オレと個性

 馬車が進み、進んで、進み続け。

 しばらくした時、大きな影が馬車の前を塞ぐ様に現れた。


 「・・・・・!!」


 気配を察したのだろう。

 お嬢様のお喋りも止まり、クズルゴは鞘からレイピアを解き放つ。

 そして護衛用の馬車から20名の男が各々の武器を手に次々と出てきた。

 馬達も綺麗に足並みを揃えて止まり、互いを守るように寄り添っている。


 護衛達が構えてから露わになった気配の正体は、不気味な光沢を背負う節だらけの緑の肌、8mに及ぶ長さを持つ円筒状の容貌、裂けた先端の口には牙がびっしり・・・・森の大喰らい、フォレストワームである。 


 『グッォ、ゴォッ、グゴォ』

 

 不気味な鳴き声と共に、その長い身をくねらせて護衛達へと牙を向けたーーーーー!


ーーーーーーーーーーーー


 戦闘は一瞬で終わった。

 下位とはいえ立派な竜型魔物の一種であるフォレストワームはこの場で物言わぬ骸と化した。

 

 まぁ、それは当たり前であろう。

 こぞって強者共が集う城下街の者から選抜で決まった護衛の20名がいるのだ・・・・むしろ手こずる方が難しい。

 なんなら20名はかなりの過剰戦力、実際フォレストワームは真っ先に動いた3名のみで対処出来た。

 その3名を除く他の人(クズルゴ含む)は武器を出すだけ出して何もする事が無かった・・・・一部の規格外を除き、そんじょそこらの魔物ならば1〜5人の城下街冒険者で討伐可能なのだ、ぶっちゃけ20名は明らかに多すぎる。


 (オレいらなくね? 20名の時点で戦闘力が事足りてるどころかオーバーフローしてるじゃねぇか。 3人だけで下位のドラゴン殺したぞ。 戦闘面でのアピールは難しいなこりゃ・・・・上手く他の点でアプローチして証明書をもぎ取らねぇと)


 そうクズルゴは思案しつつ、意識をフォレストワームを倒した3名に向ける。

 その3名は・・・・・クズルゴが最初【喫茶店アッセンブル】付近で20名の中にいるのを視認した時、“ヤバさ”を感じて敢えてスルーしていたが・・・・なんというか、その。


 とても、個性的だった。

 

 1人は2本のタクティカルナイフを携えている、髑髏を模した化粧を顔に施したスキンヘッドの男。 


 「っあぁっ!! 足りねぇ・・・・もっとブッ刺してぇ・・・・手応えがねぇ・・・・ナイフちゃんもそう言ってる・・・・・ っあぁっ!!」


 彼は誰よりも真っ先にフォレストワームに飛びかかり、体の節目へ向けてナイフを滅多刺しにしてワームの柔軟な動きを阻害した。

 それはそれとして彼は何故かビクビクと痙攣しながらナイフを抱きしめていた、怖い。


 もう1人は魔法の威力を底上げする片手杖を右手に持ち、大きな瓶底眼鏡をかけた男。


 「今回の戦闘で私達の練度を再確認し、私の完璧な未来予想の式に代入した結果・・・・今回の任務を成功させる確率・・・・・99.98%といったところですね。 ふふ、サービス問題ですね」


 彼はナイフで怯んだフォレストワームに向けて高圧水流を打ち出す〈水砲〉の魔法を放ち、その巨躯を勢いよく削った。

 それはそれとして彼は何故か異様な頻度でメガネをクイクイ持ち上げていた、キモい。


 最後の1人はフレイル型のモーニングスターを引き摺り、ヤケに仰々しい黒い眼帯を右眼に付けている男。


 「我が漆黒の鉄棘球にかかれば、例え冥界の王だろうが容易く破砕出来る・・・・くっ、右眼が疼く。 鎮まれ俺の邪眼!!」


 彼は身を刺され削られ息も絶え絶えとなったフォレストワームの頭部にモーニングスターを振りかぶり、完全に破壊してトドメをさした。

 それはそれとして彼は大声で小っ恥ずかしい事を延々と言っていた、イタい。


 実は、城下街の冒険者達は強者でありつつ・・・・同時に、かなりのキワモノである事が多い。

 どれくらい多いかって言うと変人=強いの図式が城下街での共通認識となっている程。

 最早無個性な普通の冒険者の方が城下街では珍しく、それによってかえって無個性さが際立った個性になるというトンチキな事例が発生している。

 この3名以外の17名だって何かしら激しい個性を持っている可能性が高いのだ。


 「やはり“楽勝イージー”な“仕事タスク”だ。 これ程の“ナンバー”が揃っているなら、“完全パーフェクト”に“失敗ミス”はない」


 そして今謎のドヤ顔で発言したのが何故かタブレット型の魔機械を抱えた長髪の男・・・・彼は特に今回の戦闘で役に立っていないが、多分急に喋りたくなったのだろう。


 「皆さん、迅速な対処に心より感謝致します。 では移動を再開しましょう、各々の馬車に戻ってください」


 お嬢様が指示した瞬間、先程まで個性豊かな挙動をしていた奴らが全員スン・・・とした顔になり、無言で元の馬車のキャビンまで帰って行った。

 どういう情緒しているんだろうか。 


 鞘から抜いたレイピアを使う事なくまたすぐに鞘に収め直したクズルゴは、その一連を見て思った。


 (ついさっきまでは関わってはいけないと思い、向こうが特に干渉してこないのをいい事にコチラからアクションを起こさずにガン無視していたが・・・・今分かった、オレの考えは正しい。 絶対に関係を持ってはいけないタイプだ、話しかけられても全無視しよう)


 クズルゴの方針が固まった瞬間である。








ーーーーーーPast logーーーーーーー


 【とある里の長の息子と、その許嫁と、ある魔人の会話】


 「ねぇ、シレイ」


 「なんだ?」


 「この子が例の、最近この里に招かれた魔人のラシィちゃんよ」


 「……ド、ドウモ」


 「え、勝手に連れてきたのか? この秘密基地まで?」


 「えぇ、面白いと思って無断で連行して来たわ。 父は何故かこの子をワタシ達の家・・・・つまり【精霊の里】長の館から外に出そうとしないのよ。 だから父が『地下室で一週間かけて危険な実験をするから誰も入ってくるな』と言った今日このタイミングで連れ出したのよ」


 「情報量多いな。 もっと簡単に言ってくれ」


 「勝手に連れてきたわ」


 「要約が雑ぅ! 情報端折り過ぎだろ」


 「エ、エト。 ワタシハナンノタメニココニ……?」


 「シレイにアナタを紹介しようと思って。 彼に向けて自己紹介して欲しいわ」


 「エ、ア……ラ、ラシィ、デス。 ベビィスライムノマジン、デス、ハイ」


 「・・・・小声のせいで聞き取りにくい。 というか聞こえない」


 「ア、ス、スイマセン」


 「つまりこの子はラシィちゃんという名前でベビィスライムの魔人って事よ」


 「結局お前が説明するんかい。 ・・・・というか、この前聞いた話から情報の更新がねぇじゃねぇか」


 「直接対面させる事自体が主目的だったしね。 別に本人に会わせて新しい発見をさせようとか思ってないし」


 「・・・・・ふと思ったけどよ。 魔人って魔物らしい異形部分を持つんだろ? ワームの魔人なら節目とか牙とか、コカトリスの魔人なら鶏の嘴とか蛇の鱗とか」


 「えぇ、そうらしいわね」


 「で、ラシィはベビィスライムの魔人で、異形部分は頭に生えた2本の触角だろ?」


 「ア、イキナリヨビステスルタイプカァ」


 「ベビィスライムに触角要素なくないか? なのになんでそのベビィスライムの魔人であるラシィは異形部分が触角なんだ?」


 「ソ、ソレハデスネ、マズスライムニハワリトサイキンウマレタタイプトタイコカラソノママノスガタデソンザイスルタイプガイマス。 ゼンシャハジユウジザイニヘンケイデキルプルプルボディヲモチ、コウシャハヘンケイガフトクイデス。 キマッタカタチノキカンヲウマレモッテイルカラデスネ…ユウメイナノダトバグスライムノショッカクカナ。 デモアノスライム、スライムソックリノムシセツガアルンダヨナ……ソンナワケナイノニ。 ア、エト、ツマリナニガイイタイカト、ベビィスライムハタイコカライルヘンケイフトクイダケドキマッタキカンヲモツタイプデ、ジカイスルセイシツノセイデケンキュウガススンデイナイカラロケンシテナイケドジツハトテモチイサナデッパリノヨウナショッカクヲモッテイルンッデス。 ソレガマジントシテニンゲンサイズノイギョウニハンエイサレタノデ、セケンイッパンテキニハナイハズノショッカクガワタシニハエテルンデス。 ホントウハベビィスライムハモトカラハエテルノニ。 マァコレガワタシノイギョウノスベテッテワケジャナイケド。 …… ア、ヨケイナコトイイスギタ」


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 「………」


 「早口過ぎて小声過ぎて全く分からんかった」


 「ヨシ、キコエテナイゾ。 セーフダ」

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