第186話 石像の間


 俺はディテクトトラップを意識して巨人像が並んだ大広間を眺めたところ、赤い点滅はなかった。


 罠があったとしても解除すればいいだけだが、大広間の中は巨人像たちが息を吹き返して今にも俺に襲い掛かってきそうな不気味さが漂っている。

 どうせダンジョンの中、誰に怒られるわけではないので不安要素である巨人像をあらかじめ破壊してしまうのも一つの手ではある。

 ダンジョンに文化があるとは思えないが、そこまでしてしまうと文化破壊者なので止めておくことにした。

 その時の俺の判断を数分後の俺は悔やむことになるのだった。なんてな。


 左右の壁際に立つ巨人像の数はそれぞれ5体ずつの計10体。10体全部正面の宙を見つめているように見えるのだが、ヘルメットの中の両目は俺を見据えているかもしれない。まあいいけど。

 動き出せばこれだけの巨人、気配ですぐわかる。


 正面の座像がボスのようなのでそいつを調べるため俺はまっすぐそいつに向かって歩いていった。


 座像の正面に立ったのだが何も変わったところはなかったし何も起こらなかった。

 仕方ないので座像の椅子の後ろの壁を調べることにした。


 そうしたところ、壁にカギ穴らしき穴が空いていた。

 ただ、このカギ穴、カギ穴というよりスリットに見える。

 試しにタマちゃんに金のカギを渡してもらってそのスリットに入れようとしたのだが、当たり前のごとく金のカギはスリットに入ったもののスカスカだった。

 手にした金のカギはタマちゃんにまた預かってもらった。


 この穴が何の意味もないただのスリットということはないだろう。

 となると、このスリットに合うカギ?を探さないといけない。

 見つかる可能性が一番高いのはこの部屋の中。

 次がこの階層内のどこかの部屋の中。こうなってくるともはや発見不能。

 これまでダンジョンはこういった事柄に対して比較的親切設計だったので、ここでもおそらく親切設計だろう。


 俺はその気になって大広間の中を見て回った。


 30分ほど部屋の中を見て回ったのだが、カギはおろか、その手がかりも発見できなかった。


 おかしいなー。


 フィオナはリュックのポケットから這い出して俺の右肩に止まってキョロキョロしている。かわいいなー。


 しかし、困った。

 この大広間に手掛かりがないとすると、この階層を総当たりで調べていかなくてはならない。

「フィオナ、そこの椅子の裏の壁にあるスリットに合う何かを探しているんだけど、フィオナは見つけられるかな?」


 フィオナは一度うなずいて、俺の肩から飛びあがり壁のスリットの前まで飛んで行って戻ってきた。

 そして、俺の背中のリュックをツンツンつつき始めた。

 どういうこと?


 リュックの中に入っているもの?

 タマちゃんの他には大したものは入っていないのだが、タマちゃんの中にはいろんなものが収納されている。だけど、カギのようなものは金のカギぐらいしかない。


 可能性があるのはこの階層で見つけたアイテム。

 『白銀のメイス』と『ポーション』それに、階段を上った先の『片刃のナイフ』『大金貨』『白銀のヘルメット』こんなところだ。


 メイスとポーション、ヘルメットは明らかにスリットには入らないだろう。

 金貨とナイフはあのスリットに入りそうだ。

 あのスリットはコインの投入口に見えないこともなかったが、コインの直径よりだいぶ大きい気がする。まずは『片刃のナイフ』をタマちゃんに出してもらった。


 さっそく鞘から抜き出して片刃のナイフの刃を見たところ、その気になって見るとスリットに合いそうな気がし始めた。


 椅子の裏側に回って壁の穴に上に反ったナイフの切っ先からスリットにナイフを差し込んだところ、ナイフはすんなり中に入っていきナイフのツバが壁に当たったところでカチリと穴から音が聞こえた。


 このナイフが正解だったようだ。

 とはいうものの、それらしい音はしたが壁になんの変化もない。

 後ろに渦ができたかもしれないと思って振り向いたのだが巨人像の座る椅子の背があるだけだった。

 おっかしいなー。


 壁になにか変化がないかと思って下から眺めていたら、右肩に乗っていたフィオナが急にリュックの方に移動した。

 あれっ! と思っていたら、俺の背後で動きがある。重たいものが動いている気配だ。

 おいおいおいおい。

 こいつは巨人像が動き出した気配だぞ。

 俺はクロを引き抜きかけたがめて『白銀のメイス』シロを右手に持ち椅子の裏から飛び出していった。


 座像は動いていないようだが、手前の2体の巨人像が最初の位置から動いている。

 その2体以外の巨人像はまだ動いていなかったが、俺が開けてそのままにしていた大広間の扉は閉まってた。


 結構連携が取れているじゃないか。

 おそらく今動いている2体の巨人像をたおしたら順に巨人像が動き出し、全部で10体の巨人像を全てたおせば座像が立ち上がってくるのだろう。

 最後の巨人をたおせば、扉が開くか、別の道がひらけるかどちらかに違いない。


 巨人像、いや動いている以上巨人像ではなく巨人そのものだ。俺は近い方の巨人に向かって突っ込んで行った。

 巨人は手にした戦斧せんぷを近づく俺に振り下ろしてきた。

 振り下ろされる戦斧の速度はそれほど高速でもなかったので、俺は後ろではなく前に避けながら巨人の足元に近づいて白銀のメイス、シロを巨人の膝の下あたりに叩きつけてやった。


 シロを叩きつけたところ、くうを切ったように手ごたえは何もなかったのだが、巨人の膝は斜め下から消失してしまい、巨人はそのまま前のめりに倒れ込んできた。


 俺は巻き込まれないよう巨人の後ろに回り込んだところで、巨人の健全な方の足の踵にシロを振るったら踵から足首にかけて消えてしまった。

 巨人は片足と両手で床に完全に倒れ込むのをこらえていたが、残った脚の踵がなくなったことで持っていた戦斧を持ったまま両手で床に手を突いてしまった。


 巨人は痛みを感じないようで、床についた手を動かして俺の方に体を向けようとしている。

 もう1体の巨人は、その巨人を回り込み俺に向かって大剣を振り下ろした。


 振りかぶって振り下ろすものだから、刃先が下りてくるまでに結構時間がある。

 余裕で大剣の刃先を避けたところ、巨人は大剣を横薙ぎにしてきた。


 サイドステップで斜め前方に移動したら、大剣はブワンと風を切って俺の脇をかすめていった。

 巨人の持つ大剣は見た感じは石でできた大剣なのだが、石のもろさはないようだ。

 かといって、俺がいただいて使えるようなものではないので、壊してしまったところで惜しくはない。

 つまりシロで受ければ大剣の刃が消えるはず。

 消えなくても、大剣の振るわれるスピードで俺が後退するなりすればダメージは受けない。はず。

 少なくとも巨人の持つ武器にもシロの消去効果が有効なら、あとは倒れ込む巨体に潰されなければいいだけだ。

 おそらく大剣も、床を這っている巨人の戦斧も同じ材質だろう。

 それでは、試してみよう。

 

 俺は大剣を持つ巨人の間合いに入らないようにUターンして、戦斧を持ったまま床を這う巨人に走って近づいていき、巨人の片手に向けてシロを振り下ろし、更に反対側の巨人の手首をシロで消去したら、巨人の上半身が床に倒れ込んできた。


 俺は巨人を避けるよう駆けて戦斧の頭、斧部分にシロを振るったところ、戦斧の頭の部分は半分ほど消えてなくなった。


 これでかなり戦いは楽になる。

 俺は、大剣を持つ巨人の間合いにわざと入ってやったら、巨人がまた大剣を薙いできた。


 バーカめ!


 巨人の大剣の刃先にシロを合わせたら、目論見通り刃先が消えてしまった。


 これで巨人についての様子見は終わりだ。

 俺は巨人に突撃し、ジャンプしつつ巨人の胴体に向けてシロを振るった。

 シロは巨人の胴体を両断することはできなかったが、みぞおち辺りを深くえぐり取った。


 俺が床に着地する前に短くなった大剣を巨人が振ってきたが、空中でシロを合わせることで巨人の大剣の刃は根元辺りが消えて残っていた、その先の剣身は座像の方に飛んで行った。


 胴体をえぐられても剣を振れるということは、胴体は急所ではなかったようだ。

 やはり巨人の急所は頭のような気がする。


 今度は床の上で這っている巨人に向けて走り寄った俺は、ヘルメットをかぶった巨人の頭部にシロを振り下ろした。


 巨人の頭部は大きく抉れそのまま巨人の力は抜けたようで、巨人は動かなくなった。

 頭が急所と分かったのだが、巨人の頭の位置は地上から10メートル近い。


 俺のジャンプではさっきのようにみぞおち辺りまでが限度だ。

 となると巨人の足を潰して、頭の位置を下げさせ頭部を破壊することになる。


 そう考えをまとめたところで、今まで動いていなかった3体目の巨人像が戦斧を持って動き出した。


 最初の巨人がたおれたから、予想通り補充されたということだろう。

 巨人たちは大きすぎるせいか連携を取るわけでもないので1体だろうが2体だろうが俺にとっては同じこと。特に問題はない。


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