第36話 在宅洗礼式
薄い肌着一枚になった羊人メイドのマリーナ、
「いいわよ、そこに寝て」
「はい、ご主人様」
「それじゃお願いね」
王都の屋敷に来てからは忙しくて、夜はすぐに寝てしまうだけだったから、久しぶりの感覚共有、
今まではソファに座ったマリーナに抱っこしてもらうだけだったのだが、おねだりしてベッドの上での密着に、
仕方ないじゃないか、身体は幼女だけど心の奥では二十代の男が疼いているんだ、
12歳には思えない豊満な乳房に顔を埋めて自分に言い訳をしている。
なんとも表現しようの無いぼんやりとした感覚、自分の声がこもって聞こえるよ、
“……すごいわね、カルロータ”
「そうそう、ニコレッタ様、飛行工房のメンバーもずいぶん増えましたよ、フェルナンダ様が孤児院とかから優秀な者を集めてくださったのです」
“パイロット不足も解消出来そうね”
ニヤニヤ笑っているカルロータとジョフィエ、
“ほら、挨拶しなよ”なんて声が聞こえてくる、
「ニコレッタ様、ヴァンナがお話ししたいそうですよ」
珍しく赤い顔をしたヴァンナ、
「ニコレッタ様、昨日一回と今日二回空を飛びました、
別に飛びたくはないけど、屋敷でシルバーを磨いているよりはましかな、と思っただけです」
ヴァンナがデレた!
“ヴァンナ、ありがとうね”
「別に……」
もう、なんでわたしがこんな事言わないといけないの…
後ろの方でヴァンナがカルロータ達に可愛く怒っていて微笑ましい。
「ところでニコレッタ様、宿題はこのまま進めて良いのでしょうか?」
“いいですよ、なんとか空に浮かべる程度の飛行機で構いませんので製作してみてください”
わたしの出した宿題は、大きな輸送機を造ってみましょう、と言う課題、ただしエンジンはトレイス機と同じエンジンを二発のみ、
空荷の状態で辛うじて離陸出来れば良い、と言う課題。
荷物を積んだら離陸できない輸送機が何の役に立つのだと、設計陣は頭を捻っている事だろうから、わたしはもう一つの宿題を出した。
“それでは製作陣に図面を渡したら皆さんには新しい宿題を出します、搭乗員は二人か三人、機体は小さくしたいから直列で乗る様にしましょう、エンジンは……”
感覚共有を切ると、薄暗い間接照明の王都の居室、目の前に白くて柔らかい物がある、
「ねぇ、マリーナ、感覚共有はいつも繋がっているの?」
「そんな事はございませんよ、お風呂とか一人の時は切りますし」
「今は?」
「はい、切れておりますよ」
ニッコリ微笑む羊のメイドさん、その晩は悪いご主人様になってしまった
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いつもとは違う朝、裸の身体に下着も着けないで、真っ白なケープみたいな服を纏っただけ、この服デザインは無粋だけど、上質なシルクだね、肌触りが全然違うよ。
「ニコレッタ様、本日は枢機卿がいらっしゃいまして、直々に適正と魔力量を測ってくださる日でございますよ」
グートシュタイン家の筆頭侍女がわたしに告げる、
いわゆる洗礼式だ、平民達は自ら教会に赴くが、上級貴族ともなると、枢機卿が邸宅を訪問してくれるそうだよ。
「わたしはディートハルト様のお次ですね」
「はい、左様でございます」
第一夫人の子と第二夫人の子、序列がしっかり決まっている様だ。
案内され大広間に降りて行くと、係累の貴族とおぼしき人達が既に待ちかまえていた、洗礼式の後はそのままお披露目の昼食会になるのが一般的らしい、
広間にはいつもとは違う紫と金色の緞帳が幾重にも釣り下げられ、見ているだけで呼吸が圧迫されそうだ、
一段高いステージの上に設えた椅子に座ると、隣の椅子にディートハルトが座る、彼はわたし以上に緊張しているらしく、周りを見る余裕すらない。
大きな鐘の音がして、法服を纏った人たちが列をなして入って来る。
彼らはまだ若い、枢機卿はまだだろう。
そんな予想通り、濃い紫の法服を纏った人達はゆっくりと広間を歩き時々止まっては経文を唱えながら香を振りまく。
謎のお経と香の香りで、神経が麻痺していくのか、研ぎ澄まされて行くのか、良く分からない状態になった時に、オフホワイトの法衣を纏った枢機卿が、芝居がかったしぐさで現れる。
広間を歩き回っていた弟子たちは列をなし、枢機卿の後ろに付き従い、ステージの方に歩いて来る。
まずはディートハルト、
「それがし、グートシュタインの家に生を受けた者でございます。
エーデルトラウト枢機卿、それがしの心の力を明かして頂きたいと存じます」
弟子が大仰な仕草で取り出した水晶の珠、
「心清く無心な者のみ、この珠に触れる事を許す」
緊張した様子で手を差し出すディートハルト、小さな手が恐る恐る水晶玉に近づいていく、
突然紫色の光が周囲を包む、
まだ光の残像が残って目がチカチカしている中、枢機卿が宣言する、
「ディートハルト、そなたの適正は水と炎、力は上級」
水の青と炎の赤が重なって紫になったんだね。
枢機卿が大げさな歩き方でこちらに近づく、
「それがし、グートシュタインの家に生を受けた者でございます。
エーデルトラウト枢機卿、それがしの心の力を明かして頂きたいと存じます」
「心清く無心な者のみ、この珠に触れる事を許す」
一礼して水晶玉に左手をかざすと、球の中心から白い物が現れ、ドンドン大きくなり、ついに光となって部屋中を満たす。
まるでカメラのフラッシュを目の前にしたみたいな感覚だ。
何秒くらい過ぎたのだろう?
「属性は …… 聖属性、 力は上級 …… 」
絞り出すように修道会長がつぶやく。
一拍置いて、列席者から感嘆の声が上がる。
「 ……わたくし聖属性は初めて見ました」
「あの幼き身体で上級とは……」
「公爵家の面目躍如でございますな」
「あれが上級の光ですか? もっと上でしょう」
「あんな清くて混じりけのない光など……」
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