第38話


 1週間ほどがたち、つまり僕とリリーで1度か2度パトロールを済ませた頃だったけれど、朝食をとろうと食堂へ降りていったら、偶然に中隊長と顔を合わせた。

「お前、あの話は聞いたのか?」

「なんです?」

「ついさっきコバルトが戻ってきたのだとよ」

 そんなことだと思った。

 というのが僕の感想だった。でも朝食はお預けにして、すぐに地下へ駆けていったのだから、僕にだって、かわいいところがあるじゃないか。

 プールへ行ってみると、いたいた。

 このときは7、8頭のサイレンがいたが、でもなぜか全員が一番深い中心部に集まっているんだ。

 しかも車座になり、何かヒソヒソ話し込んでいるふう。

 噂話が好きなのは、人間もサイレンも変わらない。車座の中心にいるのは、もちろんコバルトだった。

 冒険の内容を面白おかしく話してやっていたのだろうが、僕の足音にすぐに反応し、コバルトが振り向いた。

 そして、まだ聞き足りなそうなサイレンたちを後に、こちらへとやって来た。

 コバルトは元気そうだった。

 ケガをした様子もない。髪の色ツヤも変わらず、瞳は輝き、食事に不自由したようでもない。

 なんだかホッとして、もう少しで涙が出そうだったけれど、うまく隠せたと思う。

 ああ、人生の中で何度も経験しないような素晴らしい瞬間じゃないか。

 僕は胸がいっぱいだ。瞳はもちろん見つめ合う。

 だけど何もかもぶち壊し。あの腐れサイレンの第一声はこうだった。

「トルク、何か言ったらどうだね? それともリリーに舌を食われたのか?」

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