第143話 発覚①

◆発覚


 市村小枝子は両腕を組み病室の壁際に立っている。その後ろにはサイドテーブルがある。そこで看護師が点滴などの準備をするのだろう。


 俺は芙美子のシーツに静かに手をかけた。

 芙美子、悪いが、見させてもらうよ。

 手の状態はすぐに分かった。包帯が巻かれていると思ったが、違った。

 剥き出しの左手は・・指が長いどころか、その先端が、短く、先が無くなっていた。

 つまり、爪に当たる部分が無くなっているのだ。


「不思議なのよねえ」後ろで市村小枝子が言った。

「不思議とは?」

「これは、担当医から聞いた話なのだけど、最初は、指はもっと長かったのよ。それが日を追うごとに短くなっていったらしいわ。信じられる? この科学の時代にそんな話を」

 市村小枝子はそう言った。


 だが、俺は短くなった芙美子の指を見ながら、あることを思っていた。

 ファミレスで近藤の顔面をカニのようにふさぎ込んだ両手の指は異様に長かった。

 会社の小山田さんが、クレーンゲームのように工場長の頭を掴んだ時もそうだった。

 芙美子は・・

 誰かに憑依する度に、その指を消耗していったのではないだろうか。

 あくまでも俺の推測だ。

 だが、それ以外に短くなっていった指をどう説明するというのだ。


 そう思うと、目頭が熱くなってきた。

 ・・芙美子、頑張ってくれていたんだな、こんな俺のために。

 芙美子は生霊として、俺の傍にいる女性に憑依した。

 その惨劇の都度、憑依の代償のように指が短くなっていった。

 そんな短くなってしまった指が俺には愛おしく思えた。

 気がつくと、涙が零れていた。

 ごめん・・そして、

「ありがとう・・」

 第三者がいなければ、俺は泣き崩れていたかもしれない。そして、芙美子を抱き締めたかもしれない。

 その代わりに「ああっ」と感情が噴き出すような声が洩れた。

 芙美子、俺は、何ということを・・


 その時、

「失礼します・・」

 病室の静けさを打ち破るように、一人の女性看護師が入室した。

 若い小柄の看護師は、市村小枝子の後ろで、何かの準備をし始めた。定期的に色々とあるのだろう。血圧を測ったり、体の具合をチェックしたり、と。

 その後、続いて、彼女の先輩のような年嵩の女性看護師が入室し、彼女の指導のようなことを始めた。若い方は新人なのだろう。


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