第72話 覚悟は作戦を決起する
「さぁ、蛇討伐に必要な情報も、物も揃った。 事前の仕込みをするぞ!」
検証を終えて唐揚げを食べて数分後。
俺の速度がゆっくりでなくなるまで少し休みつつ作戦を語った。
「・・・・・コレが作戦だ。 皆やってくれるか?」
「やってやるよ」
真っ先に頷くテクル。
「はい!」
ニッコニコで肯定するラスイ。
「・・・・・おれも手伝えるし賛成だぁ」
金化毒で満身創痍にも関わらず積極的な先生。
「・・・・いいと思うっす・・・・ 唐揚げ・・・・・」
賛成こそしてくれてるけど未だ唐揚げを引きずってるシクス。
皆、OKなようだ。
許可も取れたし、作戦決行前の下拵えを始めよう。
俺はなんとかかんとか爆弾を、自力では動けない先生の目の前まで置いた。
そしてその爆弾の右と左それぞれに更に2つの物を置く。
爆弾を真ん中とした、3つの物・・・・まるで団子のように丸いものの列が出来上がった。
食べ物は大事にしなければいけないが・・・これも命の為だ。
「さぁ先生。 ・・・・〈蘇生〉してくれ。 2回だ。 この“キャンディスライムを討伐し、加工で凝縮した”〔のど飴〕を2個、それぞれ蘇生してくれ」
キャンディスライム凝縮のど飴・・・俺が買ったおやつ。
これはその名の通り、討伐されたキャンディスライムの体を100%凝縮させることで作られた飴だ。
先生の〈蘇生〉は自分と体の構造が大きく違くても問題なく、それに蘇生期限の1年は経っていないのが賞味期限から逆算すれば分かる。
「・・・・分かったぁ。 ・・・・・これをやれば魔力以前に体力が限界になって、もう動けなくなる・・・・ 一応の確認だが、それでも大丈夫なんだよなぁ・・・・・?」
「先生の光魔法は謎蛇の金鱗のせいで効かないだろうし、なんならこのダンジョン全部金魔石で出来てるから地形を崩すことも出来ない。 ならば2回とも蘇生魔法を頼むは当然だ。 後は任せてゆっくり休んでくれ、先生」
光魔法を反射してしまう金魔石でなければ、きっと光魔法は輝いただろう。
金魔石で構成されている【贋金まみれ洞窟】だから、ダメなのだ。
「・・・・了解だぁ。 ・・・・ここまで、ありがとうぅ。 ・・・・後は、任せた・・・・・・・〈
先生がポツリと呟くと、それぞれの飴の下に真っ白な文字で構成された魔法陣が現れて白い光を放ち始める。
飴に大きさを合わせてるのか、小さな手のひらサイズの魔法陣だ。
だが神様を信仰してない俺でも何処かに祈ってしまいそうになる程の神々しさを感じてしまう、美しい魔法陣だった。
「・・・・・・きゅう」
光が止み、蘇生が終了した。
すると変な呻き声と共に、糸が切れたかのように力を使い果たした先生は完全に突っ伏た。
誇張ではなく本当に限界なのだろう、まるで仮死状態になったかのように気を失っている。
「先生、どうか安らかに・・・・」
「その言い方だと死んでるみたいだからやめろ」
テクルのツッコミを聞き流しつつ俺は足元のそれを見る。
ちゃんと成功してくれて良かった。
さっきまでのど飴があった場所には、手のひらサイズよりはちょっと大きめだが、踏み潰そうと思えば出来る大きさの2体の半透明な黄色を持つスライムがポヨンと佇んでいた。
魔法により蘇った2体のキャンディスライムだ。
キャンディスライム達は周囲の状況を確認するかのように柔らかい体を見回すように捻った後、互いに近づき始める。
実はこの2体のキャンディスライム・・・蘇る前、のど飴状態の時に俺がそれぞれ少しずつ舐めたのだ。
舐めた後吐き出して手で持ち地面に置くという、かなりばっちいことをしたが責めないで頂きたい、これも蛇に勝つために必要なことなのだよ。
先生の〈蘇生〉は体の欠損は治らない・・・つまりキャンディスライムは俺が舐めた分、本来のサイズより小さくなっている状態だ。
スライムは体の一部を失うと、同種のスライムと融合して互いに補い合おうとする。
今、キャンディスライムは互いに足りなくなった分の体を補う為に近づきあってる。
そして。
2体が衝突して溶けあって融合し始める。
そしてその融合しあってる場所は・・・・・・2体のキャンディスライムの真ん中に置かてた爆弾の位置だ。
溶け合ってくっつく過程で、二体が一体となったキャンディスライムの中に爆弾が取り込まれた。
このダンジョンで最初にエンカウントしたゴールドスライムがラスイを覆ったように、スライムは自分より小さいものを体の内部に取り込むことが出来る。
スライムの融合、取り込みという生体を利用した作戦の為の仕込み。
爆弾入りキャンディスライムの完成だ!
「スライムごときを有効活用するなんてクロイさん凄いです! 魔物について博識だからこそなせる技ですね!」
ラスイのスライムへのヘイトはどこから来るのだろう?
「凄いけどさ・・・・これも魔物だろ? 襲ってこないのか?」
「大丈夫だ、キャンディスライムはかなり人懐っこく、攻撃してこない。 だからこそ簡単に討伐、加工されまくって飴として安売りされているんだ。 それにそもそもの動きが遅いからな。 あまり警戒しなくても大丈夫だ」
「・・・・それなら安心すかね?」
融合により膨張し、膝ぐらいまでの大きさになったキャンディスライムは丸みの帯びたボディを引き伸ばして俺の足に擦り寄っている。
「・・・・どれくらい人懐っこいかっていうと、自分から口の中に入って食われに来るぐらい人懐っこい。 ちなみに体が大きいからそれによって窒息して死亡する事故も多発してるらしい」
それを聞いたテクルは、いつの間にか足を登って俺のお腹辺りまで登っていたキャンディスライムを慌てて引き剥がした。
「こいつ、動きもトロいし力も弱いから簡単に抑えれるな」
キャンディスライムを俺から引き剥がした後。
テクルが誰の口にも入ることが出来ないように、そして包まれている中の爆弾が起爆しないように、程よい力で触手を使い押さえ込んでいる。
程よい力、と言っても柔らかくて衝撃を吸収してくれるスライムのボディに包まれている為ある程度は力加減を間違えても、よっぽどでなければ爆発しなくなっているはずだ。
「キャンディスライムはテクルが最後まで持っててくれ。 そして、シクスはこれを持ってくれ」
俺はさっき受け取った爆弾のスイッチを、再びシクスの手に戻し握らせた。
この爆弾起動のスイッチも、当然ながらこの作戦で使う。
「・・・・僕がこれを持たなくてもいいと思うすけどねぇ・・・・他の人の方がいいと思うすよ・・・・」
「いや、毒で上手く動けないお前には当然毒の射出とか届かない安全圏にはいてもらうが、蛇が見える位置までは連れていく。 俺達は前線にいくからな、壊しちゃったり落としたり、そもそも押す余裕がない状況になるかもしれない。 だから毒でだるい所悪いが、タイミングが来たら様子を見て押してほしい!」
「・・・・分かったすよ・・・ まぁ、だるいと言っても割と喋れるくらいの元気はあるんで、ちゃんと押すっすよ」
「あぁ、よろしく。 次にラスイ・・・・ベビィスライムを凍らせた、〈微冷〉の魔法。 念の為再確認だが。あれで遠くから蛇を冷やすことって出来るんだよな?」
「は、はい! 〈微冷〉で指定して冷やした座標に、風系の最下級魔法〈微気〉を使って蛇の所まで冷風として送れば最下級魔法でも割と冷やせるはずです!」
微冷の魔法で冷やす場所って座標指定だったんだな。
「よし!」
今回の作戦では蛇の動きを少し制限しなければならないのだ。
蛇は寒さに弱い・・・・物理的な攻撃に強くても、温度低下はは有効なはずだ。
「これで仕込みは全部終わった・・・・!」
「・・・本当にこの作戦でいけるんすか?」
「あぁ! さっきの検証で判ったし、いけるはずだ! いけなかったら一時撤退、再考だ! とはいっても毒にやられてる先生の為にも、パーティの皆の為にも、そして病気の子供の為にも、何よりも俺の為にも、一発で成功させてみせる! ・・・・でも失敗したらゴメン!」
失敗を危惧し念の為事前に謝っておいたが・・・本当に失敗するつもりは無い。
「・・・・まぁ、頑張って下さいっす」
「よし行くぞ!」
テクルが有り余る力で気絶中の先生と手や口は動かせるが体が動かないシクスを触手で抱えて運ぶ。
今から蛇の元に向かうが・・・シクスはこの作戦の為に必要だし、先生は気絶中に置いていった方が危険だと思うので近くまで連れていくのだ。
もちろん攻撃が届かない安全圏に置く。
「それじゃあ・・・・覚悟はいいか?」
「出来てます!」
「出来てる!」
・・・・出来てるっす・・・」
「俺も出来てる。 さぁ行くぞ!」
俺達は謎蛇の位置まで、向かい始める。
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