第35話


 5分間かそこら、鯨は僕とリリーを引き続けた。

 ロープはピンと伸びて波間に消え、僕は僕で、まるでジェットコースターに乗ったような気分だったが、それもあっという間に終わりを告げた。

「あら?」

 当てが外れたような顔をして、リリーが声を上げたんだ。ロープにつながれていた手首を引き寄せる。

 もはやロープは力なくダラリとし、リリーが手繰り寄せると、すぐに終わってしまった。

「切れてるのかい?」

 リリーは、ロープの終点に目を近づけた。

「切断面から見て、コバルトが噛み千切ったようですね」

「どうして?」

 一瞬言葉を止め、リリーは僕を振り返った。さっきまであれほどスピードが出ていたのが、今はもう波にプカプカ浮かんでいるだけだ。

「これ以上あなたを巻き込まないためでしょう。コバルトなりに気を使っているのですよ」

「まさか」

「まさかも何も、これが真実ですよ」

「どうしよう?」

 2人とも何も思いつけないでいるままに波はやがて完全に静まり、見回しても、さっきの大騒ぎを思い起こさせるものは、もはや何もなかった。 

「…」

 しばらくして、リリーが口を開いた。

「船へ戻りましょう。ここにいても、できることは何もありません」

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