四天王フローデア・メクス(5)

 σシグマ・ルーンの広角ディスプレイ機能の視点を切り替えて俯瞰にした。そこにはリングセンターのオープンスペースから見えなかったものが映っている。全速で移動しているサラとベスのアームドスキンだ。


(見つかったって思ったんだ)

 ビビアンは確信した。


「あれ、されると身体が反応するし」

「よね、ミン。ほとんど強迫観念」


 指さされたのは二機の砲撃手ガンナーのレイ・ソラニア。まさに狙撃しようと姿勢を整えていたところを指摘された。だから砲撃をやめて移動したのである。


「わたしたちって迎撃力に劣るから」

「発見イコール反撃って意識に直結するし。スナイパーやってる期間が長いほど反射的に身体が動く。フローデア・メクスみたいなトップチームのガンナーならなおさら」


 サリエリもレイミンも今は動ける。近接戦闘もできるので接近されても即座に撃破に繋がるわけでもない。しかし、狙撃態勢に入ったところで発見されたと感じたら、ほぼ反射で退避行動に移ってしまう。


(だから、表向きなにも起こらなかったように見えた)

 二人は即時退避行動に移行したのである。

(フリーズの魔法ね。よく言ったもんだわ。相手を動けなくするわけではないけど、攻撃できなくさせる魔法)


 ミュッセルはスナイパー心理を理解して逆手に取った。どうやって発見したかまではわからないが、数十分の一秒で到達するビームをブレードスキンやブレードナックルで撃ち落とす彼ならそう難しくないように思えた。


「でも、ブラフはブラフなのよね」

「うんうん、本当に応射がくるわけじゃない。ヴァン・ブレイズはビームランチャー持ってないし、蓮華槍れんげそうは使わないって宣言してるし」

「効果があるのは数回かも。無理矢理にでも反射行動を抑え込めば……」


 狙撃を阻止したミュッセルはボズマのレイ・ソラニアに集中できて打撃を重ねている。ただし、合間に指差し行動を余儀なくされる所為で撃墜ノック判定ダウンまでは持っていけない。


「このままだとガンナーのほうが慣れるけど」

「ミュウはそんな程度のまやかし・・・・で満足するタイプじゃないし」

 砲撃手ガンナー二人はこのままなわけではないと思っているらしい。


 数度にわたり指さされた砲撃手ガンナーが脱兎の如く逃げだす展開が続いたのちに、とうとう我慢できるようになった。すると、ミュッセルは見るなり一気にダッシュする。次の瞬間にはあと少しで彼の間合いというところまで接近していた。


「ぎゃーって感じだし」

「心臓がキュって縮んじゃう」


 レッグハンターのベスは伏せ撃ちの姿勢で耐えてしまった。そこへヴァン・ブレイズが来たものだから立ちあがるのもままならない。打ちおろされる拳打を咄嗟に転がって避けるのが精一杯だった。


「なに逃がしてんのよ、ボズマ! 前衛トップの仕事してよ!」

「いや、急にだったから。ジャンプしたとこだったし」

「だよな。馬鹿の一つ覚えみてえに跳ねまわってりゃ幾らでも振り切れるぜ。可哀想にな。お前ら、見殺しだ」


 半ば死の宣告とも取れる台詞を投げ掛けられる。スナイパーを心胆寒からしめるに十分な言葉の鎖。それが彼女たち二人を縛り付けるだろう。


(まさか、こいつ……。フリーズの魔法ってこっちのこと?)

 ビビアンさえも強張らせる。


 砲撃手ガンナー前衛トップが相手の反転攻撃を阻止してくれると思っているからこそ静止して精密狙撃姿勢を取れる。しかし、これをくり返していれば剣士フェンサーを信用できなくなっていくだろう。結果的にスナイパーは機能しなくなる。


「駄目だし。もう、当て撃ちしかできないと思う」

「ええ、狙いもそこそこにビームばら撒くのがせいぜい。そんな狙撃、ミュウは怖くもなんともない。すると?」

「もしかしてボズマ選手終わってる?」


 ビビアンの言葉はそのとおりになる。ミュッセルは直撃弾だけ避けるなり弾くなりしながら剣士フェンサーのほうへと目を向けた。

 ジャンプの際へ蹴撃を見舞う。着地した瞬間、足を払って転ばせる。最後のほうは構え一つで空中の機体に無理な加速をさせて慣性力でダメージを負わせる。


(やりたい放題じゃない)

 だんだんと憐れに思えてきた。


 削られて力ない斬撃をくり出すボズマ。易々とブレードスキンの表面だけをこすらせたミュッセルは着地間際のレイ・ソラニアの懐に入っていた。両手が上下にずらして当てられる。


烈波れっぱ


 胸部前面を強かに打たれたボズマ機は弾道軌道を描いて100m以上飛んだ。ほぼ全力の烈波れっぱだろう。そんなものの直撃を受けて耐えられるわけもない。


「バイタルロストぉー! ボズマ選手、ノックダウぅーン! とうとうフローデア・メクスに脱落者が発生ー!」

 リングアナが声を張りあげる。


(早めに楽になったほうが幸せかも)

 転がったままピクリとも動かない黄緑のアームドスキン。


 容赦ないミュッセルの攻撃にビビアンは少し呆れた。


   ◇      ◇      ◇


 ユーシカは内心驚いていた。


 コマンダーが推奨したとおりのマッチアップは成功する。彼女とエイクリンでグレオヌスのレギ・ソウルに対抗し、その間にボズマとサラ、ベスの砲撃手ガンナー二人でヴァン・ブレイズを落とす作戦。

 予想に違わずツインブレイカーズは試合当初からオープンスペースでの戦闘に応じる。フローデア・メクスが得意とする場所で。


「ボズマめ、油断したか」

「見ていなかったが、そうかもしれない、エイク」

「仕方ない。俺があっちにまわろう」

「いや」


 ユーシカは恋人の意見に異を唱えた。

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