第68話 決定打は黒光りを使う

 「先生が使える魔法って何だ?」


 とにもかくにも、謎蛇を倒す為の作戦を立てるにはこちらの手札を正確に把握しておかなければならない。

 どんな魔法かは知らないが、先生の自己申告通りなら2回まで打てるらしい。

 上手く動けない先生を謎蛇の毒射程内圏内の前線までには連れていかないが、使える魔法によっては何らかの形で少しでもサポートをしてもらいたい。


 「先生じゃ・・・・いや、もういい。 おれの魔法で一番得意なのは・・・・・〈蘇生〉の魔法だ」


 「蘇生ぃ!?」


 驚きの余り思わずひっくり返りそうになったが、ギリギリ倒れずに踏みとどまる。


 「ク、クロイさん。 そんなにビックリして、大丈夫ですか?」


 「あ、うん平気だ。 ・・・・蘇生魔法って、あの〈蘇生〉? 読んで字の如く、死んだ人甦らすやつ?」


 〈蘇生〉・・・・死者を生者に戻し、体についている激しい損傷や強力な呪いをも無くすことが出来る。

 生命の浄化を司る生系魔法の最上級だ。


 ただ簡単にポンポンと復活させれる訳ではない。

 制約として蘇生出来る対象は善行を一定以上している者かつ死後3日以内である事と、死体が蘇生魔法使用者の目の前にある事。

 あとは蘇生魔法使用者と体の構造に大きな違いがある・・・つまり魔物や、魔物の特徴が体に特に大きく表れてる異形が顕著な魔人が対象だと蘇生は出来ない等が弱点だ。


 ・・・・それを差し引いても、死を帳消しに出来る蘇生というのは凄いのだが。


 しかし俺が驚いたのは蘇生魔法自体というより・・・・先生が使える、という事実にだ。

 蘇生魔法が使える、それはつまり。

 


 「つまり、先生って高位の聖職者でもあるんだな。 サインとか貰えるかな・・・・」


 「・・・・聖職者、っすか?」


 「シスターとか神父とかって事か?」


 蘇生魔法は教会に認められた高位の聖職者しか使えない、つまり使える人がかなり限られているのだ。


 しかし・・・・先生が聖職者には見えない。

 顔が怖くて悪人みたいだから、聖職者に見えないという意味ではない。

 聖職者は厳格に着方が決められている〔聖服〕と呼ばれる服を常に着用しているらしいのだ。

 先生はダンジョン探索用なためかかなりラフな格好で、聖服らしき服を身に付けていない。

 そしてこれまた聖職者が常につける事を義務付けられている、太陽に向かう翼が形どられたメダルが付いたネックレスも見当たらない。


 「・・・・おれは聖職者じゃねぇよ。 今言った蘇生魔法も半分独自魔法みたいなもんだから、従来の蘇生魔法と全然違う」


 「独自の蘇生ぃ!?」


 独自魔法・・・・自らが創る自分専用のオリジナル魔法。

 魔法は魔法陣の細かい形、構築に使う魔法文字の配列によって変化する。

 魔法陣構築自体は誰しもが本能的に行使出来るが、どのような形にすればどんな魔法になるのかを最初から理解出来る訳ではない。

 先人達の幾度もの積み重ねで、このように魔法陣構築すればこんな魔法が使えるという情報が普及されてるのだ。

 そして皆が各々自分に合う、構築が出来る魔法陣を、普遍化した魔法情報から当てはめて魔法が使えるようになるのだ。

 つまり一般的な魔法は、世間に浸透した魔法の教科書を真似すれば、自分の適正に合う魔法を使えるようになる。


 だが、独自魔法は己の魔法適正を文字通り全て理解した上で、1から一人で自分に合うものを創らねばならない。

 その独自魔法で蘇生が出来る?

 ・・・・・天才かな?


 そう言えばシクスのクラック・ブランクも独自魔法だった。

 魔法ってそんなお手軽に創れるもんじゃ無いんだけど・・・・創れるやつ二人も出会っちゃったよ。


 デバフだけの俺には眩しい程の魔法の才能を感じる。


 「じゅ、従来の蘇生と何が違うんだ?」


 「蘇生時に、蘇生対象の損傷や呪いが消せない」


 成程、流石に蘇生を独自で使えるようになったと言っても従来のよりは低い性能になってるのか。


 「相手の善行関係なく、例え悪人相手だろうと蘇生出来る。 死後1年以内なら蘇生可能。 ある程度死者との距離が離れていても発動出来る。 自分と体の構造が大きく違っていても生きていたなら蘇生出来る」


 ・・・・・強化版かな?


 蘇生魔法の弱点である制約ほぼ無くなってるんだが。


 「・・・・それと、おれは〈蘇生〉以外にも光系の攻撃魔法が使える。 〈光鎌〉、〈光斧〉、〈光槍〉、〈光槌〉、〈光爆〉、〈光線〉・・・・」


 え、強すぎでは?

 俺デバフだけやぞ?

 いや昔と違ってデバフも上手く考えれば割と使えると知っているが・・・それでも不平等な気がする。


 「魔法の使用は体力的に2回までだぁ。 今のおれは頭が上手く回らん・・・・クロイさん達が指示した通りに魔法を使う・・・」


 回数に限りがある魔法・・・上手く活用せねばな。


 「あ、ちょっといいか?」


 俺が先生の魔法の活用法を思案してる中、テクルが律儀に挙手をして発言する。


 「うん? 何だ?」


 「さっきも言ったけど、忘れられてる気がするから改めて一応もう一回言っとくぞ。 多分あの蛇私の触手でぶん殴っても攻撃効かないと思う」


 「え、マジで?」


 先生の魔法情報を聞いて色々考えていたら急にテクルが衝撃的な事を言い放ってきた。

 そういえば確かにさっき、触手が金化してる件で流されたけどしれっと言ってたな。


 「私、当然だけど昔から触手で敵をぶん殴ってきたけど・・・その経験からきたものかは知らないけど、しばらく見てれば何となく相手に攻撃が効くかどうか分かるんだよ」


 「えぇ、マジかぁ」


 「凄くマジ。 アイツの鱗見た感じ柔らかさと丈夫さを兼ね備えてる。 殴っても衝撃拡散されて終わりだよ。 普通に固い方がまだ破壊しやすかった。 一方的に殴り続けられる状態ならいけるけど、それは相手が完全な無抵抗状態じゃないと駄目だ。 よって無理」


 今までの戦闘・・・・ラストアタックを決めてきたのは常にテクルの触手だった。

 それが今回攻撃に使っても効かないとなると、今まで通り如何に触手をヒットさせるかを考えるだけではいけないようだ。


 「じゃ、じゃあ先生の魔法で倒すって事ですか?」


 「俺かぁ? 光の攻撃魔法で倒すのかぁ・・・? 先に言ってなくてすまんが・・・・多分光魔法はこの場でそんなに使えねぇと思うぞ?」


 「な、何故?」


 「あの蛇の鱗、完全にでは無いと思うが殆ど金魔石で出来た鱗だぁ。 ・・・・金、もとい金魔石は光系魔法を反射する性質がある・・・・全てが反射されちまうとは思わんが、攻撃に光魔法はおすすめしないぃ・・・・」


 何故そんな事を先生が知っているのか聞こうと思ったが、そう言えば先生はずっと蛇の至近距離にいたんだ。

 既に動けない体を鞭打って、光魔法での攻撃を何回も試していても何ら不思議では無い。

 もしかすると先生が疲労困憊状態なのは毒が理由なだけで無く、ずっと寝ずに懺悔しつつ魔法を使ってもいたからなのかも・・・・


 それでもまだ2回魔法使えるのは体力ヤバすぎでは?

 しかしそんな風に先生の疲れの理由を考えるのと同時に俺は焦っていた。


 テクルの触手、先生の攻撃魔法は鱗のせいで余り効果がない。

 ラスイ、俺、シクスは直接的に攻撃するような魔法を持っていない。


 ・・・・・ど、どう倒せばいいんだ?


 いや待て。

 何も魔法やフィジカルに頼らなくてもいい。


 「シクス、クラック・ブランク使えるか?」


 「一応使えるっすけど、最近出したばかりの物を少ししか出せないっす・・・・」


 「その最近出したものが欲しい。 取り敢えず出せるだけ出してくれ。 もちろんやばいくらい疲労困憊しない範囲内で」


 「はい、っす・・・・・」


 「あ、ちょっと待ってくれ。 なるべく丁寧に出してくれよ? ぶちまけたりしないでくれよ?」


 「え・・・? うっす・・・・ 了解っす・・・・?」


 シクスが何故?みたいな顔しつつも了承する。

 もしかして直近で出したあれの性質自分で忘れてるのか。


 片足の金化によって倒れた状態のシクスは、腕に長い縦の魔法線を出した。

 そこから生まれる穴から、複数の物が緩やかに放出されていく。


 短剣、弓矢、拳銃、メリケンサック、ブーメラン・・・・シクスがゴールドスライムとの戦闘時に使えそうな物を探してた時に出していた武器達だ。


 しかし本命はこれではない。

 俺が丁寧に出せと言った理由はこの為。

 他の武器の中で一際黒光りするそのアイテムは。


 シクスが先程、ゴールドスライムに使おうとした衝撃で爆発する爆弾。

 

 直接蛇に投げてもテクルが言う衝撃拡散する鱗で効かないだろうが、爆弾なら上手く使えば・・・・


 ん?


 武器と爆弾が出た後に少し遅れてシクスのクラック・ブランクから何か四角い箱の様な物が出てきた。


 それは、ラップで包まれた唐揚げ入りのタッパー。


 「・・・・何だこれ」


 「・・・出せるだけ出せっていたから出したんすよ。 ・・・酒場の姉さんから先払いでもらった唐揚げ10個っす」


 隠れて先払いで唐揚げもらってやがった。


 しかも数えてみたらタッパーの中の唐揚げは6個・・・・既に割と食ってる。


 「・・・・・何すか、その目は」


 思ってたよりちゃっかりしてんなコイツ。

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