第11話 二つの気持ち

「おかえり紡!最近は早く帰って来てくれるね!」

「友達との時間も大事だけど、俺にとっては姉さんとの時間も大事だから」

「もう〜!紡〜!」


 帰ってくるなり、姉さんは早速顔を赤くして一人ではしゃいでいる。

 最近早く帰ってきてるのはさっき姉さんに言った通りの理由と、俺の帰りを待ってくれている姉さんのことをできるだけ寂しい思いにさせたくないからだけど、今日は姉さんに一応伝えておきたいことがあったから早く帰ってきた。


「姉さん、今日早く帰ってきたのは、姉さんに一応伝えておくことがあったんだ」

「私に伝えておくこと?」


 俺は靴を脱ぎながら言う。


「今週の休日に波澄と二人で出かけることになった」

「……え?」


 その言葉を聞いた姉さんの声は震えているように聞こえた。

 姉さんが驚いてしまうのも無理はない。

 俺は今まで、異性と二人で出かけたことなんてなかったからだ。

 俺は靴を脱ぎ終えると、玄関に上がって姉さんと向き合った。


「そうなんだ……二人で……」


 姉さんは驚いているんだと思っていたが、姉さんの表情は驚いているという表現をするにはあまりにも暗かった。


「姉さん?どうかした……?」

「う、ううん、どうもしてないよ」


 姉さんは俺に笑顔を見せてそう言った────が、それに騙されるほど、俺は姉さんと浅い関係じゃない。


「どうもしてないことない、姉さんが何か思ったなら、どんなことでも言って欲しい、俺たちは兄弟なんだから……言いたくないことは言わなくて良いけど、今の姉さんの笑顔は言いたいことがあるけど言えないって感じの笑顔だった」

「……紡にはなんでもバレちゃうね」


 そう言うと、姉さんは頬を膨らませて大声で言った。


「私とは二人で出かけてくれることなんて買い出しの時ぐらいしかないのに!すみれちゃんとは休日に二人でお出かけするってどういうこと!?私はそのことに不満を持ってるの!」

「え……?そ、そんなこと?」


 姉さんの表情が暗かったからもっと深刻な何かかと思ったけど……


「そんなことって何!?紡は!私とのお出かけをって言いたいの!?」

「ご、ごめん姉さん、そういうつもりじゃ……姉さんが俺と出かけたいって思ってくれたなら、俺だってそれを蔑ろにしたりしないから、いつでも言って」

「いつでも?じゃあ私が今すぐ一緒にどこかご飯食べに行こって言ったらすぐ一緒に来てくれるの?」

「うん、姉さんがそう言うなら俺は一緒に行くよ」


 俺は即答した……が、少し間をあけて色々と他の考えが過ってきたため、それを急いで口にする。


「でも、今から出かけるってなると今日の課題をやるのがいつもより遅くなるから、睡眠時間がいつもより短く……そ、その時は、姉さんに課題を教えてもらってもいい?」


 俺はさっき即答してしまったが故に、少し気まずさを覚えながら聞く。

 すると姉さんは────


「うん!その時は……ううん、いつでも私が教えてあげるから、私のこと頼ってね」


 と、今度は嘘偽りのない笑顔を俺に見せてきた。


「ありがとう、姉さん」

「……今日はもうご飯作っちゃってるけど、今度一緒にどこか食べに行こうね」

「うん……姉さんの料理より美味しいお店あるかな」

「いっぱいあると思うよ?」

「俺が今まで食べた料理は、姉さんのが一番美味しかったから、いっぱいあるとは思えない」

「紡〜!またそんなこと言って〜!ちゃんと今日もご飯作ってあるから、今から一緒に食べようね!」

「わ、わかったから、背中押さないで姉さん!」


 そして、俺と姉さんは一緒にリビングに入ると、俺は椅子に座って、姉さんはキッチンにご飯を取りに行った。


「紡……さっきの気持ちは紡も受け入れてくれたけど、の私の気持ちは、私と紡が、紡には受け入れてもらえない……紡、ごめんね」


 ご飯を取りに行くだけにしては少し時間がかかっていたような気もするが、姉さんがご飯を持ってきてくれた。


「はい、紡!」

「ありがとう姉さん、時間かかってたみたいだけど、俺も手伝ったほうが良かった?」

「ううん、今冷蔵庫にある具材で明日のお弁当どうしよっかなって思ってただけだよ、心配させちゃってごめんね」


 姉さんは、俺に背を向けて自分の席に足を進めながらそう言った。


「それなら良かった」


 そして、俺と姉さんはいつものように一緒にご飯を食べ始める。

 姉さんと居る時間は……やっぱり楽しい。

 その楽しいと思える時間を噛み締めながら姉さんと一緒にご飯を食べ終えると、俺は今週の休日、波澄と出かける日の服装やどこに行くかとかをぼんやりと考えながら眠った。

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