第279話 捜索
ダンジョンギルドの副ギルド長ジェーンさんにビクトリアさんの捜索を依頼された。
このシュレアにやってきて半分詰んでいた俺を助けてくれた人なので快く引き受けた。
今日はダンジョンに潜る予定ではなかったので諸々の用意もしていなかったし、捜索が長引くかもしれないので、いったんうちに戻り、防具を整えてから母さんに遅くなるかもしれないと断って捜索することにした。
「ただいま」
『お帰りなさい』
「これから、服を着替えてダンジョンに行くんだけど、今日は遅くなるかもしれないから夕食の用意はいいから」
母さんがい居間の方から玄関まででてきた。
「どうしたの?」
「友達と会って、一緒に潜ろうってことになったんだ」
「そうなんだ。お友達は大切だけど無理はしないでよ」
「分かってる」
俺は2階に上がってすぐに防具に着替えた。タマちゃんは何も言わなくてもスポーツバッグから出てリュックの中に入った。出来るスライムは違う。
「それじゃあ行ってくる」
『気を付けて』
うちの玄関先から専用個室に転移してそこでクロ、シロ、大きい方のメイス、それにナイフを装備した。
どういったモンスターが出てくるか不明なので念のため『祈りの指輪』と『心の指輪』もはめておいた。
フルフェイスヘルメットを被りキャップランプを点灯し手袋をはめてリュックを背負い準備完了。最後に冒険者証をカードリーダーにタッチして俺はシュレアダンジョン1階層の渦の先に転移した。
時間が惜しいので冒険者の邪魔にはなるかもしれないが、冒険者がいようといまいと坑道内を走ることにした。
ディテクター×2、ディテクトトラップ、レビテート。これはもう三種混合ワクチンだな。
ディテクター×2では移動中の冒険者らしき反応と、モンスターらしき反応があった。
「フィオナ、座ったままで要所の前まで来たら指で方向を指すだけでいいからな」
フィオナがうなずいて指をさした。
俺はフィオナが指し示す方向に駆けだした。
坑道を黙々と歩く
何度か後ろから怒鳴られたが無視して駆け続けた。こっちの言葉しゃべれないし。
10分もしないうちに階段が見えてきた。
サイタマダンジョンには改札が付いているが、それ以外区別できないくらいそっくりだ。
3時間ちょっと駆け通して17階層から18階層への階段前までたどり着いた。ここまでサイタマダンジョンと同じ洞窟型ダンジョンで階層が下るにつれて坑道も広くなっていた。
途中モンスターの反応はそれなりにあったが進路上にはいなかったので戦闘なしでここまでやってきている。
腕時計を見たら4時半。なかなかいい調子だ。
階段を下りれば即戦闘の可能性もある。
階段下に居座っているモンスターの情報がない以上用心するに越したことはないので、念のため力を増す魔法ストレングスと素早さを増す魔法スピードを意識した。
何か変わった感じはしないのだが、戦いともなれば相手のスピードを遅く感じるし、こちらの武器の破壊力が増していることで魔法の効果を実感できる。
もし実感できないなら、それは相手がこれまでのモンスターなどより高速で、固いということだろう。
ふー。
「フィオナ、念のためリュックのポケットに入っていてくれ」
フィオナが俺の右肩から飛びあがった。そのあとリュックの後ろ側がごそごそしたので、俺は階段を下り始めた。
階段を下り切る前から階段下の空洞の真ん中に、毒々しい上にぬめった感じの緑色をした3メートルほどの円柱がうねりながら鎮座していた。ディテクターには目の前のモンスターの反応しかない。
近くに冒険者がいると戦いに巻き込んでしまうためあまり派手なことはできないのだがこれなら問題ない。
まずは小手調べ。
俺はファイヤーアローを撃ち込んでみた。
ファイヤーアローはその不気味モンスターの表面に孔を空けたのだが、貫通することもなく、孔もすぐに塞がった。
不気味モンスターからは俺に向かって緑色の液体のようなものが発射された。そいつがゆっくり近づいてくる。
見た目に危なそうな液体だったのでファイヤーアローで迎撃したところ液体は飛び散って空洞の路面に落っこちた。
液体を浴びた空洞の路面は、泡立ち白い煙を上げた。
吸っちゃだめな煙だ。こいつを仕留めるのに3分もかかるわけないから息止めていよう。
俺にとってはお客さんには変わりない。
それじゃあ接客業を真面目にこなしましょう。
息を止めた俺はサンダーを放ち、続けてウォーターカッターを5連射した。
紫電が走り、その後を追うように上下50センチ間隔で5段になったウォーターカッターがうねりを止めた不気味モンスターに命中した。
不気味モンスターは5段ウォーターカッターでスライスされて、中身をぶちまけながらつぶれて路面に広がった。
不気味モンスターの体液はウォーターカッターで薄められたハズだが体液のかかった路面は泡立ち白い煙がもうもうと立ち込めてしまった。
ちょっとまずかったか?
「主、あの煙は燃えるかもしれませんし、燃えなくとも高温で変化するかもしれません」と、リュックの中からタマちゃんの声がした。
確かに。
それじゃあ、ファイヤーボールで一気に片付けてやろう。
ファイヤーボール!
白くギラギラ輝く火の玉が、煙を上げながら泡立つ路面の真ん中に命中した。
ファイヤーボール単体の爆発以上の爆発が起きてすっかり毒雲も晴れてしまった。
爆風はそれなりに強かったが、ストレングスをかけていたおかげか、踏ん張ることができた。
フルフェイスのヘルメットをしていても爆発音は耳に響きキーンとなったのだが、ヒール一発で元通りになった。毒ガスをある程度吸っていたかもしれないがこれで一安心。
「ナイスアドバイス、タマちゃん」
モンスターの核がどこかにあったのだろうが、今の爆発で吹き飛んだようでそれラシイものはどこにもなかった。ま、いっか。
核は粉々になってしまったようで見つからなかったが、空洞の何個所かに、武器や何かの金具などが転がっていた。
おそらく不気味モンスターから逃れて階段までたどり着こうとしたダンジョンワーカーたちの持ち物で、それが今の爆発でそこら中に飛び散って散り散りになったのだろう。
確かに今のモンスターを強力な遠距離攻撃手段を持たない冒険者がたおすことは至難だろう。
ここのダンジョンがサイタマダンジョンとかと同じようにゲートキーパーが階段前を守っているとして、今の不気味モンスターは流れのゲートキーパーだったのか? 流れのゲートキーパーと言うとすごく矛盾した言い方だが、実力的にはゲートキーパー、サイタマダンジョン評価で言えば25階層以深の実力があったんじゃないだろうか。
モンスターを片付けた次はビクトリアさんの捜索だ。
リュックのポケットに避難していたフィオナも定位置に戻ってきた。
「フィオナ、次はビクトリアさんの捜索だ。任せたぞ」
フィオナがおおきくうなずいて、前方の坑道入り口のひとつを指さした。
このダンジョンがサイタマダンジョンと同じ仕様なら、死体はダンジョンに吸収されているはずなので、フィオナがビクトリアさんの気配を感じ取っている以上ビクトリアさんは生きている。
俺は3種再度混合ワクチンを発動させてフィオナが指し示す坑道に向かって駆けだした。
モンスターらしき反応はそれなりにあるのだが出くわすこともなく5分ほど曲がりくねったり分岐したりする坑道の中を駆けていたらディテクターに単体の反応が現れた。
モンスターの反応とは明らかに違う。
そこから少しスピードを落として進んでいったらランプの光芒の中に坑道の壁に寄りかかるようにして座り込んだ人の姿が浮かんだ。その人物の足元にはリュックが転がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます