第70話 検証は確信を願う
「えっと。 シクスさん、蛇の注意逸らすためにテクルちゃんが捨てた金化した触手投げたじゃないですか」
先生を救助して撤退した時か。
確かに投げていたし、それで助かった。
シクスがいつの間にか触手を回収している事に少し驚いたものだ。
「わ、私の見間違いでなければ・・・・投げた触手、その時はまだ半分ちょっとぐらいしか金化してませんでした・・・! ですけど、吐き出すような素振りは見せず普通に飲み込んでいたと思います・・・・」
・・・・そう言えばそうだった!
触手は完全な金化をする前だったのだ。
つまり金で無い部分が存在してたのに、謎蛇は食べたという事。
あの謎蛇、スフィンクスネークと違って金以外も普通に食べるのか?
いや待てよ?
「謎蛇は金でなくとも食せる・・・・それはおかしい」
「・・・・・何が、すかぁ・・・・?」
金を以外も食べれるのは蛇の“あの行動”と矛盾する!
「なんで先生を食べずにわざわざくわえて運び、後ろに置いたんだ? しかもその後何もせず放置して・・・・」
先生曰く、謎蛇に毒を注入された後、無抵抗になっていた自分をわざわざ咥えて後ろに運び5日間放置していたそうだ。
この行動、よく考えてみると・・・
先生が毒によって『完全』に金化するまで待っていたと考えるのが一番しっくりくる。
そしてその理由は・・・・しっかりと全部が金でないと食べれないから、ではないのか?
「いや、ただお腹空いてなかったかとかじゃないの? あの蛇あそこから動けないから、そんなに体力使わないだろうし・・・・」
俺の推論に異議を唱えたのはシクスだ。
しかしテクルの理論だと、今度はこっちの行動に矛盾が生じるのだ。
「俺達を完全にターゲットにしていたのにも関わらず、その俺達を放置して投げられら触手に齧り付きにいった蛇がお腹が減ってないとは思えんぞ。 一瞬で食らいついたってことは・・・・なんならむしろ空腹だったんじゃないか?」
「・・・・確かに! でもでも、ラスイが触手の金化率を見間違えたとは思えないぞ! ラスイは動体視力はかなりいいんだ!」
「ありがとうテクルちゃん。 でも、クロイさんが言っていることは正しいし・・・やっぱり私の見間違え・・・・」
俺の『謎蛇は金だけ食べれる』理論とテクル、もといラスイの『謎蛇は金でなくともたべれる』理論は誰が見ても完全に矛盾している。
俺の方が成立すれば向こうが成り立たなくなる、その逆も然り。
だから俺の意見が通ればラスイの勘違いで終わる・・・・のだが。
「いや、それは早計だ。 何か、限定的に金以外でも食べれる条件があるのかもしれない」
ラスイがせっかく見つけた爆弾食わせ作戦を成功させるかもしれない情報・・・捨てるなど出来ない!
何か、何か他におかしかった違和感はないか!?
今ある情報だけではあの蛇を倒せない!
「他に、思いついたことなんでもいいから言ってくれ!」
当然ながら自分だけでは限界がある。
一度皆の意見を仰ごう。
すると、意外とすぐに周りが自身の考えを語り始めた。
「私の触手が存外美味かった、だから食えたとか・・・?」
「過去のスフィンクスネークの研究で、舌の細胞が金とか金魔石以外はアホほど不味く感じるように出来ているということが判明している!! 多分、偶然触手が都合良く美味かったから食べれたとかでは無いはずだ!」
「実際は金以外も食べれるけど、先生は保存食用だから今すぐ食べるつもりは無かったとかはないでしょうか・・・・?」
「さっきも言ったが、前にいる敵を放置して一瞬で触手に食らいつく程空腹になっているのに、その保存食を食べないのはおかしい。 それに保存食にするにしては、あの謎蛇のサイズからして先生は小さすぎる」
「変なことを言ってしまいすみません・・・」
「なんでも謝らんでいい!」
・・・・そもそも周りの壁や床が金だらけなのでそれを食べればいいので、保存食は要らないだろうし。
・・・・・・?
あれ、それだとまたおかしな事になる。
周りが金、つまり食べ物だらけって事だろう?
・・・・じゃあ何故、謎蛇は空腹だったんだ?
「・・・・あの蛇、おれの記憶だとよぉ。 5日間ずっと、時間を置いては周りの壁を齧っては吐き出してたぞ・・・・」
・・・・・・
「ふと思ったっすけど・・・なんで先生が注入されたのは金化が遅い方の毒だったんすかね・・・・? お腹空いてて早く食べたいなら、後からでも金化が早い方の毒を注入すれば良かったのに・・・・」
・・・・・・
「そもそも、毒は何故2種類あるんだろ?」
「・・・・金化するって結果は同じだけど・・・・」
先生に続き、シクス、テクル、ラスイが次々と己の見解を呟く。
先生が注入された金化が遅い方の毒、周りの金を何故かあまり食べずに空腹状態の蛇、2種類ある毒の意味・・・
2つの毒の違いは、体がだるくなるかどうかと・・・金化のスピード。
早く金になるか、ゆっくり金になるか・・・
「もしかして・・・・金化が早い毒は対象を斑状の金魔石にして、遅い方は等粒状の金魔石にするのか?」
このダンジョンの“ズレ”によって生じる2種類の金魔石。
『斑状は急速に凝固することによって生まれる金魔石、等粒状は時間をかける事で確実にガッチリと凝固した金魔石』。
金化の速度は金魔石の種類に密接に繋がっていたのだ!
そして、ダンジョンを構成するのはほとんどが斑状金魔石。
つまり先生の言っていた、『蛇が齧ってはすぐに吐き出してた』の斑状の方だ。
そして先生に注入した後放置してたのは、大幅に時間を要する等粒状になる方の金化毒。
これらの情報をを繋ぎ合わせると・・・・あの謎蛇はそこら辺に存在してすぐ出来上がる斑状金魔石でなく、完成がゆっくりでダンジョン内に少ししかない等粒状金魔石を食べたがっていたのか?
ずっと斑状ばっか食べたから、味に飽きてきているということなのか?
それとも、スフィンクスネークより食の好みが限定されてるってことか?
・・・・そんなのはどうでもいい!!
あの謎蛇が食べずに空腹になる方を選ぶぐらい斑状金魔石を好まないってことが分かったからと言って、何か計画に使えるとは思えん!
少なくとも今は!!
・・・・・・うーん・・・・・何か、何かないか。
・・・・・・・・・・
・・・・・・あれ?
謎蛇はテクルの触手に、好まない斑状金魔石になる方の毒をテクルの触手に注入した。
多分あくまで一時的な迎撃のために出した毒であり、その時は食すつもりはなかったんだろう。
つまりシクスが投げた金化触手は、斑状金魔石の方。
でも、その触手は結局・・・・・・
謎蛇が食べた。
あれ、斑状は食べても吐くのでは?
・・・・・・???
ますますわからん!!
結局謎蛇は何を食べれて何が無理なんだ!?
「ク、クロイさん。 なんとも言えない凄い顔になってますけど・・・・大丈夫ですか?」
「心配してくれてありがとなぁ! ラスイィ!」
ラスイは出会った頃から優しいなぁ!!
「クロイのデバフも効かないんだよなぁ・・・・ 私の頭じゃ倒す方法が思いつかない・・・」
テクルも必死に考えてるなぁ!
そう、さっきも言った通り今あるデバフの効果じゃ倒すきっかけは作れない、はず!
「蛇の味覚なんてわかんねえっす・・・」
金以外不味くなって吐き出す味覚なんて俺もわからん!
「あの蛇の状態はどんなだったんだっけ・・・?」
先生も考えてくれてる!
そうだなぁ!!
確か、あの時、蛇は・・・・・
蛇は・・・・・・
蛇は・・・・・・・・・・
確か、蛇は・・・・?
引っかかりを覚えた俺は、過去へと記憶を遡った。
そして、さっきまでの会話、思考で浮上して来てきた・・・・もしかすると、もしかするかもしれない1つの事実に気付いた。
それは、あの時・・・・ラスイに関係するあの時の事から考えると腑に落ちる、とある事実。
「なぁ、皆・・・・少し試したいことがある。 ちょっとだけ待っててくれ」
「「「「え?」」」」
俺は皆の返事を待たずに、ダンジョンゲートを通り外に出た。
『もしかして』と思ったとある事実を、確信に変える為の検証をしに行くのだ。
このもしかしてが、正しい事を願う。
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