第21話 代行者〜蠍座〜
「あのクソタヌキ」
自分の部屋に戻り先程のことを思い出し怒りを爆発させるスコルピオ。
神力で部屋の中にある全ての物が粉砕する。
しばらくすると落ち着きを取り戻し、これからの事を冷静に考える。
「アーク」
「およびでしょうか、スコルピオ様」
スコルピオの呼びかけに応じる下級神アーク。
「あのクソタヌキの命令で今すぐ俺に似た人間を見つけないといけない。悪いが数名見つけてきてくれ」
簡潔に言う。
「わかりました。失礼します」
王は一体何をするつもりなのかわからないが命令なので早速始める。
「(また、家具を壊していたな。よっぽどのことを王に言われたのだろう)」
王に会いにいくたびにほぼ百パーセントの確率で部屋の物が粉砕される。
最初の頃は慌てていたが数百年経った頃には慣れた。
アークが部屋から出ていき代行者候補が見つかるまで少し休もうとするも、自分で部屋の物を粉砕してしまったので元通りに戻してから休むスコルピオ。
コンコンコン。
「スコルピオ様。アークです。いらっしゃいますか」
「入れ」
神力を使って扉を開けるスコルピオ。
「失礼します」
「見つけたのか」
「はい。こちらにまとめました」
代行者候補数名の情報がまとめられた水晶をスコルピオに渡すアーク。
「ご苦労。もう、下がっていい」
アークに部屋から出て行くよう指示してからすぐに水晶の中を確認する。
水晶に手を置き神力を注ぐと一瞬で頭の中に情報が入ってくる。
「この程度の人間しかいないのか」
アークが見つけてきた代行者候補者達に失望するスコルピオ。
だが、この中から選ぶしかない。スコルピオはアークのことは信頼している。そのアークがこの程度の人間を選んだということは、それ以外の人間はもっと使えないということ。
「誰にすべきか」
指を鳴らして候補者達の過ごし方を観察して決めることにした。
六日が経ち漸く誰を自分の代行者にするか決めたスコルピオ。元々、候補者達全員に失望していたので代行者に決めた人間にたいして期待はしていない。
パチン。
ずっと観察していたので、その人間がいる場所に降り立つ。
「おい、人間起きろ」
布団に入って寝たばかりの男に話しかける。男は寝たばかりなので眠りは浅くスコルピオの声で目が覚める。
「ああ?てめぇ、誰にむかって…」
そんな口聞いてやがる、と続けようとして止める。目の前にいる凶悪な顔つきをした化け物を見た恐怖で声が出せなくなった。
昔誰かが言っていた「人は自分の想像を遥かに超えた存在を目にしたら何もできなくなる」と、今まさに男はそんな状態に陥っていた。
「(なんだ、こいつは。なんで俺の前にいる。誰がこんなことを。俺は死ぬのか…。俺がしぬ?………。ふざけるな。俺は九条組若頭鬼童イチイだぞ)」
今までは自分が弱者に死ぬ恐怖を教えていたのに、化け物が目の前に現れたことで立場が逆になった事実が許せないイチイ。
「死ねー、化け物が」
枕の下に隠していた拳銃を取り出し化け物に向かって撃つも、弾は化け物の体をすり抜けて壁にあたる。
「は?…嘘だろ。クソがー」
そう言うと残りの弾を全部化け物にむかって撃つも最初と結果は同じですり抜けて壁にあたる。
カチャカチャ。弾切れ。
「クソが」
拳銃を床に叩きつけ、壁に掛けていた刀を手に取り化け物と距離をとる。
「お前一体何者だ。誰の差し金だ。言え!」
イチイは必死に声を荒げて叫ぶも声は震えており怖がっているのは一目瞭然だった。
自分を殺したいと思っている相手に心当たりがありすぎる。
まだ死にたくない、まだ生きたい。
「何とか言えよ!この化け物!」
鞘を化け物に向かって投げつける。これも弾の時と同じで化け物に当たることなく床に落ちる。
「(クソ。何でこいつには何もあたらねぇんだよ。ふざけんな、クゾが。こんな奴どうやって倒せばいいだよ。つーか、何で誰も助けにこねぇんだ。発泡音聞こえた筈だろ)」
九条組の組員が誰も助けにこないのはスコルピオのせいだった。邪魔されずに話をしようとしたので神力でこの部屋に誰も近づけないようにしていたし音も遮断していた。
「(哀れだな。これが俺の代行者になる人間とは。今からでも変えるべきか)」
結構本気で代行者を変更しようとするも残りの代行者候補者達を思い出し留まる。残りの人間よりこの男の方が色々と使えると。
「おい」
スコルピオが声をかけるとビクッと体が震えるイチイ。
刀を構えてスコルピオと戦う意志はあると示す。それを見て面倒くさいと思い、指を鳴らして刀を天井に刺す。
「なっ」
急に刀が物凄い力で上に向かって引っ張られ手を離すと天井に刺さり驚きを隠せない。
「(なんだ今のは。こいつがやったのか)」
体の震えが止まらず冷や汗を流す。
「おい人間、一度しか言わん。お前俺の為に戦え」
「…」
恐怖で声も出ない。化け物の言葉もよく聞こえなかった。はっきり聞こえたのは「戦え」という言葉だけ。
「おい、聞いているのか」
何も言わないイチイに苛立ち神力を少し纏う。
イチイは何が起きたのかわからなかった。化け物の雰囲気が変わったと思ったら、部屋にあった全ての物が一瞬で消えた。
一つだけはっきりした。この化け物に逆らえば自分は殺されるということ。自分と化け物の間には絶対に埋まらない差が存在する。圧倒的な力の差というものが。
「もう一度だけ言う。これが最後だ。俺の為に戦え。いいな」
冷たい目でイチイを見下ろし冷たく言い放つスコルピオ。
はゆっくりと頷きスコルピオの為に戦うことを承諾した。
「(最初からそうすればいいものを。手間取らせやがって)」
イチイの態度が従順になったので、部屋を元通りに戻すスコルピオ。
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