モンスターブレイカーズ(前編)

秋合宿(1)

 ツインブレイカーズとフラワーダンスの合同秋合宿は、例によってヘーゲルの実機訓練場と隣接する保養施設で行われている。ラヴィアーナ・チキルス主任から、今回は他のワークスチームのようにトレーナーを付けるか打診されたが断ってしまった。


(こいつらに稽古つけられるトレーナーがどこにいるってんのよ)

 少年二人を見てビビアンはため息。


 片や、本格的な正規軍トレーニングを当たり前に受けてきた狼頭の少年。片や、ガチガチの実践派格闘技道場で鍛錬に明け暮れた美少女っぽい少年。下手な人間を入れたところで役に立たないどころか放りだしかねない。


「んで、ヴィアとジアーノは?」

 ミュッセルが尋ねてくる。

「主任たちは機体格納庫ハンガー詰め。ホライズンのマッスルスリング搭載後の戦闘データ検討と会議と導入作業のくり返しだって」

「本来の仕事に掛かりっきりか」

「あんたが変な発明品任せるから大変なの」


 ホライズンの主要駆動部はマッスルスリング機構に切り替えられている。しかし、全ての駆動機がというわけではない。メンテナンス性やコストの兼ね合いを見るために、末端部に関してメンバーそれぞれの機体ごとに搭載の是非を検討している。


「例えばサリだとスティープルに張り付くから足首と手首周りの強化」

 マッスルスリングロッドの増設等をしている。

「あたしのはビームランチャーの取りまわしメインで手首の強化と指先までの搭載みたいな感じで」

「膝周りも強化してえとこだな。マシュリに訊きゃいいのによ」

「テストも兼ねてるから安易にしないって。市販機バージョンにどこまで搭載するかで販売価格が左右されるでしょ? その調整するためにコスパの基礎データ化も図らないといけないみたい」

 説明されて理解したビビアンと違い、彼は途中で察したようだ。

「確かにな。お前らで実験してんだ」

「言い方悪い。あたしたちワークスチームの本当の意味だもん」

「俺的には全部入れ替えちまってハイパフォーマンスに仕上げてくれたほうが面白いんだぜ?」


 ミュッセルはニヤニヤしている。どうせなら高性能機同士で試合したいとか思ってるのだろう。


「それがね、一番動くビビ機は全換装の案もあるみたいよ。メンテナンスコストがどれくらいになるかもチェックしたいって話がこぼれてた」

 サリエリもニヤリとしている。

「そうなの?」

「会議の議題になってると思う。そんなこんなで、あっちはあっちで大忙し。だから今回の合宿は放置されるっぽい」

「それこそ言い方悪いだろう? 自由意志って言ってあげなよ」

 グレオヌスが耳の後ろを掻いている。

「任されちゃったのはほんと。ただし、社のほうも年度末休暇に入ってるから保養施設では控えめにって」

「いつもより人が多いのにゃ」

「繁盛」

 ユーリィやウルジーは見まわしている。


 今いるのは社員用トレーニングルーム。それなりに他部門の従業員も利用している。ただし、彼らが何者かも知っていて遠慮している空気があった。


「悪いことしちゃってるかも」

 ビビアンは視線が気になる。

「気にしない気にしない。あの人たち、タレントのステージ眺めてる目してるし」

「見せもんじゃねえんだがよ。ま、使わせてくれるんなら我慢するっきゃねえな」

「そゆこと。場所代だと思って我慢」

 レイミンがまた皮肉る。

「じゃあ、再開しようか?」

「グレイ先生が休憩終わりだってよ」

「ふぁーい」


 思い思いに座ってドリンクを手にしていた八人は立ちあがる。エナミ一人が半袖トレーニングウェアで、他八人はフィットスキンである。


「プランクとヒップリフトを交互にやろう」

 グレオヌスが寝転がる。

「ずっと体幹訓練?」

「基礎だからさ。芯が決まると自在になる。ミュウを見てるとわかるだろう? どんな姿勢を取っても簡単には崩れない」

「言われてみたらそう」

 試合中に崩されないのは圧倒的に有利だ。

「さっきまでのスクワットより全然楽」

「ずっとしてられるのにー」

「ずっとは無理」


 基礎筋力の高いユーリィには簡単でも、彼女含め他のメンバーは九十秒を超えたあたりからプルプルしてくる。各所の筋肉に意外と負荷が掛かっていた。


「きっつ!」

 また汗が噴きだしてくる。

「ギリまで耐えよう。そのくり返しで」

「涼しい顔で言われると腹立つ」

「その恨みはあとで僕に本気で打ち込んで解消してくれていいからさ」

 グレオヌスは冗談交じりに厳しいことを言う。

「でも、あっちよりマシかもぉ」

「エナはよく平気で」

「愛は偉大」

 ウルジーが声を震わせる。


 エナミは一人、ミュッセルからリクモン流の体幹訓練を受けている。かなり効率的なのだとか。ただし、格好は悪い。がに股で延々と歩かされたり、後ろ向きにジョギングさせられたりと見られて恥ずかしい鍛錬。早々に断ってグレオヌスに師事している。


「あれはあれで理論的なんだけどね」

「無理むり。否定はしないけど、人目のないところだけにして」


 二人して三点倒立していた。ミュッセルなど、そこから両腕だけになったりをくり返す始末。どういう筋力をしているのか呆れてしまう。


「このあとは組手するからさ。適当に余力残しておいてくれるかい」

「残るか! 休憩挟まないと……動けないわよ!」


 ビビアンは息も絶え絶えに訴えた。

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