第13話
僕の口からは、こんな言葉がついて出た。
「愛の巣なんて冗談じゃない。僕は誘拐されてきたんだよ。元はと言えば、全部コバルトの責任じゃないか」
もちろんコバルトも黙ってはいない。
「何をぬかす。私は大変なのだぞ。さっきの爆雷のせいで、後頭部の毛が一部抜けてしまった。どうしてくれる?」
「ははん、いい気味だ…。だけど、よくここが分かったね」
「毛は抜けたが、私は爆雷で死んだのではない。深海まで落ちてゆく道半ばで目を覚ましたよ。急いで駆け上がってきたら、リリーがいそいそと、この洞窟へ入る後ろ姿が見えた」
「なんと」
「なんと」
僕とリリーは同時に声を上げた。
つまりこの瞬間、僕をめぐって、コバルトとリリーが相争うという構図が出来上がったわけだ。
リリーは僕をペットとして。コバルトはコバルトで、相棒に対しては変に義理堅いことを僕はよく知っている。
サイレンたちには奇妙な習慣があって、もめごとや喧嘩は、いつも腕相撲で決着をつけることになっていた。
つまらない理由で死人やケガ人を出さないための彼女たちなりの知恵なのかもしれない。
だからイザという時に備えて、サイレンたちは普段から右腕を鍛えている。そういえばコバルトだって、暇な時には用もないのに海藻を引き抜いて練習しているのをよく目にした。
だからこの時も、もう少しで僕の目の前で2匹が取っ組み合いを始め、そこらの小石やら岩やらを跳ね飛ばして、ドスンバタンやることになるはずだった。
「うへえ…」
踏みつぶされたら困るから、僕は洞窟のすみへ移動することにした。ところがそのとき突然、洞窟外から聞こえてくる音がある。
何の音かは分からない。ウォーンと低く遠く、腹に響く不快な音なのだ。
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