スター、輝け(4)

「『ステファニー・ルニエと天使の仮面』の夢のタッグが現実にぃー! これはクロスファイトファンには見逃せないバトルとなってまいりましたぁー!」

 フレディの絶叫は今日一番だろうか。


 ステファニーが真剣に振るったはずのブレードは茶褐色の甲殻の表面を削っただけ。中継されているとわかっているのに思わず渋面になってしまう。


「深めに踏み込まねえと、とんでもねえ反射神経で躱してくんぞ」

 ミュッセルから忠言が来る。

「今ので理解した」

「しびれるくれえ面白い敵だろ?」

「そんな感想を抱くのは君くらいのもんだ。ブラストハウル!」


 警告に身体が反応する。預かったフルスペックホライズンはとてつもない反応速度で軌道から飛び退いた。

 女王杯決勝の後に提供してもらい、それから夢中になって乗ったがまだ限界を見せてくれない。怖ろしいほどの柔軟性とパワーで彼女を虜にする。


「ミュウ?」

 それなのに少年は回避もしていない。

「ジャッ!」

烈波れっぱぁー!」


 突きだされた掌底が宙を叩く。「バン!」と破裂音がして衝撃波の波が同心円状に土埃を巻きあげた。ヴァラージはその勢いに仰け反っている。


(あまりの予想外に動けないか)

 数歩後ずさって動きを止めた。


「やっぱりか。その気になりゃ相殺できるもんだ」

「誰が実戦中に試す」

 呆れてものも言えない。


 気を取り直した怪物が攻撃を再開するも、立ちふさがったヴァン・ブレイズがフォースウィップを全て弾き返している。必殺技『絶風ぜっぷう』まで用いる大盤振る舞い振りである。


「テンパリングスターが撤収したら教えろ」

 背中を撃たせないようにする攻撃だったらしい。

「距離1200。もう十分」

「予定あんなら俺のナビスフィアにも命令送れよ」

「冗談」

 コマンダーのメリルの声には棘がある。

「あんたみたいな破天荒なパイロットなんて、わたしみたいな用兵家には天敵みたいなもの。なに言ったって、そのとおりに動かないでしょ?」

「なんで俺にだけ当たりが強えんだよ?」

「胸に手を当てて、よーく考えてみなさい!」


 ヴァラージとバトルしながら口喧嘩している。その神経は理解できない。誰も彼についていけないのではないかと思う。


「仲がいいのだな」

「誰がよ、ステフ」

「うらやましい」

 遠慮のないメリルの言葉は心地よい。

「思ったより使える。大胆に動かしてもらってかまわない」

「そう? じゃ、遠慮なく」

「勝手言わないで、ステフ。それと置いていかないで」


 デオ・ガイステのメンバーがようやく追いついてくる。空色のアームドスキン『ヨゼルカ』が一団となってやってきた。


「ここでモニカとロニヤのチャガー双子姉妹が参戦ー! 続いてヤコミナ・ポスケ選手にマヌエラ・フィルコデ選手も登場ー! 躍進著しいチーム『デオ・ガイステ』が我らを救いにやってきたぁー!」

 バルカンビームとともに実況も浴びせられる。


 チームでの練習時間が増え、実力は比較にならないくらいに上がっている。元から人気のあったデオ・ガイステだが最近はクロスファイトのコアなファンまでもが彼女らに注目するようになった。ファンメッセの層の変動が物語っている。


(変に気負わずに試合を楽しもうって姿勢も彼らにウケたんだろうか)


 女王杯以降にチーム運営がアップしているメンバーのパーティ動画も類を見ない人気を博していた。自身、以前より作り笑いをすることなど少なくなったと思う。心の在り様の変化をファンは見抜いているのだろう。


「合わせてこいよ。お前ならできんだろ?」

 変えてくれた男が今、隣を占めている。

「無論。多少のアレンジはヤコミナやメリルが吸収してくれる」

「無茶言わないでー。あたしは慣れない実戦でわりといっぱいよ」

「そいつの言うことなんて聞かずにわたしに従いなさい。勝たせてあげるから」


 思ったより纏まりがない。それでも負ける気がまったくしないのは、彼女ら一人ひとりが頼りになると確信しているから。


「モニロニはステフの反対側に。ナビスフィア注目」

 慣れないうちはヤコミナが翻訳している。

「マヌエラはステフたちのバックアップ。双子はあたしが付くから」

「了解。これって詰め気味で行けってこと?」

「下手に動きまわるとビームが居住ブロックまで流れちゃうでしょ。際どい距離まで詰めて攻撃」

「ワオ、ハードぉー」


 賑やかではあるものの、いつもの空気に必要以上の緊張感がほぐれていく。メンバーも今までのように遠慮気味なところもなくなり気の置けない関係になっていた。


「気配読め」

 ミュッセルの注文は厳しい。

「どうやって?」

「アームドスキンの外観よりゃわかりやすい。ずっと生物臭えから慣れろ」

「簡単に言う」


 つい甘えが含まれてしまう。十歳も離れているというのに寄り掛かりたくなるほど逞しさを感じていた。


「こうか」


 ヴァン・ブレイズの横に入る。跳ねてきたフォースウィップをリフレクタで押し込みながら接近。肩のレンズ器官に発射の気配を感じてしゃがんで回避。見下ろす怪物の目に殺気を覚えて左の拳にナックルガードを落とした。殴りつけてブラストハウルを逸らす。


「やるじゃん」

「君の横に並ぶ以上はね」


 ステファニーはミュッセルに合わせて拳を振りあげた。

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