第12話 波澄と過ごす日

「早く着いたな」


 今日は波澄と、休日に初めて出かけに行く日。

 学校外で波澄と関わることは今日が初めてなため、少し緊張してしまう部分もあるが、相手が波澄なためその緊張感は不要だとも思える。

 待ち合わせ時間よりも十分ほど早く待ち合わせ場所に着いてしまった俺は、その後も波澄のことを待ち……五分後。

 見慣れない格好をした、見慣れた人物が俺の元にやって来た。


「ごめん、待たせちゃった?」

「今来たから気にしなくて良い」

「よかった」

「……」


 波澄の私服を見るのは初めてだが、白のトップスに少し透けているベージュのカーディガン、そして白のワイドパンツと、相変わらず私服もオシャレらしい。


「目つきいやらしくない?」

「え……!?そんなつもりじゃない、波澄の私服姿を見るのは初めてで、相変わらずオシャレだなって思っただけだ」

「冗談だよ、ありがと」


 そう言って、波澄は優しく微笑んだ。

 ……相変わらずと言えば、波澄は今日もピアスを付けて来ている、が。


「今日はいつもとは違うピアスなのか?」

「え?あぁ、そう……学校では丸いやつにしてるけど、休日とかはこういうキラキラしてる感じの付けたいから」

「そういうことか……波澄に似合ってて良いピアスだと思う」

「ありがと……ピアスに気づいてくれるなんて思ってなかったから、結構驚いちゃった」

「毎日波澄のこと見てるんだから、気づかないわけない」

「毎日……!?」


 波澄は、その毎日という単語に対して何故か驚きを見せた。

 何故驚いたのかわからないが、一応俺は補足しておく。


「学校で毎日会ってるだろ?休日とかは会ってないにしても、ほとんど毎日会ってるんだからそのぐらい気づく」

「あぁ、そういうことね……」


 波澄は一度大きく深呼吸をして言った。


「私は、今日繋義と過ごせるならどこでも良いけど、このまま立ち話っていうのもあれだからとりあえずどこか入らない?」

「そうしよう」


 俺と波澄は、街を見渡しながらなんとなく落ち着けそうな場所を探しながら歩き始めた。

 そして、歩きながら俺は伝え忘れていたことを波澄に伝える。


「言い忘れてたけど、今日は夜一緒に過ごすことはできない」


 姉さんに「すみれちゃんと出かけるのは良いけど、夜までには絶対帰ってきてね!あんまり遅くなっちゃうと色々心配だから!色々!」と言われ、確かに夜遅くになると、姉さんに心配をかけてしまうため、俺はそれを納得して受け入れた。


「夜……!?」


 そして、波澄は何故か驚いた反応を示した。


「そうだけど、それがどうかした?」

「よ、夜って……え?って、私そんなにいきなりって思ってなくて、何も準備してないっていうか……でも、繋義がそうしたいって言うなら、私は良いんだけど……繋義は、いつが良いの?」

「……いつ?」


 波澄が顔を赤らめてそう聞いてきたが、俺には波澄が何を聞いて来ているのかが全くわからなかった。


「言わせるつもり……?」

「ごめん、俺の理解力が低くて波澄が何を言ってるのかわからない……今日俺は姉さんに夜までには帰ってくるように言われたから、夜は一緒に過ごせないって言っただけなんだけど、それでいつが良いっていうのはどういう……?」


 俺がそう聞くと、波澄はさっきまでとは違う感じで顔を赤らめ、早歩きで目の前にあるカフェに歩いて行った。


「は、波澄?」

「あ、あのカフェ行こ!あのカフェ、友達が落ち着いてる雰囲気しててまた行きたいって言ってたから、良い感じだと思うよ、カフェ巡りが趣味の友達が行ってたから間違いないよ」

「……そういうことならそこで良い」


 波澄の勢いが凄かったため、俺はその波澄の勢いに乗っかる形で波澄と一緒にカフェに入った。

 飲み物を頼んで席に着いた頃には、波澄もいつもの波澄に戻っていて、かなり落ち着いている様子だった。


「もう大丈夫か?」

「うん、ごめん……」

「謝らなくて良い」


 そう返事を返すと、俺は頼んだコーヒーのストローに口をつけた。

 知らない名前のコーヒーだったから、知的好奇心をくすぐられて買ってみたコーヒー。

 どんな味がするのか────


「苦っ……」


 口の中から体全体までを覆い尽くすようなこの苦味。

 多少苦いぐらいなら飲めるけど、ここまで苦いものは飲めない。


「ちゃんと飲めるの買わないと……シロップかける?」

「あぁ、頼む」


 波澄は優しい顔つきでシロップを取ると、それを俺のコーヒーに入れた。


「……まだ苦いかもしれないから、私が味見してあげよっか?」

「良いのか?」

「……うん」


 そう言うと、波澄は俺のコーヒーが入っているタンブラーを手にもつと、少しだけ間を空けてからそのストローに口をつけてコーヒーを飲み込んだ。

 すると、少し頬を赤くして言った。


「……甘いよ」

「そうか、ありがとう」


 俺は波澄にお礼を言うと、波澄が俺のコーヒーが入ったタンブラーを返してくれたので、そのストローに口をつけ────


「苦っ!は、波澄!まだ全然苦い!」

「そ、そう?私は甘かったけど……」

「どこが甘いんだ!」


 俺はやけになってシロップをあと二個ほど入れて、ようやく飲めるようになったコーヒーを飲む……コーヒーは程よく甘いに限る。

 俺がコーヒーを飲んでいると、その間波澄は何故か俺の口元をずっと見ていた。


「俺の口に何か付いてるのか?」

「え?何も付いてな……ううん、やっぱり付いてるよ」

「気づかなかった」


 俺は急いで持参していたティッシュで口元を拭い始めた。


「ダメだよ繋義、そんなのじゃ取れないから……今はまだ間接だけど、いつか……もっと取れないくらい────」


 その後、俺と波澄は映画を一本見て、また別のカフェでその映画のことや他の色々なことを話したりしていると、夕方になって来たので、暗くなってくる前にそれぞれ家に帰ることにした。

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