第26話 (最終話)沢山久郎は日本に帰れた。
キングは10日で蘇ると沢山久郎に楽しかったと礼を言い、帰った後も着たくなれば遠慮なく呼んでくれと言ってきた。
「まあそん時はよろしく頼むわ」と返す中、振り返るとアルとジービィは泣いていて、ケィは拗ねている。
「泣くなって、拗ねるなって」
「だって、久郎様が…」
「行かないでください!」
「帰らなくて良いじゃない!」
そこに現れた調停神はファミリアではないイェイロ達を連れていた。
「イェイロ?ジェンタ?シィア?」
「生身で会えるのは久しぶりです」
「会いたかったよ久郎!」
「帰るのはインラルにしないか?」
イェイロ達も泣いていて、沢山久郎が「調停神?なにこれ?お別れ的な奴?」と聞くと、調停神は「違うわよ。アンタのために神の知り合いから分身って技を教えてもらってきたのよ。まあそのままだとアレだからアレンジするけどね」と言うと、真っ赤な髪を更に光らせると「神の力を使う」と言って沢山久郎に光を纏わせた。
「うぉっ!?」
「動かない」
調停神は「沢山久郎ベースは日本で楽して生きていける分量、残りの沢山久郎の3体はインラルの限界まで。残りの3体はその残りを均等配分でいいわね」と言う。
光が晴れると沢山久郎は7人になっていた。
6人の沢山久郎は目を閉じていて、それを見た沢山久郎が「うぉっ!?俺?」と驚くと、調停神が「そうよ。強化し過ぎた分を分けたの。その為に強化相手を増やしたんだから」と言う。
調停神は真剣で穏やかな顔付きになると、イェイロ、ジェンタ、シィアに向かって「前に話した通り、これが沢山久郎を日本に帰すための手段。そしてこれが力を尽くしてくれたあなた達への御礼」と言って1人ずつ沢山久郎を渡していく。
「この沢山久郎はまだ寝てるから、インラルに連れ帰ると目を覚ますわ」
そう言いながらシィアに渡した沢山久郎は青みがかった髪色に、ジェンタはピンクがかり、イェイロは黄色がかる。
「女神様、本当にこの久郎を?」
「ええ、キチンと面倒を見てね」
「うん!ありがとう!うれしいよ!」
「よろしくね」
「嬉しさでどうにかなりそうです!」
「性愛神に強化はやめさせたから幸せな家庭を築きなさい」
調停神はそのままアルとジービィとケィにも沢山久郎を渡すと、アルとジービィには「尽くし尽くされなさい」と言い、ケィには「その力、いるかしら?性病にならないのはいいとしても、いらなければ特別に解除して子供だって望めるようにするわよ?」と言う。
ケィは「ううん。ありがたいけど、コドクは歳を取らない世界だからやめとくよ」と礼を言った。
キングが残念そうに「弱体化したのか?」と聞くと、調停神は「この世界の沢山久郎は分割したから大前提で弱くなったけど、能力は前のまま。享楽神の弱体化も解除したからこの前戦った時と変わりなし。しかもこれまで通り強化しただけ強くなるわ。存分に戦いなさい」と説明をした。
沢山久郎からすれば奇跡の連続に感謝しかないが、案外人は薄情なもので、自分専用の沢山久郎を貰ってしまえばオリジナルの沢山久郎に興味も未練もなくなっていて、ケィなんて自分専用の沢山久郎を見て紅潮した顔で生唾を飲んだ後で、オリジナルの沢山久郎に「あ、帰るんだよね。バイバイ」と言っている。
「釈然としねえ」と漏らしながらも、散々強化に付き合って貰った皆に別れを言い、世話人の老人にも「俺は帰るけど俺の分身達をよろしく」と頼む。
調停神が「じゃあ帰るわよ」と言い、沢山久郎が「おう」と返事をすると、目の前が暗転するが一向に明るくならない。
これはコドクに召喚された時と同じで心配してしまい、「調停神?」と声をかけると調停神は「何年経っていると思ってるの?今帰っても大変よ?」と言った。
「あ…」
「まあ対価は十分貰ってるし、そこも含めて助けてあげる。でもチラ見しなさい」
そう言われて見せられたのは、沢山久郎が坂佐間舞の家で神隠しにあってからの時間だった。
当初、坂佐間舞は沢山久郎が尻込みして逃げたのかと思い傷付いたが、靴は残っていて家にも帰っていない。
完全な神かくしに遭っていた事にショックを受けていた所に、実は坂佐間舞が殺害したのではないかと誹謗中傷まで受けて心身を病んでしまっていた。
「坂佐間さん…」
「あの地球の時間をあの日まで戻してあげるし若返らせてあげる」
「本当か!?」
「調停神としてキチンとやるわよ。ただインラルとコドクの経験までは消せない。能力も地球ではおかしくないレベルまで低下させたけど、それでもオリンピック選手レベルなんて遥かに凌駕しているから、上手く隠して生きなさい。火や氷の攻撃魔法は封印したけどジェンタの支援魔法なんかは残ってるから人助けくらいしてよね」
沢山久郎が「助かるよ」と言った時には、目の前が晴れていて女の子女の子した坂佐間舞の部屋の中に居た。
「お待たせ」と言ってお茶を持ってきたのは何年振りかの坂佐間舞。
沢山久郎は思わず泣きそうになったが、泣かないように努めて「手伝うよ」と言うと、坂佐間舞は「沢山くん?」と声をかけて「なんか数分振りなのに違う人みたい」と言いながら2人でフローリングに座る。
沢山久郎は頑張ってアレコレを思い出そうとしたが、インラルとコドクの時間が長過ぎて坂佐間舞の顔も「こんな顔だったか」と思ってしまうし、…クラスの話にしても懐かしい思い出話に聞こえてしまって困る。
なんとかそれを「緊張のあまり混乱してる」で誤魔化していると、坂佐間舞が「貰ってくれるよね?」と聞いてきた。
沢山久郎は性に関しては百戦錬磨の状態なので、坂佐間舞は友達から聞いていた話と違う事に目を丸くして驚きながら沢山久郎を受け入れる。
沢山久郎は満足して力尽きている坂佐間舞を見て、「あれ?もういいの?」と思いながら済ませると、坂佐間舞は「ありがとう久郎くん」と言ってキスをしてきた。
沢山久郎はコレで日常に戻れると思った。
久しぶりの家には家族がいた。
浦島太郎状態なのを誤魔化す為に、その日のうちに熱が出た事にして学校を休み、熱で記憶が曖昧になったと詐称して誤魔化し切った。
その実は調停神が手を回していてくれたが、沢山久郎には関係なかった。
勉強は前以上に訳がわからなくなっていたが、スポーツは何をやっても好成績で、熱の後から生まれ変わったと言う話にした。
坂佐間舞との付き合いも順調で何の問題もほぼない。
ほぼなのは、結局イェイロ達がするようなおねだりの顔をする様になってしまい、頻繁に坂佐間舞の家に呼ばれるようになってしまった。
そんなある日、夢を見た。
恐らく夢ではない。
イェイロ、ジェンタ、シィア達それぞれと仲睦まじく過ごすそれぞれの沢山久郎。
沢山久郎は目を背けてきていた愛情の話。
城のそばにそれぞれの住まいを用意させたイェイロ達。
イェイロは横で眠る沢山久郎に「久郎、私はあなたを慕っていますのよ?」と声をかけると、沢山久郎は穏やかな顔で微笑みながら「俺もだイェイロ。日本にはオリジナルが帰ってくれた。ジェンタにもシィアにもアルもジービィも、ケィの所にも俺がいる。俺は何も気にせずにイェイロを愛せる」と返す。
それはジェンタにもシィアにも似た事を告げていた。
全員が沢山久郎を愛していて、沢山久郎も愛に応える。
日本に帰る。
それさえ果たされれば、キチンとこの生活を受け入れていた。
コドクの方は少しだけ変わっていて、沢山久郎は新たなキングではなく永遠の挑戦者として、一年中キング達と戦いを楽しみ、ケィ達と強化をして沢山久郎の為に強さの半分を捧げたファミリア達も夢の世界で沢山久郎と強化をしていた。
そんな夢を見た沢山久郎は夜明け前に目を覚ますと、天を見て「助かったよ調停神。ありがとう」と呟いて二度寝をする。
今日は坂佐間舞からフリータイムで一日中して欲しいとねだられていて寝られるだけ寝たい気持ちだった。
(完)
沢山久郎は日本に帰りたい。 さんまぐ @sanma_to_magro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます