オレと睡眠
月が顔を出す真夜中、馬車は停止中。
純粋に周囲が見えにくい、夜行性の魔物は強い傾向がある、少なからず馬車酔いする人がいる、その他諸々の理由で深夜は馬車を停めて休息をとる。
(オレは元々平気だが、馬車酔いしてる奴が3人ぐらいいるな。 護衛選抜には乗り物酔いしない体質か否かの要項がなかったのか? 馬車移動前提の護衛なのに? 護衛の選抜を担当したらしいあの美青年・・・・ベゴニアだったか? アイツ優秀そうな感じしといて結構抜けてんな)
休息をとるといっても、護衛であるからには当然無警戒なワケもなく3人が常に周囲に注意を払っている。
そして一定の時間が経過すると3人が他の3人と警戒役を交代しているようだ。
こうして休憩のサイクルが作られている・・・・そしてそのサイクルからクズルゴはハブられていた。
(なんか気付いたら交代交代で警護してる。 あの警戒サイクルがあればオレが特段気を張る必要ないから体力消耗を抑えられるし、そもそも向こうとはあまり関わりを持ちたくなかったから都合がいいが・・・・・何故か複雑な気分になる)
別に交流したいワケでも積極的に警護するような精神性を持っているワケでもないが、それはそれとして一応同じクエストを受けた自分を除け者にしてなんか協力してるのを見てクズルゴは少し嫌だと思った。
・・・・自分からコミュニケーションをしないと決めた奴が一体どの面下げてそう思ったのだろうか?
「ふぅ・・・・アナタもしっかりと休んでください。 ワタシも少しだけ寝ようと思います・・・・・なんだか、妙に眠い・・・・・」
「あ、はい」
流石にお嬢様も休憩時間にも会話して来る事はないらしい。
(精神的に疲れたし、言われた通り少しだけ仮眠して休むか。 ・・・・御者台だと寝にくいな。 本来なら馬を操作して馬車を運転する為の場所だから当然か・・・・・むしろ寝やすい御者台だったら危険過ぎんな。 ここで寝ると余計疲れそうだし・・・・あとあの20名の近くはなんか気まずいし、ちょっとだけ離れて寝るか)
念の為に休息時間が終わったらちゃんと気づけるようにしておき、クズルゴは木に寄りかかって目を閉じた。
「あの男とお嬢様・・・・・ 二人とも寝たかぁ? 二人とも寝たなぁっっ!! グッスリおやすみだなぁっ!! っあぁっっ!!」
「油断し心に隙を晒している者が吸った時、その者を眠りに落とす効果を持つ霧を発生させる〈眠霧〉の魔法・・・・私の十八番であるこの魔法を発動させたのですよ? 1+1の正解が2である事のように確実な結果です」
「無味無臭かつ無色による完全な隠匿性で狙われた獲物が気付かぬ内に体を蝕み、睡りへと誘う悪魔の霧・・・・貴様も中々の魔法を使うではないか。 勿論我には遠く及ばぬがな!」
「お前等、
「っあぁっっ!! それもそうだなぁ・・・・!! じゃあ、さっさとやるかぁ?」
「〈眠霧〉の効果時間は・・・・・直で吸ったお嬢様は最短一時間、最長六時間眠り続けるでしょう。 散布した霧を徐々に吸ったあの男は・・・・二十分から一時間程度ですね。 ただし〈眠霧〉は元々の疲労や眠気に関係なく強制的に睡眠状態に移行させる為、対象は全体的に眠りが浅くなっている可能性があります。 ワザと揺さぶったりして刺激を与えすぎると簡単に起きてしまうかもしれませんので注意してください」
「あの微睡みに沈みし麗しのお嬢に大いなる振盪を与えるのは定められし禁則事項という訳か。 ククク、実に面白い・・・・・」
「そうだな・・・・
「っあぁっっ!! それならどうするぅ・・・・? 殺すかぁ・・・・ナイフちゃんで殺すのか・・・・? っあぁっっ!!」
「フム・・・・そうですね。 殺してしまいましょう。 あの男は突然登場し、答が100%だった成功確率の計算式を乱し99.98%にまで下げてしまいました。 あのような変数は早急に切り捨てる必要があります。 小数点は、美しくない・・・・・」
ーーーーーーPast logーーーーーーー
【とある里の長の息子と、その許嫁と、ある魔人の会話】
「ねぇ、シレイ」
「なんだ?」
「……ナゼワタシハフタタビツレテコラレタンダ?」
「魔人っていうのは個々によって全く違う異形が特徴的だけど、それと同時に魔人ごとに個性がある能力を持ってるらしいわ」
「あぁ、本で読んだな。 魔法のようで魔法とは異なる理を持つ魔人の能力・・・・魔人能力、或いは魔能と呼ぶんだったか」
「コノナガレハマサカ」
「ラシィの魔人能力は何かしら? ワタシとっても興味があるわ」
「・・・・確かにオレも気になるな」
「ヤッパリミセルナガレカ‼︎ グイグイクルナコイツラ‼︎ エンリョッテモンガナイノカ‼︎」
「・・・・小虫の羽音ぐらいしか声量がないからなんて言ってるか分かんないわ」
「多分アレ何かを伝える為に話してるんじゃなくて純粋な独り言だろ」
「随分激しいわね、まるでシレイみたいだわ」
「馬鹿言え、オレの独り言は基本誰でも聞こえる大きさで話す。 そんじょそこらの独り言と一緒にするな」
「アナタ自分の独り言に誇りでも持ってるの?」
「ナンカイチャツイテル……」
「話が逸れたわね。 それで、アナタの魔人能力って何?」
「ワスレラレテナカッタカ…… オシエタクナイィ…ゼッタイニオシエタクナイィ……」
「え、何だって?」
「ソモソモアノクソオトコ、ワタシヲサトニマネキイレルジキガハヤスギルンダ。 ケイカクノサイシュウダンカイデトウジョウスレバイインダカラサトノタミニソンザイヲシュウチサセルイミハナイダロ! アノフアンショウクソオトコガ! ダカラスクナクトモサトノタミトコウリュウヲナルベクシナイヨウニオドオドトシテメッチャコゴエデシカシャベレナクテダレトモハナシタガラナイセイカクヲエンギシテルノニヨォ……ナンカクソオトコノムスメニラチサレテヒミツキチトヤラニツレコマレチマッタジャナイカ‼︎ コイツラメッチャシツモンシテクル‼︎ ゼッタイニバレテハイケナイノニヨォ‼︎」
「・・・・・」
「・・・・・」
「シカモワタシダゾ? ショジジョウニヨリカンガエコムトクチカラコトバヲタレナガシニシテヨケイナコトヲイウノニテイヒョウガアルワタシダゾ? コゴエカツハヤクチデシャベルノヲテッテイシテルカライイモノノ、サイアクケイカクガカンゼンニダイナシニナルカノウセイガアルンダゾ? ダカラツイサイキンマデウラカタニセンネンシテタノニヨォ……ホントニアノクソオトコハヨケイナコトヲ‼︎」
「お、あったあった。 かなり前に持ち込んだきり秘密基地に放置してた魔道具[増増メガホン]。 これをラシィの口にあてれば声がデカくなってハッキリ聞こえる筈だ」
「お、いいわね。 この子明らかに自分の世界に入ってるし、何を言ってるか気になるわ」
「よし、魔力を込めて・・・・・さぁ言葉を聞かせろ!」
「ソモソモ…・・魔人能力ってのは魔人が成長するにつれ誰に教えて貰わずとも使いこなせるようになり、名前までもが自身の知識やネーミングセンス関係なく勝手に頭の中に浮かぶ・・・・いわば本能に刻み込まれた一種の半身のようなもの。 それをいきなり教えてください? 流石に失礼だろぉ!」
「早口なのは相変わらずだけど、声自体は普通に聞こえるようになったわね。 ・・・・・凄い愚痴ってるわ。 もしかして、さっきから聞こえてなかった独り言も全部愚痴?」
「オドオドした性格じゃなかったのかコイツ・・・・? どっちかといえばオドオドではなくてネチネチでは?」
「でも確かにズケズケと聞きすぎたわね。 誰でも聞かれたくないものはあるでしょう。 謝りましょうか」
「わたしの魔人能力〈
「・・・・・急に気が変わって説明してくれたのかと思ったけど、これも独り言なのね。 余りにも説明的だわ」
「全部詳細に言ってるんだけどコイツ。 独り言の中に『正確に言えば』って言葉出てくる事あるか? というかコイツこんだけ喋ってもまだ声が大きくなってるのにも気づいてないのか?」
「いや本当にさぁ・・・・・・メ、メガホン!? わたしの声が大きい!? い、いつから筒抜けに!?」
「お、気付いた」
「メッチャ動揺してるわね。 聞こえたのはアナタが魔人能力について事細かに語り始めてからよ」
「そ、そうですか。 ・・・・・あ、メガホンはもう勘弁してください・・……ヨシ、カンジンナトコハバレテナイ。 ギリギリセーフダ」
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