第20話 アホウドリ
エベリナと言う美人秘書が図面を持って工房街にやって来る、
「ナータンさん、なるべく薄い金属をこの形に加工して欲しいのです」
「珍しい形だな、出来ない事はないけどな、ここの部分の寸法が書いてないから大きさがわからないぞ」
「それは木工職人の工房に頼んである物と組み合わせるので、向こうと相談して合わせてください」
木工職人は、渡された図面通り、奇妙な形に板を削り、組み上げ、金属加工職人は大きな筒や車輪を造り、
時計職人は常に水平の位置を示す計器を造り、領主に引き渡していった、
いったい何を造っているのだ? 誰もが思った疑問だが、そう言った気持ちを表に出すとろくな事にならないと言うのは経験則で知っている、
職人達は黙って従うだけ。
納屋の一角に職人達の作り出した部品が運び込まれ、それを図面通りに組みあげていくのは娘達の仕事。
◇
気球と違って飛行機には長い滑走路が必要、忘れがちだが滑走路の周囲もかなりの面積にわたってクリアにしておく必要がある、
オーバーランとかに備えないといけないからね。
夏の館、昼間は湖から陸に風が吹く事が多いので、滑走路は水面に向かって伸びているよ、最後に飛んだ北九州の基地と同じだ、
湖畔の白樺並木を切り倒し、根を抜いて、平らな地面を造りあげたら、次は整備棟、今まで館の納屋で組み立てていたエンジンはやっと広い場所に、
メイドさんやお針子さん達がサンドイッチを大量消費した賜物とも言うべきエンジン、
今日は湖畔に造成された滑走路に運び込み動作チェック、
エンジンの後ろ側に立つのは危険なのは言うまでも無いけど、前側も同じ位危険、信じられないくらいの力で吸い込まれてミンチにされてしまう、
魔石で動くエンジン、ジェットエンジンと違って電源車なんて必要ない、
スイッチを入れるだけで、エンジンの内側に張り付けた魔石が黄色く光り、機体の前に有る空気を貪欲に吸いこんでいる。
このエンジンに使われている魔石一つで、近郷の村の一年分。
吸い込まれた空気は細い空気の筒となり機尾から吐き出される、ランウェイからかなり離れた場所でも枯れ草が踊っている。
「……良い様ですね」
「これなら空を飛べますよ」
「あの、これを馬車に乗せたら馬のいらない馬車が出来るのでは?」
「速過ぎるわよ」
さすがは異世界の人々、こちらの考えもつかない使い方だね、
「マヌエラ、否定してはダメですよ、考えもつかないアイデアからブレイクスルーが産まれるのですから……」
注意したのはレナーテ先生、堅物教師かと思いきや意外に柔軟な思考の持ち主だったんだね。
何度も繰り返したエンジンのテストは完成形と言って良い、後はこれに合わせた機体に乗せるだけ、
ジェットエンジンと違い熱を持たないから機体の設計の自由度が高い、
更に通常の機体ではかなりの部分を占める燃料タンクがほぼ必要無い、これは軽量・省スペース以外に重量バランスを考慮しなくてよい、と言う利点がある。
今回は飛べる事を証明する為の機体でもある、
長いエンジンに主翼を付けただけの機体、パイロットの配置が一番の難関、バイクの様に跨る形にしたのだが、ラダーペダルの操作に問題がある事が判明、急遽二人乗りに設計変更、前席が操縦桿とエンジン出力、後席がラダー操作と言う形にした、
通常の飛行機ではパイロットの足元に有るのがラダーペダル、このペダルを踏み込むとラダー、通称垂直尾翼が左右に動く、それだけでは機体が進行方向に対し左右に傾くだけ、通称ヨー、
機体を旋回させたいなら、操縦桿を左右に倒す必要が有る、この時動くのが主翼についているエルロン、
機体が左右にバンクして曲がっていく、この時機首の向きを整える為にラダーを操作する、
更に詳しく言えば旋回に中は少しだけ機首を上げる必要がある、旋回中は速度が落ちるので高度も下がるし、何よりも翼の揚力も万全ではなくなる、
他にもエルロンロールと言う機動などがあるが今は割愛。
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