第39話
僕が怒って何も言わずにいると、コバルトは続けた。
「わかった、わかった。分かったからそんな顔をするな…。お前ににらまれても、痛くもかゆくもない」
「あの鯨はどうなった?」
「モービーディックか? あの後は本当に大変だったのだぞ…。だが今日はもう疲れた。おいおい話してやる」
「だって…」
「次のパトロールまで待て。どうせパトロール中は、時間つぶしにダベるしかないじゃないか。その時まで楽しみにしとけ」
言い出したら止まらない。結局この日は、コバルトはもう何も教えてくれなかった。
僕は好奇心で頭が爆発しそうになったまま、引きさがるしかなかったんだ。しぶしぶ僕は、食堂へと戻りかけた。
「おい待て」
僕がジロリと振り返ると、コバルトは面白そうに笑った。
「お前に土産がある」
そう言いながら、僕に向かって投げて寄こしたものがある。何も考えず、僕は反射的に受け取ってしまったけれど、
「何これ?」
思わずそう言いたくなるようなものだった。
大きさは石鹸ぐらい。小石のような見かけで、きちんとした形はしていないが、小石ほど重くはない。
鼻のそばに近づけると、何か奇妙な芳香がある。
「それはリュウゼン香というのだよ。マッコウ鯨のクソの一種だ。モービーディックが偶然ひりだしたのを拾っておいた」
「えっ」
驚いて僕が放り出したのを、コバルトはうまくキャッチした。
「これ1個で、お前の年収ほどの値段がつくのだぞ」
「いらないよ、そんなもの。鯨の肛門から出てきたんじゃないか」
でもコバルトは強引だった。
「いいから持っていろ。でないと、お前の口にネジこむぞ」
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