スター、輝け(5)
ステファニーのホライズンの左拳とヴァン・ブレイズの右拳が連動する。無意識に放った打撃にヴァラージは意表を突かれたらしく立ち直っていない。そこへダブルパンチが炸裂した。
「シャゴッ!」
「おかわりだ」
そのまま踏み込むミュッセルの左の掌底が脇腹に添えられる。
「
「グギャアー!」
「効くだろ?」
想像以上の効果がある。生体である怪物には浸透系の打撃は殊更効くらしい。悶え苦しむ様子が事実を裏付ける。
(再生能力がある以上、斬るよりは打撃のほうがダメージ蓄積が大きいのか?)
とはいえ、深いダメージを負わせられるほどの打撃を使えるのは少年だけ。
苦し紛れのフォースウィップは狙いが甘い。ステファニーは半身で躱して機体を滑り込ませ、逆手に持ったブレードで腹を突く。グリップエンドに左手を添えてまで鋭さを増したものの脇腹をかすめたのみ。
(振り抜く!)
刃を横に滑らせて薙ぎにいく。ブレードが甲殻を断ち両断できるかに思えたが、ヴァン・ブレイズの蹴りが胸に直撃してズレた分、浅く裂くに終わった。
「強引すぎたか」
「ばかやろ。俺を当てにしすぎだ」
ヴァラージのフォースクローが赤い腕で止められている。そのままなら肩口を貫かれていただろう。さらに左の爪も空振りしている。当たればコクピットを直撃していたかもしれない。
「こいつは痛みに鈍いのか?」
「知るか。我慢してんだろうよ、動けないと死ぬんだかんな」
生存本能のなせる技だという。
「もうちっと崩してから飛び込まねえと相打ちになっちまうぜ?」
「わかった」
「次行くぞ」
そのまま攻めるということは、ミュッセルは彼女の度胸を悪いとは思っていないようだ。ホライズンの性能に酔って驕らず、攻撃を続ければ転機があると考えているか。
「なんというぎりぎりの攻防ー! ヒヤヒヤしつつも手に汗握ってしまいます!」
傍目には際どく見えている。
ヴァン・ブレイズは凄まじい足捌きで生体ビームを四門とも誘って撃たせてしまうと、まわり込むフォースウィップをショートジャブで弾きながら懐に入る。低くスピンしてリクモン流の打撃を下から通した。
ステファニーは背中の語る呼び込みにブレードを伸ばす。ストンと落ちた機体の向こうには怪物の胸。今度こそ突き立った。
「ギシュ」
「くぅ」
睨み据えられている。危険を感じてそのまま突き入れるか、一度引くか迷った。そこへ下からミュッセルに手を打たれてブレードは上に跳ねる。切り裂きながら抜けた。
「これでも際どいか」
「手に負えねえな」
両機はかすめたブラストハウルに弾き飛ばされる。ヴァラージも左胸を縦に裂かれて後ろに倒れた。痛み分けといったところへ飛び込んでくる影。
「いっただきー」
「串刺しー」
モニカとロニヤの姉妹が逆手のブレードを何度も突きおろして追い打ちを掛ける。やむなくリフレクタで防御を固めた怪物は耐えている。そのまま押し切ろうと姉妹は奮闘するも、駆体をひねったヴァラージに足払いされて転がされた。
逃げる間もない二機のヨゼルカは絶体絶命かと思われたが、立ち上がった敵の足がバルカンビームで半分削り取られる。彼女の後ろからも狙撃が走り、胸元に直撃して再び転倒させた。
「上手いぜ!」
走り込んだミュッセルは右手でヴァラージの上に乗る。全身を放りだすように跳ねると左手で空を打った。
「下門撃グラビノッツゼロ!」
「ゴガッ」
ヴァラージの巨体がわずかに地面に沈む。それほどの衝撃が相手を襲っている。しかし、思ったほどのダメージが与えられていない。
(胸の傷が……)
すでに塞がりかけている。
「もう一発喰らえ!」
「ジャアー!」
今度は両手が胸に当てられ逆立ちで空を蹴った。さらに衝撃は増していると思われたが、沈む上半身に合わせて跳ねた下半身が蹴りに転じてヴァン・ブレイズを打つ。赤いアームドスキンは地面を跳ね転げていった。
「げほ……。くそったれ。回避できねえとこを狙いやがって」
「ゴ……ガ……」
完全に相打ちだった。両者ともふらつきながら立ちあがる。しかし、ヴァラージのほうは立ちあがっただけに留まらない。
斬ってもいない脇腹が裂ける。そこから触手が幾本もうねりながら伸びると、絡まり合い形をなしていく。甲殻を浮きあがらせて完成された。
「ちっ、副腕かよ。でも、短すぎて間合いが足りねえんじゃね?」
「シュルル」
「ってぇ!」
急にヴァン・ブレイズが横っ飛びする。背後の地面が爆発するように土を巻きあげた。よく見れば副腕の先に手はできず、四つに割れた口が開いている。
「ブラストハウルも増えるのか」
「変形しやがって」
難しくなったと感じる。
「待って。それでいいの」
「ばかやろ、メリル。強化されてんじゃん」
「違うわ。ヴァラージは溜めているリソースを割いてダメージ補修をしたり変形したりしているのよ。エネルギー供給がない以上、徐々に弱体化させていると思ってかまわないわ」
理屈を理解する。
「続けろってか?」
「ええ、いつか尽きるから」
「どんくらいだ?」
「さあ」
(最後の返事だけ心許ないのは勘弁してほしいものだが)
ステファニーは少し気が抜けてしまった。
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