第11話 代行者〜双子座〜

「ディモ。僕達に似た人間なんていると思う?」


優しい顔をしている双子座を司る神デュイが凶悪な顔の自分と瓜二つなディモに問いかける。


「そんなのいる訳ないだろう。神と人間が似るなんてあり得ない。あのクソ王はそんなことも忘れたのか」


「そうだね。僕達に似た人間なんている筈なんてないよね」


少し寂しそうな表情をするデュイ。


「デュイ、お前には俺がいる。俺にはデュイお前がいる。俺達は二神で一神の神。忘れるな」


「うん、そうだね」




二神が自分達の代行者を捜し始めて十五日経ったある日。


「ねぇ、ディモ。この子を僕達の代行者にするのはどうかな」


神力で人間界を映し出し大勢いる人間達の中から一人の少年を指差すデュイ。


「どの子」


デュイが指差す少年をじーっと見つめる。しばらくすると「いいね。この子にしよう」とディモが同意する。


二神は他の人間は何日も観察してどうするか決めていたのに、この少年のことは一目見て「この子こそ僕(俺)達の代行者にふさわしい」と感じた。


「そうと決まれば早速行くか、デュイ」


「そうだね、ディモ」


そう言うとディモが指を鳴らし二神は人間界へと降り立った。


「ディモ、あの子はいなくなったね。どこにいるんだろう」


少年がいた場所に天界から来たのに、もうそこに少年がいなかった。


「上から見つけるか」


ディモがそう言うと「だね」と同意し指を鳴らすデュイ。しばらく上空から少年を捜していると「ディモ、あそこ」と指差すデュイ。


少年はビルの屋上に一人でいた。少年は柵の上に座り動き回る人達を見下ろしていた。


「いたな。行くぞデュイ」


うん、と頷きまた指を鳴らすデュイ。一瞬で少年の後ろへと移動する二神。


「おい」


ディモが声をかけるが無反応な少年。


「ねぇ、君」


今度はデュイが声をかける。


「ん?僕?」


ここには自分一人しかいないから自分に話しかけてきたのだと思い振り返る少年。振り返るとまさかの醜い姿をした化け物がいて「うぁー」と驚き柵から落ちる。


「いきなり叫ぶとは失礼なガキだなお前。おい、名前はなんだ」


ディモが話しかけるが、「うぁー」とまた叫びだしこの場から走り去ろうとする。そんな少年の服を掴み「待って、何もしないから逃げないで」と言うデュイ。


そもそも、なんで少年が逃げ出そうとしたのかがわからず困惑する。ディモが怖いからなのかと見当違いなことを考えるデュイ。


「殺さないで」


少年にはデュイの言葉が届いておらず服を掴まれたことで殺されると勘違いした。


二神はこの少年は何を言っているのだと顔を見合わせる。


「おい、クソガキ。俺達が人間を殺すような神に見えるのか。そもそも殺すなら話しかけねぇーし、もう殺してるだろ」


元々凶悪な顔なのにもっと凶悪な顔つきになって叫ぶディモ。


「落ち着いてディモ。いきなり僕達が現れたんだ。取り乱すのは仕方ないよ」


ディモに落ち着くように言うデュイ。デュイが少年に話しかけようとする前にに少年がデュイの腰にしがみつく。


「お願い、僕は殺さないで。僕は子供だよ。腕もこんなに細いし、ガリガリだ。食べたって美味しくないだろうし。それにまだ十三歳なんだ。お願いだから僕は殺さないで」


少年がデュイに命乞いをしだす。


「そんなことはしないよ。約束する。君を殺したりなんてしない。僕の名前はデュイ。こっちはディモ。僕達は二神で一神の神なんだ。僕達は君にお願いがあって会いに来たんだ」


デュイがそう言うとパッと離れて「本当に」と尋ね「本当」とデュイが答えるとホッとしたのかしゃがみ込む少年。


少年はデュイを見つめる。


「(さっき、この人デュイって言ったよな。じゃあ、ディモってやつはどこにいるんだ)」


周りを見渡してもそれっぽい存在はいないよなと思う少年。でも、なんとなくそれには触れてはいけないような気がして「僕にお願いってなに?」ともう一つ気になっていた方を尋ねた。


「君に僕達の代行者になって他の代行者と戦って欲しいだ」


「うん、いいよ。その話詳しく聞かせて」


目の前の化け物が自分を殺さないとわかり安心する少年。自分を殺さないのなら一緒にいても問題はないと思い代行者を引き受ける。それに、退屈な毎日が終わり面白い日々が始まる予感がした。


「えっ、引き受けてくれるの」


何の説明もしていないのに引き受けるといった少年に驚きを隠せないデュイ。


「うん」


「こいつ何も聞かずに引き受けるって言いやがった。頭大丈夫か」


気味が悪いと少年を見る目が先程までと変わるディモ。そんなディモに「失礼だよディモ。僕達の代わりに彼は戦ってくれるんだよ」と小声で注意するデュイ。


「話してくれないの」


一人で話しているデュイを見て変な奴だなと思う少年。


「あぁ、ごめん話すよ」


そう言うとデュイが少年にことの始まりから今に至るまでのことを話し出す。自分達が黄道十二神の一神で双子座を司る神だということも包み隠さず全て話した。


「…ってことだけど、なんとなくわかった?」


全てを話し終え少年が話しの内容を理解できたか確認するデュイ。


「うん、わかった。僕は君をとにかく勝たせればいいってことでしょ」


少年が元気よくそう言うと「(絶対この子(こいつ)わかってないな(ねぇーな)」と思う二神。


「ん?ちょっとまて。俺達な俺達二神を勝たせるんだ。わかったな」


少年を指差し訂正するよう言うディモ。


「そうだね。僕達二神を勝たせてね」


ディモを宥め少年に優しく訂正するデュイ。


「あぁ、そうだね。ごめんなさい。君達二神をだね」


頭を下げてて謝る少年だが、少年の目にはデュイしか見えてはいない。


「わかればいいだよ、わかれば」


偉そうに言うディモに対して苦笑いするデュイ。


「あっ、そうだ。これから僕なんて呼んだらいい?やっぱり神様だから様はつけたほうがいいよね」


少年がそう尋ねると「当たり前だろーが」と怒鳴るディモ。


「好きに呼んでいいよ」


ディモを抑えながら言うデュイ。そんなデュイの姿を見て様はつけたほうがいいなと判断する少年。


「じゃあ、デュイ様とディモ様って呼ぶね」


「うん、いいよ。僕達は君のことなんて呼べばいいかな」


そういえば、少年のこと何も調べずにきたから名前だけでなく何も知らないデュイ。後でこの少年のことを調べなければいけないなと考えていると、ディモも同じことを考えていたのか同意するように頷く。


「僕はジャック・グレイス。ジャックと呼んで」


「わかった。これからよろしくねジャック」


ディモはジャックに手を差し出す。


「うん。こちらこそよろしくデュイ様」


差し出された手を掴み笑顔で応えるジャック。

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