第10話 兄弟の繋がり
「波澄、昨日はありがとう」
朝教室に入ると、俺は早速俺の席に居た波澄に昨日のことでお礼を言った。
「昨日……?」
「姉さんにサプライズするって話、おかげで姉さんが喜んでくれた」
「あぁ、よかったね」
そう言って、波澄は珍しく微笑んだ。
波澄は普段会話をしていて表情を変えることは少ないが、こういう時に自分のことのように微笑んでくれるというのは波澄の性格の良さを表している。
だが、その波澄の表情が、微笑みから少し落ち着いた表情へと移り変わり、波澄が口を開いた。
「繋義と繋義のお姉さんって仲良いよね、家でもあんな感じなの?」
「俺としては、できるなら外では自重してほしいと思ってるけど、姉さんは家の外でも中でも変わらないと思う」
「そうなんだ……あんなに美人で胸大きくて優しいお姉さんが居たら家でも楽しそうだね」
「美人で優しいのはその通りかもしれないけど、胸……?」
「え?繋義のお姉さん胸大きいじゃん」
「そう、だけど……今の話の流れで何か関係あった?」
「男子にとっては大事でしょ、胸」
波澄は表情を一切変えずにそう言った。
その落ち着いた表情でなんてことを言うんだ……全く関係無いかと言われればそれは違うと思うし、人それぞれ好みがあるぐらいには大事なものだとは思う、けど。
「血の繋がった姉さん相手にそんなことでどうこう思うはずない、その辺りは物心ついた時から意識しなくてもそうなってた」
「じゃあもし、お姉さんと血が繋がってなかったら?」
「そんなこと考えたこともないからわからないし、事実血は繋がってるんだから考えても意味ない」
「それは……そうなんだけどさ」
波澄は俺の回答に納得がいっていないようだった。
でも、俺からこの回答以上の何かを出すことはできない。
「ごめん、難しいよね、私もお姉ちゃんと血が繋がってなかったらって言われても想像できないし」
「あぁ……それだけ、兄弟の繋がりは深いってことだ」
姉さんとの繋がりを、改めて感じることができた。
姉を持つ者同士、良い話ができたような気が────
「その言い方はなんか嫌なんだけど」
「え……?」
「別に私、お姉ちゃんと深く繋がってたくないし」
「そ、そういう話じゃなかっただろ?それに、今のは結構良い感じに話がまとまったと思ったのに……」
「繋義だって私のお姉ちゃんに会ってみたら絶対私の気持ちわかってくれるって、会ってほしくないけど」
……俺は昨日姉さんにサプライズをしたように、姉さんに感謝はあっても姉さんの嫌なところなんてない。
でも、人によっては波澄みたいに、姉とか兄弟とかも仲が良くない人もいる……兄弟、か。
「そういえば、私と今度どっか一緒に出かけるって話覚えてる?昨日の朝繋義のお姉さんにサプライズするっていう話の後にした話」
俺が考え事をしていると、波澄がピアスを弄りながら話を振ってきたため、俺は今考えていたことをリセットして波澄との話に意識を向ける。
「覚えてる、行きたいところとかできたのか?」
「行きたいっていうかさ……どっかの休日に、繋義と二人で過ごしたいなって思って……場所とかは、別にどこでも良いから」
「わかった、じゃあ今週の休日にでも出かけよう」
「え、今週……?」
「ごめん、急すぎたなら────」
「ううん、今週で良いよ……今週、今週ね」
波澄は落ち着いた声音で自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
そして、この場には小さく金属音のようなものが響いていた……その音の方に意識を向けてみると、その音の出どころは波澄のピアスだということが判明し、波澄がとても速い速度でピアスを弄っていることが原因だとわかった。
その直後にチャイムが鳴ると、波澄は足早に自分の席に歩いて行った。
「……何だったんだ?」
俺が急に言ってしまったことが悪かったのか……でも嫌だったという様子でもなかった。
……とにかく、波澄と今週の休日に出かけることになったし、帰ったら一応姉さんにも伝えておこう。
ということで、放課後になると俺はすぐに家に帰り、今週の休日に波澄と二人で出かけることになったことを姉さんに伝えることにした。
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