第13話 代行者〜蟹座〜
「これは契約だ。俺の代行者となり縁を切ってほしい」
「いいよ。その代わり神様の力を沢山使わせてもらうよ」
七日前。
「ムーリ」
「はい、お呼びでしょうか。カルキノス様」
カルキノスに仕える下級神ムーリ。
「悪いが最優先でやって欲しいことがある」
「かしこまりました」
カルキノスの命令が何であろうと毎回完璧にこなす。それを知っているから大事な代行者選びをムーリに任す。
「人類から俺に似た人間を見つけてくれ。何でもいい。少しでも似てると思ったら教えてくれ」
「かしこまりました」
カルキノスが何故そんなことを命令するのか理解できなかったがムーリは自分は言われたことをやるだけだと早速作業に取り掛かろうと部屋を出る。
「はぁー。これで漸くあいつらとの縁を切れる」
何神かの顔が浮かび顔がニヤける。
「早く始まらないかな」
三日前。
「カルキノス様。頼まれていた人間を数名見つけました」
そう報告するムーリ。
「見せてくれ」
カルキノスがそう言うと「わかりました」と言って神力を使い選んだ九人の人間を写しだす。
細かい詳細は水晶に全て入っていますと言って水晶を手渡し部屋から出て行くムーリ。
「さて、誰を代行者にするべきか」
九人の人間を見ながら呟くカルキノス。
ムーリに手渡された水晶に手を置き神力を注ぐと頭の中に詳細が一瞬で流れ込んでくる。
カルキノスは一人の人間が少し気になりその人間がどういう人間なのか調べることにした。
五十二時間後。
「フッ。いいな、こいつ。決めた。この男を俺の代行者にするか」
そう呟き大声を上げて笑う。
この男は間違いなく俺の望みを叶えてくれると確信する。今すぐ人間界に降りてこの男を代行者にしなければと、指を鳴らし男の家の中に一瞬で移動する。
「おい、お前」
カルキノスは家の中でテレビを見ている男に声をかける。
男は聞き間違いかと恐る恐る後ろを振り向く。自分は一人暮らしなのに家の中で自分以外の人間がいるはずなんてない。きっと気のせいだと不安を拭い去ろうとしたのに、そこにいたのは恐ろしい姿をした化け物がいた。
まだ死にたくない。男は自らの死を覚悟した瞬間、これまでの自分の人生を後悔した。
こんな風に死ぬとわかっていたら、誰の目も気にせずやりたいことをやればよかったと。
命乞いをしたくても男は声を発することも指一本動かすことが出来なかった。
死はこんな簡単に訪れるものなのか、何故今まで自分には関係ないと思っていたのか、死は誰にでも平等に訪れるのだと死を前にして思い知らされた。
カルキノスが男に近づくと男は目を瞑り殺されるのを待った。
「お前、俺の代行者になって俺の願いを叶えてくれ」
カルキノスがそう言うと、えっと驚き男は目を開ける。
願い?俺が叶えるのか。いきなり化け物から提案され死を覚悟していたのに、この化け物は自分を殺さないのかと困惑する。
「お前が俺の願いを叶えてくれるのなら、お前の願いも叶えてやる」
「わかった。俺は何をすればいい」
男は即答する。
やり残したことやらねばならないことを死を目の前にしてやらなかったことを後悔した男。自分一人では無理でもこの化け物が手を貸してくれるなら必ずできると思った。
一番経験した死と化け物が自分を殺すつもりがないとわかり男は何も怖いものがなくなった。
「何も聞かずに了承するのか、お前は」
俺には関係ないと思いながらもこいつ馬鹿なんじゃと少し心配するカルキノス。
「あんたの願いを叶えれば俺の願いを叶えてくれるんだろう。俺は死を覚悟したとき後悔したことがある。だから、どんな手を使ったとしても叶えたいことがある。それを叶えるためなら例え悪魔だろうと化け物だろうと手を組む」
男は血が出るくらい強く拳を握る。
「そうか。なら契約成立だな。よろしくする前に一つ訂正することがある」
カルキノスの言葉に何をと不思議に思う男。
「俺は神だ。この姿を見たらわかるだろう。次、俺を悪魔や化け物に例えたら許さないからな」
男が例えでそう言ったとわかってはいたが、神である自分がそう表現されるのは気分が良いものではなかった。
それに、カルキノスは今の自分の姿が男にどう見えているのか知らなかった。それもあって余計に許せなかった。
もちろん、本来の姿なら男も悪魔や化け物といった表現はしなかっただろう。
「(神…これが神。頭大丈夫かこの化け物。…それとも本当に神なのか。いや…ないな)」
神とは神々しい存在だと思っていたから、目の前にいる化け物はその真逆の禍々しいオーラを放っていた。
「すいません。言葉のあやです。以後気を付けます神様」
男はこの化け物を自称神と心の中で呼ぶことにした。
「次から気をつければいい」
素直に謝罪する男にカルキノスは少しだけ機嫌が良くなる。
「ありがとうございます。それで俺は何をしたらいいんですか」
さっさと化け物の願いを叶えて俺の願いを叶えてもらうと何をすればいいのかを尋ねる。
「最初に言った通りだ」
カルキノスの言葉に何て言ってたか思い出そうとするが、恐怖に支配されていたので話を聞いていなかった男。
「俺の代行者になって他の代行者と戦って欲しい」
「(そんなこと言ってたんだ。どうしよう、俺喧嘩めっちゃ弱いけど)」
急に自分の苦手分野に不安になる男。
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