第71話 信頼せよ、彼の者の事を

 「・・・ク、クロイが急にゲートを通って外に出てった」


 この私、テクルはありのまま今起こった事を話した。


 クロイは今さっきまで蛇を倒す為の方法が思いつかず、しかめっ面になっていた。

 しかし急に何かに気付いたかと思えば、説明もせずに私たちを置いて外に向かっていった。


 「ク、クロイさんの試したいことって・・・・何なのでしょうか?」


 「もう何も思いつかなくて1人で帰ったとかではないんすかね・・・・?」


 「いや、それは無いはずだ」


 シクスの言葉を、気づいたら私は反射的に否定していた。


 「・・・・テクルさん・・・・即座に否定するってことはよぉ・・・・かなり信頼してる証だなぁ・・・」


 「・・・・そう言えば。 3人は、いつからパーティ組んでるんすか・・・?」


 やっぱり途中参入だし、そこは気になるだろう。

 新参のシクスはまだパーティに入って1ヶ月程しか経過していないしね。


 えーーーーと、クロイとのパーティ組んだのはいつだったかな・・・・


 えーーーーと。


 えーーーーーーーと?


 「確か・・・・3ヶ月ぐらいです」


 「・・・・そうだね!! 多分そんぐらい!!」


 わ、忘れてなんかないよ?


 「思ってたより短いなぁ・・・・」


 「信頼度的に・・・・数年は行ってると思ってたっす・・・・」


 「信頼って、時間だけが全てじゃないから」


3ヶ月ちょっと前、恐怖から自分でラスイを遠ざけたにも関わらず、ラスイ成分が不足して我慢出来なくなりギルドにいたラスイに突っ込んだ・・・・それがクロイとの初対面。


 あの頃は、ラスイを騙そうとしてるクズ男だと思っていた。

 最終的に、根っからのクズ男ではないと分かった。

 分かったのだが・・・・大体のクエストでただ着いてくるだけで、その上報酬は貰うヒモ男であるというのも分かった。


 ・・・・・・だけど。


 「あいつ・・・クロイは、変わり者っていうか。 ・・・・・他の人とはかなりズレてるところがあるっていうか・・・・」


 本来私達魔人は、差別、そして忌避の対象である魔人。

 よくて頭のおかしい奴からの狂信や畏怖、それが私達に向けられる感情。

 今の世の中の風潮的に直接的な差別こそされていないが、殆どが魔人の事を疎ましく思っているのを感じ取れてしまうのだ。

 

 でも。

 

 クロイは私とラスイ・・・・魔人に対して。

 異形の身への嫌悪の感情でも、魔物の力に怯える恐怖の感情でも、中途半端な同情の感情でも、逆に過度な神聖視とかでもなく・・・・・普通に人と同じように、気軽に接してくる。


 その上、遠慮することなくズカズカと私の心の内を明かそうともしてきた。

 ・・・・まぁ、そのおかげでラスイとの私が勝手に作ってたわだかまりも消えたんだけど。


 他にも金のためにはプライド全捨てで土下座してきたり、現在のクエストに着いてくるだけの現状でも悪びれことはなかったり・・・・・“聖人”とは絶対に言えない。


 ・・・・でも、それでも。

 私が死にそうになったら見捨てず助けたり。

 例え危険でも、それが最善と判断したら躊躇せず実行できる胆力を持ち。

 プライドがないと思ったら、一度決めたことは撤回はせずに実行するための方法を模索する。


 とても、おかしな奴なんだ。


 「・・・・他の人とはズレてる、というか・・・・どこか外れてるって言えるぐらいの変わり者だけど・・・・ ・・・・良い奴だよ。 ちゃんと信頼出来る」


 「はい。 クロイさん、とっても善い人です!」


 私と一緒に満面の笑みでそう言うラスイ。

 私はその横顔を見ると、この状況でも、なんだかホッコリ出来る。


 ラスイとこうしてパーティ組んでるのも、アイツのおかげなんだよなぁ。


 「・・・2人がそんなに言うってことは・・・・クロイ・・・・いや、クロイさんは。 凄い人、なんすねぇ・・・・」


シクスがそう言った瞬間、ゲートを通りクロイが戻ってきた。


 「・・・・ただいまぁ・・・・」


 やけにゆったりとした動きで歩いて来た。

 そんなに疲労してるのか?

 外で何をしていたのだろうか。


 「クロイさん、大丈夫ですか? そ、そんなに疲れてしまって・・・・どうしたのですか?」


 「・・・疲れては、ないかなぁ・・・?」


 クロイの奴、口調まで遅いな。

 先生は5日間寝ずにいた状態と毒による体力の激しい消耗によってさっきから会話速度が遅い。

 でも、外で検証するまでハキハキ喋ってたクロイも遅くなってるのはどういうこった。

 もしかしてふざけて・・・・・ん?


 クロイの腕に赤い物が付着しているのを。私の目は捉えた。

 それは鋭利な物で切り裂かれた・・・・そんな跡だ。


 「おい、その腕の傷は何だ?」


 クロイの手にある小さな切り傷。

 少し出血もしている。


 「・・・あぁ? ・・・・これぇ? ・・・・痛くねぇから・・・・大丈夫だぁ・・・」


 いや、確かにそこまで気にする程ではないかなり小さな傷だけど。

 でも全く痛くないのは嘘だろ?


「・・・・それでぇ? ・・・・わざわざ外に出る程試したかった事とやらは、ちゃんと出来たのかよぉ・・・・?」


 「・・・・先生。 その事なんだが・・・・出来たよ。 あの蛇・・・・倒してみせるさぁ・・・」


 クロイはそう、先生にゆっくりと、しかしハッキリとそう言葉にする。

 さっきまで全く方法が思いついていなかった男の言葉とは思えない。

 クロイがどんな作戦を立てたかは知らない。

 しかし私にはクロイのように知識も、それを組み合わせて策をねれる程の頭脳もない。

 ラスイのような相手の言いたいことを速攻で理解出来る察しの良さもない。


 だから私は言う通りに実行するのだ。


 ・・・・・信頼してるから、安心して言葉に従える。


 「あ、あと・・・シクス、これぇ貰うぞ・・・」


 当然ながら、そう考えていた私などつゆ知らず。

 クロイはいきなり、シクスの近くに置かれていたタッパーぁ唐揚げを1つ取る。


「・・・・え?」


 突拍子もなく自分の唐揚げを目の前で取られ動揺するシクス。

 しかしクロイの動きが遅くなってても、そもそもシクスは金化毒で体が上手く動かせない。


 「(パクッ・・・ムシャムシャ)・・・・やっぱりそうだ」


 「クロイィィィイィィ!!! まだ食って良いとは言ってないぃぃぃぃィっす!!!」


 目前で勝手に自分の大好物を食されて、ずっと毒でだるそうだったシクスは、それが嘘かのように慟哭するのだった。


・・・・そんなに腹減ってたのか?

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