第69話 食べ好みは思考を停滞させる

 唐揚げの件は置いといて・・・・俺は黒く機械的な見た目をした爆弾をそっと丁寧に持ち上げて手のひらに乗せる。


 「なぁシクス。 これ、どれくらいの衝撃で爆発するんだ?」


 シクスが一度普通に取り出してから戻した事を考えるとほんの少しの衝撃で爆発することは無い筈。

 思うのだが・・・・ちゃんと聞いておかないと不安だ。


 「・・・その爆弾は思いっきりぶん投げて、何かにぶつかったぐらいの衝撃で爆発するはずっす」


 アバウトすぎるし絶妙に分かりにくい。

 まぁ“思いっきり”と言うのなら多少の衝撃なら平気という事だろう。

 それなら都合が良い。


 「あと、もしその〔小球型衝撃或遠隔起動爆弾〕使うなら・・・・ これも追加でどうぞっす・・・」


 倒れたシクスは爆弾の正式名称を一度も噛まずにスラスラと言いながらも、グーにした手を差し出してきた。

 その手には鉄で出来た立方体の箱に赤いボタンとアンテナが付いている、正にthe・ボタンが握られていた。


 「これは?」


 俺はシクスから受け取り、赤いボタン部分に親指をつけつつ聞いてみる。


 「さっき、他の武器と一緒に出したんす・・・このボタンを押せばその爆弾を衝撃関係なく遠隔で起爆させられるっすよ・・・」


 名前から察せたけど、やっぱり遠隔起爆できるのか。

 押しそうになってた危なかった。

 そしてますます都合が良い。


 「クロイ、この爆弾を使って倒すのか?」


 「あぁ、決定打になりそうなのはこの爆弾だな」


 「どうやって倒すんだぁ・・・・・?」


 「食わせる」


 「く、食わせる、ってあの蛇に、すか・・・・」


 「謎蛇は鱗、そしてあの巨体も相待って外からのダメージには強いかもだが・・・この爆弾を食わせて体内で思いっきりドカン!とさせれば流石に倒せるだろ! いや、確実に倒せる筈だ!」


 「なんか、失敗するフラグみたいだな」


 「なんて事言うんだ!!」


 俺の作戦にテクルがフラグにとか言ってきたので怒っていると、ラスイがおずおずと手を挙げる。

 質問を挙手制にしたつもりはないが、一応当てる。


 「どうしたラスイ」


 「いえ、その・・・・ス、スフィンクスネークって金以外を一切食べようとしないんですよね? もしあの蛇も同じだったら、爆発する前に吐き出されちゃうんじゃ・・・?」


 「・・・・・そうなんだよなぁ」


 「え、認めるの?」


 「食べさせて内側から倒すってのは勢いで思いついたが、どうやって食わせりゃ良いのか思いつかない」


 「・・・・ダメじゃないすか」


 し、仕方ないだろ!

 だってそれぐらいしかあの蛇倒す方法を思いつかなかったし。


 だが、あの蛇の食事事情もスフィンクスネークと同じだと考えると非常に厄介だ。

 俺の魔物知識によると過去にスフィンクスネークが金、金魔石以外も食すのか?という実験で様々なものを食わせてみたが・・・結果、どれも口に突っ込まれた瞬間、目にも止まらぬ速さで吐き出したらしい。


 故にスフィンクスネークは別名、[偏食蛇]

 もしかしてあの蛇が毒を銃弾のような速さで吐き出しているのもこの高速吐の応用かもしれない。

 爆弾を口の中に突っ込んでも起爆前に吐き出されては意味がないし何ならそのまま高速で吐き出されたら爆弾はそのままどっかにぶつかって謎蛇の対外で爆発してしまうだろう。


 謎蛇がどこまでスフィンクスネークと同じなのかは分からないが、既に多数の共通点がある以上、食事事情も同じの可能性は非常に高い。


 いや。

 謎蛇の周りの壁の削れ具合、金化した触手への反応からして金魔石を好んで食ってるのは間違いないし、非常に高いどころかほぼ確実だ。


 「・・・・・ど、どうやって食わせようかな」


 「クロイがガチで焦った顔になってる!」


 「俺の作戦ってさ、その場その場の突貫工事だから相手によっては対応が難しいんだよ・・・・」

 

 母は、もし命懸けるならしっかりと作戦立ててから突っ込めと言っていたが・・・その作戦が浮かんで来ない。

 どうやって爆弾を食べさせるという結果まで誘導しよう・・・・


 ・・・・・・・・・


 ダメだ、思考が停滞してきた。


 「みんな、どうすれば良いと思う!?」


 「え!? えーーーと、デバフで何とかする!」


 「無理だな! デバフで何とかなる相手じゃねぇ!」


 動きを遅くさせるデバフ〈鈍化〉で蛇の吐き出しを遅くさせてる間にテクルがフルボッコにすれば、ワンチャン倒せるかもだが・・・・それは無理だ。

 謎蛇には毒吐き出しがある。

 

 鈍化は単純なイメージで考えると、かけた対象自身の行動にかかる時間を1とすると、それを⒈1ぐらいにするデバフだ。

 故に元の1が小さい、時間がかからない行動であればあるほど鈍化の影響は薄くなる。

 だから鈍化では謎蛇の毒吐き出しによる攻撃を余り抑えられない。


 〈重荷〉デバフだってあの巨体を動かす力を持った謎蛇にはさ程効果もないだろうし、〈弱体〉デバフの本領発揮は疲れさせてこそなのだ。

 多分俺たちじゃあの謎蛇を疲れさせることもできない。

 最近使ってない他のデバフ達も全て役に立つ望み薄だ。


 「・・・・やっぱ爆弾作戦無理かもしれん」


 思わずそう呟いてしまうほど俺の思考は止まっている。


 今回はもう無理なのか?


 この先生の助けにはなれないのか?


 とっととこのダンジョンから撤退した方が良いのか?


 ・・・・・・・・


 ・・・・・あんなに堂々と蛇を倒す宣言をしておいておめおめと逃げるのは嫌だ、恥ずかしすぎる。


 しかし、どうすれば。


 考えが空中浮遊してきたので、一度リセットさせるためにふと周りを見渡すと。

 再びおじおずと手を上げてラスイがいた。


 「どうぞ」


 「クロイさん。 その・・・・私が自分で『爆発する前に吐き出されちゃうんじゃ・・・?』と言っておいてなんですけど・・・・ えっと、あの・・・・」


 ラスイはやけに勿体ぶった言い方をする。


 「おうなんだ。 堂々と言ってくれ」


 「・・・・私もあの蛇に爆弾食べさせる方法考えて、その為に蛇の挙動を一回思い返してみたんです。 そしたら思い出しました・・・・・ あの蛇、金以外も食べれてました。 私の見間違いでなければ、ですが・・・・」


 「マジでぇ!?」


 俺は思わずガシッとラスイの肩を掴む。

 それをテクルに引っぺがされた。

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