四天王フローデア・メクス(4)
開始と同時に攻撃を仕掛けたボズマ機とは別に、
(ボズマ機は暴走じゃない。ちゃんと
ビビアンはそう洞察する。
「このマッチアップは失敗。女帝との相性でグレイを選んだのかもしれないけど」
エナミもまったく同じ読みだと発言からわかる。
「逆にいえばボズマ選手とグレイは合わないわね。あの程度の連撃じゃ簡単にしのがれちゃう。反撃する余裕もあると思う」
「それも加味してのマッチアップなんだろうけど」
「ミュウは当たりを引いたのか、厄介なほうを押しつけられたと言うか」
エナミとサリエリは苦笑している。
ボズマ機のオマケにサラとベスという狙撃手の援護が付いてきた。その二人がミュッセルを苦しめるだろうと敵コマンダーは読んでいるか。
ベスが「レッグハンター」と呼ばれ伏せ撃ちスタイルなのに対し、サラは「エアハンター」、つまりジャンプショットを得意としている。サリエリと似た角度のあるビームで狙うスタイル。
「さすがに二枚も付くとミュウも苦しい?」
ビビアンはそちらのほうが難しい戦局と思える。
「そうかな? そうでもないと思う」
「どうして、エナ?」
「見ていればわかる、きっと」
あわよくば脚部破壊を目的とした足払いするようなビーム。それがヴァン・ブレイズに襲い掛かる。不用意にジャンプしないミュッセルは武術家特有の足捌きを駆使して回避していた。
併せてボズマ機も継続して斬撃を加えている。彼のスタイルはジャンプが多いので
「へいへい、もうジリ貧じゃん。いつまで避けきれると思ってるぅ?」
「癖強えな。ま、それだけだがよ」
「強がりもいい加減にすれば?」
素人目に見ると厳しいように思えるかもしれない。しかし、ビビアンたちは背筋が凍るようなものを見せられていた。ミュッセルの足運びだ。
足払いのビームから機体を躱しつつ、サラからの角度のある狙撃も上半身の動き一つで回避している。するすると自然に見える移動で、ここしかないという隙間を縫っていた。
「躱してるだけじゃない」
「間合いも測ってる」
呼吸を合わせてボズマ機がステップインする。ヴァン・ブレイズの前で踏み切り、回転斬りを見舞おうとした瞬間、上半身はするりと滑り肘打ちがその腹部へと突き刺さった。
「おごぉ!」
「目の前でピョンピョン跳ねんな。目障りだっつってんじゃん」
ビームの密度が増し追い打ちこそ仕掛けられないが、今のは芯の通った一撃だった。パイロットは相当なダメージを受けただろう。かなり体力を削られたはずだ。
「ボズマ選手がステップするスペースを作ってた。わざと」
サリエリも瞠目している。
「誘導されたわ。あたしでもきっとそこに踏み込む。ジャンプはしないけど」
「ただのターゲット」
「よね、ウル。確実に一発もらう」
初めて直面するフローデア・メクスのメンバーは気づいていないだろう、自分たちが動かされていることに。ミュッセルは足運びだけでそれを演出している。一発たりとて喰らわないよう立ちまわりながら。
「で、でも、単発の反撃しかできないんじゃね?」
荒い呼吸を継ぎながらボズマが言う。
「ノックダウンまでは持っていけないって。君は踊りつづけて最後は落ちるしかないっての」
「んじゃ、そこまで追い込んでみせやがれ」
「すでに術中じゃん」
観客からは両者とも強がって膠着状態に入ったと見えると思われる。しかし、ボズマたちのそれは強がりでも、ミュッセルは違うとビビアンにはわかる。面白がっているときの声音だからだ。
(でも、なにする気?)
そこまでは読めない。
「いっちょ魔法を見せてやろうか。フリーズの魔法を」
ミュッセルがうそぶく。
「なに言っちゃってんの。苦し紛れにしても面白くないって」
「まあ待てよ。面白えのはこれからなんだからよ」
「口の減らないガ……、お子さんだねぇ」
ボズマは興奮してきている。追い詰めているはずなのに少年が一欠片の動揺も見せないところが心理的に作用しているのだろう。反対に追い詰められはじめている。
「始めっか」
ヴァン・ブレイズがステップを刻みつつゆったりと旋回している。
「そこ!」
真紅の指先が
「か、勘弁してよ」
「あんなの、泣いちゃうじゃない」
(ん、なに? あれ? まさか?)
だんだんとお腹のあたりが冷たくなってくる。
サリエリとレイミンが青ざめている理由にビビアンは思い当たった。
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