第14話 赤ちょうちん
西部エリアでは独裁政権が崩壊し、新ボスが過去の人権侵害事件の調査委員会を発足させた。かつてこのエリアでは、反政府運動を弾圧するための拷問や暗殺が横行し、今も当時の加害者たちが、裏で力を保ったまま素知らぬ顔で生活しているのだ。
鶴田町の一軒家に住む主婦の寧々は、ラジオで夫の則夫が調査委員会の委員長に抜擢されたことを知った。寧々は平凡な中年の主婦だが、家に近づく自動車に気付くなり銃を構えるなど、精神状態が不安定な様子だ。
嵐の中、医師の半沢の車で帰宅する夫の則夫。彼の車はパンクし、通りかかった見ず知らずの車を止めて、家まで送ってもらったのだ。車から降りることなく則夫は走り去って行った。
嵐のために停電し電話も不通になった家で、調査委員会について言い争う寧々と則夫。反政府運動で活躍し、現在は弁護士の則夫にとって、委員長の座は出世の足掛かりだが、新政権を信用していない寧々の目には裏切り行為に映るのだ。彼らの夫婦仲は張りつめて、則夫が妻を扱う態度は、まるで腫れ物に触るようだ。
その日の夜更けに、医師の半沢が車で土方邸に戻って来た。半沢は一旦は帰宅したのだが、ラジオで則夫が委員長になったことを知り、則夫の忘れ物を届けがてら、祝辞を述べに来たのだった。夜半の訪問に戸惑いながらも、則夫は半沢を招き入れ、酒をふるまった。
寝ている振りをして、居間の様子を窺う寧々。彼女は半沢の声に聞き覚えがあったのだ。学生だった頃、寧々は反政府運動に参加し、逮捕されてひどい拷問を受けていた。その時に寧々をレイプした男の声が、半沢のものだったのだ。半沢は警察を辞めてから一念発起し医者になった。
動揺し、一人で家から逃げ出す寧々。彼女は拷問の際にレイプされたことを夫に隠し、恐怖の記憶に憑りつかれて生きて来たのだ。
レイプされた時、寧々は目隠しされて相手の顔を見ていなかった。しかし、半沢の車を調べると、かぐや姫の『赤ちょうちん』のカセットが見つかった。これは当時、レイプ犯がかけていた曲だった。
家に戻った寧々は半沢を縛り上げ、銃で脅して自白を迫った。アリバイを主張する半沢。則夫に止められても、復讐に燃える寧々は聞く耳を持たず、追及は夫にまで及んでいった。寧々を反政府運動に引き込み、逮捕のきっかけを作ったのは則夫だったのだ。やがて、心の内を語り始める半沢。半沢の言葉とこの夜の出来事は、寧々を過去から脱却させ、未来へ進ませるきっかけとなったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます