第73話 危ういお茶会

 学期末試験が終わると先生方は採点に入る、その数日間がお茶会の時期、

「ニコレッタ様、本日はお招きいただきありがとうございます」

「これはカルメンシータ様、ようこそお出で頂きました、わたしのお茶会ではうるさい事を言う人はおりません、御自分のお部屋の様に寛いでくださいね」

「わたくしの様な鄙の者にご配慮いただきありがとうございます」


 5年生ともなるとお茶会を主催する事も増えた、3年生のカルメンシータ・デルブリック伯爵令嬢、彼女の生家デルブリック家は西の辺境、

 国の西側はポニエンテと呼ばれている地域だけど、草原や半砂漠みたいな土地が広がっていて、同じ田舎でもオステンブルクとは違った景色、


 お茶会に呼ぶ人数は様々、分隊を編成出来そうなくらいの人数を呼ぶ人もいるけど、わたしにそんなに大勢を捌ける訳もない、今回はカルメンシータ嬢一人だけをご招待した、



「ところでニコレッタ様、演舞会ではフォビア様にエスコートをお願いするそうですね」

 この子話が早くて助かる、カルメンシータを呼んだのは王族のフォビアに関して情報収集だよ、

「恥ずかしい話ですが、わたくし今回の演舞会では3年生と一緒に階段を降りる事になったのです」

「フォビア様はとてもおとなしい方でございます、家族をとても大切にされるお方でございますよ」

 この貴族言葉を翻訳すると、リーダーシップを取る事無く、お兄さんのフーリー自慢話ばかりしていると言う意味、


「ダンスはお上手なのかしら?」

 女性関係に関して訊ねたわたし、

「それ程熱心にレッスンはなさっておりませんがお上手ですよ」

 特定の女性はいない訳だ、


「カルメンシータさん、やっぱり男性がパートナーを選ぶ時は自分より背の低い相手の方が良いのかしら?」

 パートナーは歳下の女の子の方が良いのかしらねぇ?

「殿方のお気持ちは分かりませんが、自分の知らない世界を見せてくれるお相手が良いのではないでしょうか?」

 フォビアもやはり飛行機に関心がある訳だ、

「演舞会は大切な行事ですけど、楽しむ事も大切だと思いませんこと?」



 直接的な言い回しを避け、遠回しな言葉で情報を集める、そんなやり取りだが次第にカルメンシータの人なりが分かってきたし、向こうもわたしの事を理解して来たようで核心を突く様な事を言ってくる、


「……ニコレッタ様、わたくし面白い事を聞きましたの、殿方の中には学生時代には背の高い女性が好きでも、齢を重ねると背の低い子が好ましいと思うようになる方もおりますそうです」

 これは良い歳したロリコンがいるよ、と言っている、

「まぁ、カルメンシータ様、わたくしも同じ話を聞いた事がありますわ、まこと不思議な物でございますね」


 それまで貴族スマイルしていたカルメンシータだけど、急に佇まいを正す、

「わたくし卒業しますと伯爵家を継ぐことになると思います、今はこの学校で多くの事を学んでおりますが、一番大切な事は領主が間違った道に進んだ時に、配下の者がそれを正す事が出来るかと言う事でございます」

 今までの話の流れからすると現王に不満と解釈出来なくもない言葉だ、


「まこと諫言に耳を傾ける、上に立つ者にとって大切な事でございますね」

「ニコレッタ様、上に立つ者が下の者の言葉を聞かなくなったらいったいどうすればよろしいのでしょう?」

 意外にしつこいカルメンシータをいなして、やっと話題を変えた。



 それにしても初対面のわたしに現王に対する不満をここまで述べるとは、しかもわたしは第三王子のエスコートを受ける身、

 いや、うがった見方をすれば第三王子のフォビアも現王に否定的な立場なのかも、だがカルメンシータの話によるとフォビアも王子はリーダーシップを発揮する様なタイプではない、

 そうなると次期の王を狙っているのはフォビアと仲の良い兄フーリーことファウルシュッティヒか。



 ◇◇



 5年生夏学級の成績もわたしが一番だった、その次に王族のファウルシュッティヒ、その後に弟のディートハルトが続くと言う順位も固定化されてきたきらいがある、

 成績発表よりも大切なのは演舞会、今日のわたしはワンショルダーのタイプだよ、ドレスには季節ごとにスタイル、生地の流行があるが変わらない面もある、

 胸が豊満な子は谷間を強調した大胆なカッティングのスタイル、反面わたしのドレスの胸元の綺麗なフリルのスタイル、胸の薄い女の子はヒラヒラした布切れでボリュームを出すのだよ、

 あえて膨張色の白を選んでいるのも少しでも大きく見せようと言う健気な抵抗。


「ニコレッタ様、ポーラ・フクスのドレスでございますね」

 わたしに声をかけてくれたのはマグダネーラ様、彼女は今日が卒業記念、胸元はちょっと動くと“ポロリ”しそうなきわどいカッティングとはち切れんばかりのお胸、

「まぁ、マグダネーラ様、素敵な装いでございますね」

「今日が貴族学校最後ですから、本当に長かったです、

 ところで今日はフォビア様のエスコートを受けるそうですね、わたくしフーリーにエスコートされますから、兄弟揃ってですね」


 そうマグダネーラ様はファウルシュッティヒにエスコートされる、二人の結婚は確定であろう、

 王族は結構早く縁を結ぶ事が多いので、一年後にはファウルシュッティヒと結婚しているかもね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る