4.ヒーローじゃなくたって、大丈夫だよ②
「はいっ、1枚目のできあがりー!」
端をステッチで抑えて、ランチョンマットの完成! 白の糸で入れたけど、気に入ってくれるかな?
「……綺麗……結華、上手なんだ……」
「ふふ、これくらい簡単だよ!」
お兄ちゃん、珍しく嬉しそう……良かった!
「じゃあ2枚目のも、縫ってくねっ」
生地を重ねて、縫い始めようとしたけど……。
「あっ、そうだ!」
いいこと思いついちゃった!
「お兄ちゃん、縫ってみない? 分からなかったら私が教えるから!」
「……ん……僕がやったら、綺麗にできないと、思うけど……」
「そんなの気にしないよ!」
お兄ちゃんが縫ってくれたのを使いたいな……!
「……結華が、やってほしいなら……やる……」
「やったっ! お願い聞いてくれて、ありがと!」
お兄ちゃんに交代!
針を挟む指……白くて、細くて、とっても綺麗。
「ぬいしろは、これくらいの幅だよー」
「……さっき、ずっと見てたから……やること、大体分かる……」
お兄ちゃん、意外と躊躇なく刺してった……。
あっ……でも、ゆっくりだけど丁寧に縫ってってる。
「すごーい、ちゃんとできてるじゃん! ゲームしてるから、指先器用なのかな?」
「……ボタンの操作は、関係ないと、思う……あったとしても……細かい操作、あるゲーム、そんなにしてないし……」
普段と変わらずにおしゃべりできてる。わりと余裕そうだね?
「お兄ちゃんって、どんなゲームしてるの?」
「……ん……まあ、色々だけど……好きなのは……RPGとか、アドベンチャーゲームとか……要するに、物語が、メインにあるやつ……」
「へー、そうなんだ。それだったら、漫画とか小説とかは読まないの?」
この部屋、本棚ないけど……。
「……ゲームの画面を見てたほうが、まだ退屈じゃなさそうだから……結華がいるときは、いっつもゲームだけど……いないときは、タブレットで読書もする……」
「そうだったんだ? えへへ、やっぱりお兄ちゃんは優しいなあ」
「……アニメとか映画とか、一緒に見るほうが、良さそうだとは思うけど……普段見てなくて……頭の回転、本当に鈍いから、ついていきにくい……ゲームも、自分のペースでできないのは、苦手……」
お、お兄ちゃん……すんなり自分のことを貶さないで……!
なんだか聞いてて気が沈んじゃうよ……話題を変えないと!
「恋愛ゲームとかも、したりする?」
「……ギャルゲーは、あんまりしない……主人公を、好きになれないこと……僕には、結構あって……ヒロインの魅力が、半減しちゃうから……」
「うん……? それって、どういうこと?」
「……ん……」
あっ。お兄ちゃんの手、ちょっとだけ止まった。
「……なんというか……恋心が、ぼやけて見えるのかな……? うん……恋する気持ちに、説得力があって、ちゃんと伝わるほど……その子から、魅力を感じる……」
「なるほどー。そう言われたら、納得できちゃったかも!」
「……結華流に言えば……かわいいヒロインには、かっこいいヒーローが似合う、ってこと……」
そっかあ……お兄ちゃんの感性も、結構ロマンチックだったんだ。私と気が合うね!
お兄ちゃん、どんな女性がタイプなんだろ……?
「お兄ちゃんって、女の子と付き合ってたことはあるの?」
「……ないけど……そんなことできるような、子どもじゃなかったし……今もだけど……」
えーっ? そんなこと絶対ないのに!
多分、お兄ちゃんって自分のかわいさを感じてないんだよね。きっと子どもの頃からかわいいはずなのに……写真とか、残ってないのかな?
「……お兄ちゃん。いきなりでごめんね、昔の写真とかって持ってる?」
「ん……なんで……?」
「えっと……どんな子だったのかなーって、急に気になっちゃって……えへへっ」
やっぱり、唐突だったかな? ていうか、あんまり過去に触れたら怒っちゃうかな……。
「……ん……クローゼットのどこかに……小学生までのアルバム、あるかな……父さん、捨ててないかもしれないし……今探してても、いい……」
「ほ、ほんとごめんね!」
「……別に、謝る必要、ない……」
「うん、ありがとっ!」
思ったよりずっと上手だし、しばらくお兄ちゃんから目を離してても大丈夫そう。お兄ちゃんの優しさに感謝して、クローゼットの中を探しとこう!
それにしても、『捨ててないかもしれない』、かあ……。やっぱり昔、きっと何かはあったんだよね。
その何かまでは……触れちゃダメな気がする……。
「あ、あった……! これだよね?」
ダンボールの山をかき分けて、なんとか発見!
さあ……子どもの頃のお兄ちゃんと、こんにちは!
「か……かっ、かわいいっ……!」
え、待って……最初から最後のページまで、ずっとかわいさで埋め尽くされてるんだけど!?
公園で、校門で、運動場で……お兄ちゃんがお外に出てるよ!? こんなかわいい子がお外にいたら危なすぎるよ!?
ていうか幼稚園に入る頃には、もう今のかわいさのベースが完成してる……! しかもそこから、さらに限界を突き破って天使になってっちゃってる……!
お人形さんみたいに無表情なのは、小学生の頃からだったんだね? でもこんなにかわいかったら、きっとみんなにちやほやされてるはず!
「ちょっと、かわいすぎない……!?」
「……結華……小さい子どものこと、好きなタイプ……?」
「えっ? ど……どっちかというとそうかも?」
いや……このかわいさって、そういう次元じゃないよ!?
お兄ちゃん、もしかして……かわいいって感覚が人とずれてたり?
「……お兄ちゃん、私の顔ってどう見える?」
「……かわいいと思う……幼いけど、整ってて……いわゆる、美少女……」
「そうだよね!」
うん、感覚はいたって普通。だけど……お兄ちゃんのお顔のほうが、何倍もかわいいんだよ?
うーん。かわいさって尺度で男子の顔を測るっていう感覚が、お兄ちゃんにはあんまりないのかなあ?
ここまで無視できないかわいさだったら、そんなこともないと思うんだけど……。
あっ! ダメダメ、気がそれちゃってた!
「お兄ちゃん、そろそろ返し口つけとこっか!」
「ん……ああ……ごめん、忘れてた……」
「私こそ、ごめんね。ちゃんと見とくからね!」
今のお兄ちゃんのかわいさに気づいてるのは、私一人だけってことかあ……。
もったいない気もするけど、独り占めできてるって考えたら悪くないかも。
うん。私がお兄ちゃんのこと、しっかり見ててあげなきゃ!
「やった、2枚ともできあがりだね! お兄ちゃん、上手にできたねー!」
裁縫したのなんて学生の頃以来のはずなのに、ほんとに上手!
これからも、やってくれたら嬉しいな……!
「ん……ありがとう……」
あれ……ちょっと表情が、暗い? いつも、そんなに明るいわけじゃないけど……どうしたんだろ。
「もしかしてこれが見つかるの、心配?」
「……いや……こういうおそろいって、もっと……お似合いの人たちが、使うものかもって、思って……」
「えーっ? そんなこと気にしなくていいのに!」
私とおしゃべりしてて、そう思っちゃったのかな? お兄ちゃんは別にヒーローじゃなくたって、大丈夫だよ。
私は今、お兄ちゃんの隣にいるのが一番幸せなの!
「……ん……分かった。じゃあ、使う……」
うん、表情が元に戻った……気がするよ。良かった、使う気になってくれた!
お兄ちゃん、ご飯の時間がもっと楽しみだね!
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