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「おはよう、大久保さん。今日はカレシいないみたいだけど、喧嘩でもしたの?」

 

 授業も終わり、国語の教科書を用意していると、空席だった前の席に誰かが座った。

 そのエンジェルスマイルに、自然とため息がこぼれた。


「ただのサボりでしょ」

「カレシってところは、否定しないんだね」

「そうじゃないって知ってるやつに否定するほど、ムダなことはないわね」


 立ち去りたい気持ちを抑え、なんとか居座る。


「それで? さっきのプリントはなんだっのかな? もしかして、風紀直々に注意喚起でもされたのかな?」

「なんでよ」

「大久保さん、昨日も今日もケンカに巻き込まれたみたいだから」

「今日も?」

「あ、今日のはバッジ争奪戦だったね。どう? 柳くんは無事生徒会入りを果たせたのかな?」


 「なぜ」と聞きそうになって、急いで口を閉ざした。その代わりに七倉ななくらを頭からつま先まで観察する。

 薄茶色のさらさらヘアー、女子みたいな丸い目。長いまつげに、白い肌。


 違和感はすぐに見つかった。

 

 隠れているようで隠れていない黒いコードは、きっとインカムに繋がっているに違いない。


「なんであんたが、ソレを持ってるのよ」


 新しく導入されたインカム――無線機は、風紀と党紀にしか支給されていないはずだ。

 

「ソレってなんのこと? 僕は学校で禁止されるような武器は持ち合わせていないよ? まあそれも、没収されるまで時間の問題だと思うけどね」


 七倉はエンジェルスマイルを崩すことなく、私の机を指した。七倉が指し示しているのはきっと、スカートに挟んで隠し持っている警棒だろう。

 荷物検査で見つからなくとも、使えばすぐに没収されるに違いない。

 時間の問題――新校則の話か。


「よく知ってるわね」

「大久保さんが知ったのは、昨日だよね」


 ほんと、腹の立つエンジェルスマイルだこと。なんで生徒会会議室に忍び込んだことがばれてるのよ。

 睨むように目を眇めても、彼はエンジェルスマイルを深くするだけだった。

 ・盗聴器郡を没収された・・・・・・・・・・にも関わらず、コイツの情報網は相変わらず機能しているようで。

 それを知らしめるための情報開示なんだろうか。

 なんて嫌味な奴だ。


「あんたは新生徒会長が誰か、知ってるの?」

「さあ? どうだろうね」


 何を聞いても、エンジェルスマイルの牙城は崩せそうにない。

 

 

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