100万PV達成記念SS その3 神山勝也編
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
初めて彼を見た時上手いリフティングをするからつい声をかけた。
自分より小さい子供があそこまで上手く長い事回数を続けられる者は早々いない、上手い奴が1人でやっているのは勿体ないと思った。
そして何度か共にボールを蹴っているうちにこいつは此処へ留まるべきじゃないと自らの所属する柳FCのクラブへ誘う。
これが神山勝也と神明寺弥一の始まりだった。
最初弥一はDFとして上手く行かず勝也がアドバイスを送れば彼は行動を起こすのが早く躊躇いが無い。
体格差を補う為に合気道の教室へとその日から通い始め、元々そんな声を出せる方じゃないにも関わらず声を出すよう努めた。
可愛がっていた弟分は目覚ましい成長を見せて気付けばクラブで1番のDFにまで成長、4年生にも関わらず6年生と同じチームに入る事になった。
頼もしくなった弥一、これだったら昨年に敗れてしまった相手にもリベンジ出来るかもしれない。いや、絶対やってやろうと勝也は最後となる少年サッカー大会で雪辱と優勝を目指して日々練習に励む。
そして迎えた全国少年サッカー大会決勝戦、相手は昨年敗れてしまった因縁のチーム。
エースが欠場しているが天才GK工藤龍尾によってチームは勝ち進み優勝候補本命と言われている。
決勝戦が始まり柳FCが攻勢に出る、パスを繋ぎ味方のストライカーがコースを突いた良いシュートを放つが龍尾はこれを横っ飛びのダイビングキャッチで取ってしまう。
そこからカウンターが仕掛けられるが弥一によって阻止され、柳FCは失点を免れていた。
攻めても攻めてもゴールが割れない、味方選手達は龍尾からゴールを奪う事は無理なんじゃないかと心が折れ始めてくる。
後半の終盤で足も重くなる時間帯、このままゴールを割れずにまた終わるのか。
「敵さんも苦しいはずだよー、此処乗り越えれば勝てるよー!」
そんな苦しい中でも此処までゴールを守り続けている弥一、その声を聞いて勝也は前を向く。
「準優勝なんかくそくらえだ!優勝するぞお前らぁーーー!!」
己を、仲間を奮い立たせ勝也は再び龍尾の守るゴールへと迫る。
執念が実ったか勝也のドリブルに相手DFがたまらずファールで止めてしまう。主審が笛を鳴らすとPKの判定。
天才GKと向き合う勝也、普通に蹴ったのでは通じない。そう考えたのか此処で彼は賭けに出た。
助走を全く取らずにノーステップのキック。流石の龍尾もこれは読めておらず止められない。
ゴールが決まった瞬間に勝也は喜びの雄叫びを上げていた。
勝也が決めたゴールの中でこれが最も嬉しい得点だ。
これが決勝点となり柳FCが全国制覇、弥一と勝也で初めて掴み取った優勝だった。
その後に勝也は小学校を卒業、中学サッカーの強豪校である柳石中学へと進みそこのサッカー部へと入部する。
来る日も来る日も基礎練ばかりで不満が出て来た頃に成海、豪山と出会い更にその1年後には京子がマネージャーとして入部。
この時勝也はある事を考えていたが、思い切った行動には中々踏み込めずにいた。
そんな時にある日弥一からイタリア留学行きの知らせが届く、彼は日本の中学に行かずイタリアで本場のサッカーを学ぶつもりだ。
昔から思い立ったらすぐに行動へ移す、勝也はそんな弥一の姿を見て羨ましいと感じた事がある。
弟分の旅立ちを見送った後に勝也は決心を固めた。
高校は強豪校に行って全国制覇を目指すのではない、0からサッカー部を作り出してそこで全国制覇を目指せるチームを作る。
このまま強豪校に行けば1年から試合に出る事は困難、自由なプレーは出来ないかもしれない。
それなら優秀なコーチや監督といった事は学生達でやって自分達のサッカーを作り上げる、その方がやりがいあって面白そうだ。
勝也は思い立ったら苦手な勉強へと打ち込み立見への入学を目指す。
こんな漫画ぐらいでしかあり得ない非現実的な事にわざわざ成海、豪山、京子は付き合ってくれた。
無事に揃って立見高校へと入学し、サッカー部を創設すると仲間達と共に全国制覇を目指して走り出す。
全国を目指しての戦い、冬の選手権。強豪校を相手に前半4点のリードを許し力の差を思い知らされる。
部員達は下を向いていた、現実は甘くない。やっぱり無理なのかと。
だが彼らは強豪校を前に萎縮しているだけに過ぎない、それに気づかないチームに対して勝也は声を荒げた。
「今日のお前らは最低の弱さだ!こんなんで全国行けると思ったのか!?このまま負けて悔しくないのかよ!悔しいなら……!」
「本気でサッカーやれよ!!」
荒ぶる感情に任せて勝也は言葉を吐き出し切る。
これが立見の息を吹き返すきっかけとなり後半、一気に2点を返し追い上げて行った。
最終的な結果は5ー2、立見が強豪校を本気にさせた1戦だった。
此処からチームはもっと強くなる、伸びしろがあると勝也はより練習に熱を入れて上達を見せていく。
その中で幸せな事もあった。
中学時代から京子に対して恋心を持っていて勝也は雪が降るクリスマスイブの日に京子へと告白。
互いを想い合っている事が分かり勝也と京子は互いの唇を重ねて幸せを噛み締める。
勝也はこの時京子を絶対幸せにしようと誓っていた。
だが無情にも彼の体に病魔が確実に忍び寄って来る。
ある日勝也は自分の体が思うように動かない事に気付く。そして病院へと1人向かうと彼は絶望に叩き落される。
手遅れの末期癌、自分がと信じられない気持ちだった。
それを知った勝也は家族やサッカー部、京子にも打ち明けず1人家の布団に籠って病気の恐怖に震えてその日泣いた。
何時死ぬか分からない恐怖、それが勝也を襲い追い詰めていく。
病をなんとしても治すために今のサッカーを捨てて治療に専念するか、それとも病を隠し通して今まで通り戦って行くか。
勝也が選んだのは後者だった。
此処でサッカーを捨てたらなんの為に立見に来たのか分からない、病も治るとは限らない。
文字通り勝也は命を賭けてサッカーへと残りの人生を捧げる。
日に日に体が思うように動かなくなっていくのを必死で誤魔化し新たに入部した間宮、影山、田村と期待の1年ルーキーを中心に後輩を指導していった。
ある日勝也は京子に最近勝也の練習時間が少ない事が気になり追求されるが勝也は後輩の育成が大事だと言って誤魔化していた。
本当だったら目の前の彼女には打ち明けるべきかもしれない、自分の病を。
「(京子…悪い)」
京子を呼ぶ後輩の声、それに京子は向かい彼女の後ろ姿を見送り謝る。
「っ!!」
急に体が苦しくなってしまい、椅子に座っていた勝也は倒れる。
激しい苦しみに襲われる中で彼は不思議と頭の中で理解出来た。
ああ、もうタイムリミットか…と。
薄れゆく意識、勝也は様々な人物の顔が浮かんで来ていた。
父と母、兄の太一。成海、豪山とサッカー部の仲間達。
そしてイタリアへと渡った弥一。
彼の成長もひと目直に見たかった。
「(京子…幸せに出来なくなって…本当ごめん)」
自分の最期を悟った勝也は心の中で京子に対して謝罪。
病気じゃなきゃ結ばれて共に人生を歩むはずだった。
最後に出て来た京子の顔を浮かべつつ勝也は意識を手放した。
立見を卒業後に京子は勝也の眠る墓へと訪れていた。
「貴方の作り上げた立見…全国制覇したからね、勝也の立見が最強と仲間が…弟分が証明してくれたから」
勝也の墓前で京子は立見が全国制覇をした事を報告、高校最強と言われた八重葉学園を決勝で下し選手権初優勝。
1人の高校生が0から作り上げたサッカー部は伝説を作り高校サッカー界の歴史の1ページに刻み込んだ。
これにより神山勝也という人物が創設したサッカー部だという事が世間で知られるようになっていた。
「ね、あなたのお父さん…凄い人なんだよ」
京子の足元に引っ付いている1、2歳ぐらいの銀髪の男の子。
彼の特徴を受け継いだ幼い子は目の前の墓をじっと見上げていた…。
ーーーーーーーーーーーーーーー
弥一「あのー、その子ってどう見ても…そうなっちゃいますよね?」
京子「考えてる通り、彼の子」
弥一「ええー?そんな感じ全然無かったですよー、子持ちの母なんてー!」
京子「見せなかったから、周りのサポートもあって育児と学業をどうにか両立させる事が出来ていたし」
弥一「勝兄貴生きていたらお父さんだったんだなぁ、というわけで此処まで100万PV達成記念のリクエストにお答えしたサプライズSSを3本纏めてお送りしましたー♪」
京子「この先のサイコフットボールもどうぞよろしく」
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