第22話 《窮地》
《22話》
【魔界─邪竜ファヴニアルの棲家】
“グギェァアアァアア!!!”
──けたたましい咆哮をあげ、複数の邪竜が魔物討伐隊の悪魔達に向けて襲いかかってくる。
正直なところ、この邪竜はファヴニアル"本体"では無いものの、手駒や雑魚と討伐隊からは言われているコイツも十分に強力な邪竜であると言える。
(……多分今の俺の力ではフィリスの助け無しには勝つどころか生き残ることすら厳しいだろう)
「陣形を構築!盾役は前へ!ヤツらの攻撃に合わせてカウンターを叩き込む!」
ガイルと呼ばれているこの討伐隊の責任者…通称"ガイルのおっさん"は戦場でも指揮を執り、討伐隊の他メンバーはそれを忠実に実行している。
勿論この討伐隊の中には超級と呼ばれる悪魔の中でも相当にレベルの高いメンバーがいる訳であり…
いくらガイルのおっさんが隊の責任者とはいえ指図されるのを嫌う悪魔が居てもおかしくはないだろうに…
それだけこのおっさんが信頼されているという証拠であろう。
"ギィィィァァアアア!!"
一定距離を空けて飛翔していた1匹の邪竜がしびれを切らして討伐隊に向け爪を立てて飛びかかってくる。
──防御をしっかりしなければ爪で引っ掛かれるだけでも相当なダメージ、無理矢理掴まれ上空から叩きつけられるなどすれば致命傷にもなりかねない。
勿論悪魔は空を翔けることが出来るが空中戦となれば竜は天空の支配者だ。空中戦では正直分が悪い。
邪竜が攻撃してくるタイミング──つまり、空中から攻撃のために降りてくるタイミングで確実に狩るという作戦だろう。
邪竜の棲家の天井は洞窟の入り口より更に上に高く、邪竜が戦いやすい状況にある。
それをどうやって自分達の土俵に誘い込むかが、勝負の鍵だな。
「ヒューガ!お前は邪竜にカウンターを浴びせる先鋒だ!これから超級へ至れるかはこの戦いに掛かっている。心してかかれ!」
とガイルのおっさんは声を張り上げる。そのおっさん自身も防御陣形の中心で邪竜の猛攻を凌ぎきっている…
「それは責任重大っスねぇ!俺が攻撃に集中できるよう攻撃の引き受けは頼んだぜ!おっさんら!」
ヒューガは背中に担いでいた長く、そして先端が三叉に別れた悪魔がよく持っている特有の槍を構える。
おっさんらと呼ばれた超級であろう防御役の悪魔達は
「俺らをガイルのおっさんみたくおっさん扱いすんじゃねぇ!」
とグチグチ言いながらも、邪竜の攻撃に対し魔力を込めた防御壁を形成し、突っ込んできた邪竜の攻撃を引き受けていて…
──邪竜が咆哮をあげながら突撃してきた瞬間に、防御壁が邪竜の行く手を阻む。
邪竜はその
邪竜が諦め、一度距離を取ろうと離れかけた瞬間ヒューガを始め追撃役が"ズドン"という訳だ。
「おォォらよっとォォ!!」
ヒューガの三叉槍に魔力を込めた一撃は邪竜の背後から心臓の位置を一突きである。
それによって動きが鈍った邪竜に他のメンバーが更に追撃を加えていく。
(非常にスムーズかつ無駄の無い連携だ……最初の会話ややり取りを見ていて、この討伐隊の悪魔達は仲がいいという印象を持ったが…やはり戦い方が洗練されていて、このメンバーで何度も戦って来ている証拠だろう)
"グギ…ュアアァァアアアア!"
──けたたましい最期の断末魔をあげ、邪竜の手駒は崩れ落ちるように倒れ込み絶命する。
(すでに邪竜の手駒は13体撃破か……あらかた撃破できたんじゃないだろうか…流石超級と上級の討伐隊だ。ただそろそろ本体が出てきてもおかしくないだろう…)
しかしながらその"本体"というのが一向に姿を現さない。普段とは少し違う状況なのだろうか…討伐隊の中に不安や、妙な緊張感が伝播しているように感じる。
「ガイルさん、いつもなら10体くらい倒せばファヴニアルの本体が怒って降って来るのに‥‥どうなってるんですかね?」
と一人の悪魔がガイルに話しかける。
「むぅ……不在だとは思わない。そもそもファヴニアル自体が不在であれば雑魚邪竜は湧かない…」
「なら、討伐隊が今回きっちりメンツを揃えて来てるからビビって来られないとか」
「そうであればどれほど良いだろうか───みな、とにかく集中力と警戒を切らすな!邪竜本体の奇襲に備えろ!」
『おう!!』
ガイルのおっさんは討伐隊全員に向けて今一度指揮を高めさせる。
しかしながら何かが変だ。
そもそも邪竜というのはこそこそ奇襲をかけるタイプなのだろうか…
邪竜ファヴニアル…きっと自分の力に自信があり、そのプレッシャーも凄まじいものがあるはずだ…
しかしながら邪竜の気配は今一切していない。こんな事はあるのだろうか…しかし俺の中に嫌な予感がよぎる。それは…
"邪竜ファヴニアルが何かしらの影響で力をつけて、今フィリスがやってるような気配の絶ち方を身につけていたら…中にいる竜人?が策を変えていたとすれば…"
というものだ。仮にそうであれば、入り口を塞がれると撤退という選択肢を取れなくなる……
「なぁ、フィリス…」
俺はその可能性を問うためにフィリスに話しかけてみる。
───が、先程まで隣に居たはずのフィリスは俺の横からは消えていた…。
(え?フィリス…?全く音も立てずに消えた…どこに行ったんだ…)
「………は?」
フィリスを探しながら俺は少し周りをキョロキョロと見渡すと俺の熾天使の目は信じられない光景を目にする。
───あ…終わった…。
(俺は本能的にそう考えることしかできなかった…)
俺に安全マージンを取らせる為に討伐隊の悪魔達は前衛で確実に邪竜のタゲを取らせて俺の方に取りこぼしが来ないようにしている。
しかし、邪竜ファヴニアルは気配を絶って"俺の後方"に現れたのだ!
しかしながらそれは熾天使の目を持つ俺だから気づけたのであって…討伐の悪魔達はまだ気付いていない…
(まさに俺が想像した最悪の状況じゃねぇか…)
俺は声を必死に絞り出そうとするが…
(なんでだ…声がでない──!緊張している訳じゃない…だが…この近くにいる圧だけでも身体が硬直する!喉が乾ききって焼け爛れたみたいに痛い……自分の力だけではコイツに傷一つつけられないだろう…まずい!振り返れば終わる!だが振り返らなくてもコイツからは逃げられない…!)
「カ……ヒュッ……」
という掠れた声しか出てこない……
(無理だ、なんでフィリスは居ないんだ…俺は…死ぬのか…死にたくない…死にたくない…死にたくない…!!)
邪竜の瘴気にあてられた瞬間、心の底から暗い感情が無理矢理引き出される…まずい、このままでは勝つ負ける云々の前に心が…
(こんなんで俺はこの邪竜に勝てるのか………?)
情けないが俺の今の顔は涙が溢れ、視界が歪んでしまい戦う以前で話にすらなっていない。
(俺はもう駄目だ…何がフィリスが居たら安全だよ…フィリスの助けがなければ何も出来ないじゃないか…。イレギュラーだの特異点だの言われて自分は特別だと舞い上がって勘違いをしていたんだ…。裁判でフィリスを助けられたからフィリスの横に並び立つ資格があると僅かでも思ったのが大間違いだったんだ───)
瘴気は俺の身体を蝕んでいき、だんだんと自分の意識が闇の感情に呑まれ始める…。
(これが…邪竜の瘴気の効果なんだろう。瘴気には精神を蝕む効果もあるんだろうな……)
遠くで俺の異変に気づいた魔物討伐隊の悪魔達が駆け寄ろうとしてくるが…後ろの邪竜の威圧で足が竦み、動けない悪魔が続出する。
遠くでガイルが
「見学者だからと彼を見捨てる訳にはいかない!皆、動けるものは彼を護れ!」
と言っているのが聞こえた気がするが…俺はそれを平常心を保って聴ける精神状態じゃない。
──その時だった…身体の中が熱く燃えるような…腹の底から力が湧き上がるような裁判中にも感じた"あの"感覚がし始めた。
──フィリスの力が俺に勇気を与えてくれている。俺の左側の白い翼が再び燃え上がりそうなレベルで光を纏って…
(でも…ごめん。"フィリスの加護"…それでも俺はやっぱりコイツには勝てない…ごめん…!)
『ハァ…情けないな…これが、新たな姿か…数千年ぶりの目覚めにしては随分と拍子抜けだ…。だが、フィリスと"仲間"だという状況は悪くない…』
───!?今の発言は…間違いなく俺の口からではあり、身体を操られたような気配も無いのだが…
なんだ、この違和感は…。自分の記憶に…"間違いなく自分のモノ''だと自覚しているのにも関わらず長らく封印されて閉ざされていたものが解放されたような感覚が流れ込む……
──しかし、だからと言って今の状況がどうにかできるというものでもない…
(むしろ、ピンチな状況に加えて理解不能な事象は余計に自分を追い詰める…)
俺は力を与えてくれているフィリスの加護の力に申し訳無さで謝りながら目を閉じる…もう駄目だ…
「──だったらさ…私に頼れば良いじゃん…?ディガル君」
───俺の目の前に一目惚れした…いや、何度も…今も現在進行系で可愛いと思ってる熾天使が光を纏い舞い降りてくる…
こんな登場の仕方はズルい…安堵したからか俺の顔は涙でグシャグシャになっていると自覚している。だが…フィリスの姿を見ればどう頑張っても一生この熾天使には頭が上がらないだろうなと実感した。
「んー…"私の"ディガル君をこんな風に泣かせた相手を私は許すつもり無いんだよね…?」
「貴様は…熾天使…!なぜここに天界のしかも、最上位の天使がいる!」
目の前でフィリスの姿を目撃することになった討伐隊の悪魔の一人が声を荒らげる。
それに対してフィリスは
「アハハ…♪私は、私の"所有する"大切な存在を…勇気づけに来たんだよ。」
《22話完》
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