8
あれは、何だ。
登校時間も優に超えて、2限目、いや、3限目が始まる一歩手前。
休憩時間だったか。なんて、窓からこちらを見ている生徒に知る。
A邸で目にしたのは、いがみ合い、押し合いをしている柳と
そしてタイミング悪く、
2人とも
思わず、ため息がこぼれる。
私は満開の桜の下でいがみ合う、柳と狼の元へ向かった。
「柳」
私の声に反応したのは、党紀委員会だった。2人の向こうで、肩を跳ね上がらせて驚いていた。
気づいてほしいのは、あなたたちじゃない。
「柳」
柳と狼はなにが楽しいのか、手のひらを何度も何度もぶつけ合っている。
「柳」
振り向く気配はない。
名前を呼んで強制的に振り向かせてもいいけど、こんなことで奥の手を使いたくないのよね。
なんてため息をついている間に、来てしまった。
党紀委員会で1番、厄介なヤツ。
「これより、バッジ争奪戦を開始する!!」
現れるや否や、耳をつんざくような大声で、彼は宣言した。
さすがに
「なんだ」
「あ゛ぁ゛?」
「柳」
間をぬって呼べば、不機嫌な声と顔で、柳がこちらを見た。
すると柳はハッとした顔をして、「悪い」と謝罪した。
「お前か」
「大久保…」
柳が私の方へ歩いてきて、背後に立つ。
「種目は?」
「腕相撲」
舌打ちが聞こえて、皆の顔を見回す。舌打ちをしたのは、
「少し待て」
「分かった」
「悪い。あいつが生徒会に入ったことは、頭では分かってたんだ」
「気にしなくて良いわ」
分かってたことだし。は、口にしないでおく。
私は
「あなたも一緒に帰って良かったんじゃない? 委員2人もいるわけだし」
「帰ったわけじゃない。準備だ。それにお前が相手なら、いた方が良いだろう」
「対戦相手は柳よ」
「だが、お前はここに居る」
なにを言っているだと言わんばかりに、まっすぐこちらを見る
「来るの、早かったわね」
「インカムはそのためにあるからな」
ああ、言っちゃうのね。
痛いところをつくつもりで口にした言葉も、彼にはノーダメージだった。
「便利になったわね」
「利便性を求めて設置したわけじゃない。穴をなくすためだ」
ああ、また本心を。
真面目一筋の彼には、嘘をついたりはぐらかしたりするヤツの気持ちは分からないんだろう。
「ねえ、私たちが移動すれば良かったんじゃない?」
「そうか。考えつかなかったな」
マジで言ってるのか。
汗だくで机を2つ運んできた委員を、心中で誉める。
桜の木の下。赤レンガの上に、机が2つ向い合わせで並べられた。
「それでは、用意!」
ぐっと、2人の拳に力がこもる。
「始めっ!」
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