せはじめた。

 淡桃色。黄色。赤。萌黄。若葉色。橙色……。点であり、線であり、時には丸で。

 繊細に、大胆に、迷いなく。いや、時々立ち止まり、全体のバランスを見て、色を付け足していく。時々、アタシちゃんを見ながら。

 なんて鮮やかで、綺麗な色彩。


「僕はね、新しい表現がしたいんだ。」


 コントラバスに、描かれたものは……。

 正直、良くわからない。何の形を描きたかったのか、アタシちゃんには掴めなかった。

 でも、色んな色が咲き乱れ、光りがあふれて、綺麗だった。

 これはもう、コントラバスではない。楽器としては使えない。

 新しい芸術品だ。

 世界でただ一つの芸術品として生まれ変わり、祝福の光りに包まれている……。


「ふうむ。……良いだろう。」


 筆を置いた男は、満足そうに笑った。


「どうかな? どう思う?」


 アタシちゃんを振り返った男は、ぎょっ、と驚いた。

 アタシちゃんが、ぽろぽろ泣いていたからだ。


「聞いて……。アタシちゃん、さっきまで、もう死のうって思ってたの。

 いずれ、マナが欠乏して、アタシちゃんは死ぬ。この病気は治らない。」


 ぐす、鼻をすすり、


「それだけじゃない。独りになるのがすっごい怖くて、浮かないように頑張ってたのに、コントラバスだって、自分の時間を全部そそいで、練習してきたのに、この病気で、全部パアだよ。もう、何もかもイヤになって。

 でも……。この絵を見てたら……。

 アタシちゃんも、生まれ変われるかな、って思った。

 自殺なんて、しない。うっ……。」


 男は泣くアタシちゃんを、そっと硝子を扱うように、抱きしめてくれた。


(マナ欠乏症のアタシちゃんを、抱きしめてくれるんだ……。)


「自殺なんて、駄目だよ。」

「うん。しない。この絵が、アタシちゃんに教えてくれた。それが、この絵の感想だよ。……あなたの名前を、教えてくれる? アタシちゃんは、ラメンタ。」

「アニマート。」





 アタシちゃんは、あの日見つけた希望を、光りを、忘れない。

 大事な宝物。

 あの絵を思い出せば、いつだって力は湧いてくるし、いくらでも、バイオリンに心を込められる。

 羽ばたけ、音。

 アタシちゃんの大切なバイオリンから。

 自由に、羽ばたけ!




      ───完───



―――――――――――――――――――――


◆後書き


如何でしたしょうか、私は泣きました。

メルミーツェ視点では描かれないラメンタ視点の過去。


ep2の音楽酒場ユメクジラの演奏シーンからの回想。

才能もあり、努力もできる、でも自己主張をするのは怖くて内気だった少女。

最大限努力した彼女に待っていたのは理不尽な病。


全てを、自身の命すら捨てようとしたラメンタを思い留まらせた一つの芸術品。

そこに至るまでの心象描写を書き上げてくださり感無量です。


特に冒頭の演奏、後半のアトリエの描写は情景が浮かぶようでした。


そして最後の

『羽ばたけ、音。アタシちゃんの大切なバイオリンから。自由に、羽ばたけ!』


ここに集約されたラメンタの心を想うと涙が出ました。


私は加須 様の作品はもちろん、人物の心の機微を描く文章が大好きです。

そんな作者様にラメンタを描いて頂けて本当に嬉しかったです。


二次創作『ラメンタの宝物』、私にとっても宝物になりました。


【ちびキャラ ラメンタ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093076589596158

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